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魔将Ⅱ⑮

 ヴォルメルスは自身が置かれた状況を把握すると青くなる。なぜならこちらからの攻撃は届かない。もしここで自分の術が障壁にあたり弾かれたのであればここまで動揺しなかっただろう。


 問題なのは何の手応えもなく攻撃がはね返される事だ。しかも、さらに厄介なのは、外側からの攻撃は通過するという術である場合には、一方的にやられる可能性があることだ。


(どうすればこの術を破れる?この柱を破壊すれば術は解けるのか?)


 ヴォルメルスはまずは動くことを選択すると柱の一本に向けて【双雷撃ツインライトニング】を放つ。


「な…」


 ヴォルメルスは驚愕する。柱には傷一つ付いていないのだ。


「やはりお前程度の術師では破壊は不可能だな」


 アルフィスが冷たい嗤いを浮かべヴォルメルスに言う。そこにヴォルメルスへの嘲りはない。ただ冷静に事実を指摘する怜悧さがあるだけである。


「貴様!!なんだこれは!!ここから出せ!!」


 ヴォルメルスの抗議をアルフィスは当然の如く無視すると、アルフィスは黙って術式を展開した。


 展開した術の名は【炎帝の裁き(ギルメド)】である。ギルメドはボルメア大陸の炎を司る神で罪人をその炎で灼き罪を浄化すると言われている。そのギルメドの名を冠した術だ。並大抵の熱量でないのは容易に想像できるというものだった。


 アルフィスの両手に魔力によって形成された炎の珠が現れる。その炎は太陽のように光を放ち始める。その事からもかなりの熱量があることをヴォルメルスは察するが、不思議なことに周囲は燃え上がるような事はない。


 アルフィスの【炎帝の裁き(ギルメド)】は、言ってみれば強力な爆弾のようなものだ。まだ爆発していない爆弾で吹き飛ぶものがいないように発動していない段階では【炎帝の裁き(ギルメド)】に殺傷能力は無いのだ。だが、一度発動してしまえば敵味方関係なくすべて焼き払ってしまう。そのため使いどころの難しい術だった。


「じゃあな」


 アルフィスが最終通告を行い炎帝の裁き(ギルメド)を放つ。アルフィスの放った小型の太陽は何も遮るものなく【魂の牢獄(ソウルプリズン)】の内部に入るとヴォルメルスの頭上に停止する。


 ヴォルメルスが防御陣を展開するのと炎帝の裁き(ギルメド)が発動するのは同時だった。


 発動した炎帝の裁き(ギルメド)はその凄まじい熱量と光を解放する。


 炎帝の裁き(ギルメド)の発した圧倒的な熱量はヴォルメルスの防御陣を一瞬で焼き払いヴォルメルスを灼く。


 ヴォルメルスは一瞬にも満たない時間で自らの体が灼かれるのを確かに感じた。だが叫び声を上げる前にヴォルメルスの体は一瞬で気化する。


 ヴォルメルスが消滅した数瞬後に光が収まるとヴォルメルスが存在したという痕跡すら焼き払われている。それを確認するとアルフィスは【魂の牢獄(ソウルプリズン)】を解く。


 あれほどの熱量が放たれたにも関わらず余熱はまったくない。炎帝の裁き(ギルメド)は魔力によって形成された熱であり、術の効力が消えればそれによる熱も存在を否定されたかのように消え去るのだ。


「さて…あとゴルヴェラは何体かな?」


 アルフィスがそう独りごちると、こちらに向かってくる複数の気配を感じる。アルフィスが気配のする方に目をやると、アレンとフィアーネ、『暁の女神』のメンバーが歩いてくるのが見える。


 アレンとフィアーネには怪我どころか消耗している様子もないが、『暁の女神』のメンバー達はかなり消耗しているようだ。その様子を見て、アレンが『暁の女神』を休ませるためにここに来たという事を察する。


「アルフィス、終わったのか?」


 アレンはアルフィスに気楽な口調で尋ねる。その気楽な口調はまるで学園で課題をやってきたかというような感じだ。


「ああ、俺が斃したのは一体だけだ。お前達は?」

「俺とフィアーネで斃したのは2体、『暁の女神』の方々が斃したのは1体だ」

「そうか、ウォルター達が一体斃したと聞いたし、お前の婚約者達が一体斃したとのことなので計6体か」

「あと5体か…じゃあ、そろそろレミアとフィリシアと合流して魔将を討ち取りに行くかな」

「おいおい、あと残り5体だろ。せめて同数になるまで待った方が良いんじゃないか?」


 アルフィスの言葉にアレンは考え込む。アレンが斃してきたゴルヴェラ達レベルならもはや勝利を収めれると考えての事だったが、アルフィスの言葉を聞いて念には念を入れるべきだと思ったのだ。


「確かにな、せっかく各個撃破することが出来る状況が整っているんだから、このままいくべきだな」


 アレンはアルフィスの言葉を受け入れて、このまま各個撃破を続けることにする。同時にアレンは戦場で少し気分が高まっている事を自覚する。


 『心の中は燃えたぎっていても頭の方は常に冷静でなければならない』、アレンの頭の中によぎった父ユーノスの言葉は、戦いの基本として教えられた事だった。


「いかん、いかん、どうも俺は戦場の空気に呑まれかけていたらしい」


 アレンの声にアルフィス達は苦笑する。ここまでゴルヴェラ達を相手に有利に事を運んでおきながらの用心深さに苦笑するしかなかった。


「まぁ、とりあえず『暁の女神』の方々に休息を取ってもらおう」


 アルフィスはアレン達にそう言うとアディラ達の元へ歩き出す。もともとそのつもりだったためにアレン達に異論は無い。


 歩きながらアルフィスはアレンに小声で話す。


「なぁ、アレン…」

「なんだ?」

「アナスタシア殿はさっきからブツブツと何を呟いているんだ?」


 『暁の女神』の魔術師であるアナスタシアが先程から何かしら呟いている事が気になった故のアルフィスの言葉である。


「それがリリアさんに聞いてみたんだが、『いつもの病気だから触れないで上げてください』って言われた」

「病気?」

「ああ、興奮すると時々こうなるらしい」

「…そ、そうか、でも何か『姫』とか『雪』とかそんな単語が聞こえるが何のことだ?」

「正直、わからん…」


 アレンとアルフィスは首を捻りながらアディラ達のもとに歩いて行った。


 そんな時にアディラが弓を引き、矢をこちらに向けているのをアレン達は見る。そのまま迷い無くアディラは矢を放つ。アディラの放った矢はアレン達の歩く隙間を抜けて遥か彼方に飛んでいく。


 キィィィィィン!!


 背後で金属同時がぶつかる音が響きアレン達は後ろを振り向く。見るとアディラの放った矢と共にもう一本の矢が落ちているのが見える。アディラが狙ったのはアレン達ではなくアレン達を狙って放たれた一本の矢であった。


 そしてアレン達が振り返った遥か先に魔獣に乗った弓を構えたゴルヴェラの顔が見える。その顔には驚愕の表情があった。


 それはそうだろう。いくら何でも飛来する矢を射貫くなどと言う芸当が果たして誰に出来るというのだろうか? もはやアディラの弓術を神業などという賞賛では間違いなく足りないだろう。


「アディラって、どんどん人間離れしてきたわね…」


 フィアーネのポツリと呟かれた言葉を聞いたアレンとアルフィスは静かに頷いた。


-------------------


 完璧なタイミングだった。


 殺気も放っていない。自分の放った矢は背を向けている人間の首筋を射貫くはずだったのだ。だが、それは阻止された。


 阻止したのは、人間達の集まる場所から放たれた一本の矢だ。


 飛来する矢を打ち落とすなどという芸当が出来る者が自分以外に存在するはずはない。いや、存在して良いはずはない。


 『許せぬ』それが矢を射たゴルヴェラの正直な感想であった。


 このゴルヴェラの名前はカイブル。ゴルヴェラ随一の弓の腕前を誇る男だ。カイブルは険しい目で矢を射たアディラを睨みつける。両者の距離は約400メートル程離れているがカイブルの目にはアディラの表情すら見ることが出来ていた。


 カイブルは矢をつがえ、もう一射する。


 もちろん、カイブルはこの一射で人間を射殺す事はかなわない事は十分に知っていた。にも関わらずカイブルが射た理由はアディラの実力を測るためだ。先程のような芸当が常に可能なのかを確認する必要があったのだ。


 より正確に言えば自分の相手として相応しい力量を持っているかを確認しようとしたのだ。


 カイブルは自分の腕に絶対の自信を持っている。自分が敗れるはずはないという自信が退却という選択肢を排除したのだ。


 ところが…


 アディラは放たれた矢を射ることなく回避を選択した。アディラはあっさりとカイブルの矢を躱す。


 カイブルはその様子を見て嗤う。所詮は人間、先程のはただのまぐれだったのだという思いがカイブルの心に芽生える。


 だが、それは誤りだという事をカイブルはすぐに知ることになる。


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