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騎士⑥

 アレンが四人に伝えたデスバーサーカーを斃した攻略法はこうだった。


 アンデットを斃す方法はただ一つ、核を破壊することである。デスバーサーカーとて例外ではない。デスバーサーカーは核に大量に吸収された瘴気などが体を形成している。そのために、体を切断したところで核から瘴気が放出され、それが切断された部位として再生するわけだ。

 しかし、核に貯蔵されている瘴気は有限だ。核から切り離された瘴気は消滅するので、再生すればするほど核に貯蔵された瘴気は消費される。見た目は再生したように見えても実際は瘴気を消費することで弱っていたわけである。

 アレンが腕を切り落とした時に、鎧を攻撃したのは、消耗を確認するためであった。デスバーサーカーを守る鎧も実の所、瘴気で構成されており、瘴気の消費量に応じて脆くなるのだ。

 あとは頃合いを見て、鎧ごと胴を両断し、核を貫きとどめを刺したというわけだ。


 特別な事ではなく、『弱らせてとどめを刺した』という至極まっとうな方法だった。



 説明を聞いた四人は目を丸くする。確かに正攻法であるといってもいいかもしれない。だが、あのデスバーサーカー相手にそんなことが出来る者がどれだけいるというのだろうか。しかも、アレンはデスバーサーカーとの戦いで終始圧倒していた。まったく危なげなく淡々と削り、とどめを刺したのだ。もはや、笑うしかないといった心境だ。


「アインベルク卿!!」


 突然、ヴィアンカがアレンに向かって騎士の礼をとり跪く。アレンはその行為に困惑する。ヴィアンカの次の言葉はさらにアレンの困惑を強めた。


「どうか、私、ヴィアンカ=アーグバーンを弟子にしてください!!」

「は?」

「今までのご無礼、お許しください!!どうぞ、この愚かな私を弟子に!!」


 ヴィアンカの懇願に、アレンの困惑が強まったが、さらに残りの三人の行動もアレンの困惑に拍車をかける。


「どうか!!私も弟子にしてください!!」

「アインベルク卿!!どうか私にご指導賜りたく!!」

「私も弟子の末席に加えていただきたく存じます!!」


 アレンもこの申出には正直、驚いた。最初の「お前の命令なんぞ聞かない」宣言からこの変わり様だ。さすがに年上を弟子にするというのは抵抗があったので、その事を伝えて弟子を思いとどまらせようとする。


「落ち着いてください。あなた方は年上でしかも近衛騎士でしょう。私の元で修行する暇があるのですか?」

「それでは、私は近衛騎士を辞めます!!」

「私もです!!」

「アインベルク卿のご指導を受けられるとあらば近衛騎士を辞める事にとまどいはありません!!」

「近衛騎士ではアインベルク卿の弟子にはなれないというのなら、近衛騎士の地位こそ無用でございます!!」

 

 四人はあっさりと近衛騎士の座を捨てると断言した。


 元々、この国の騎士は強さを求める傾向が強い。四人も近衛騎士を目指したのも、名誉欲が無かったとは言えない。だが、騎士の本能として強さを求める欲求があるのも事実である。若くして、近衛騎士となった彼らは、増長し、名誉欲の方が強くなったが、今回の強さの結晶ともいうべきアレンの強さを見てしまい、強さを求める本能が大いに刺激され、名誉欲を彼らの心から追い出してしまった。要するにアレンに憧れてしまったわけである。


「アインベルク卿!!先ほどまでの我々は身の程を弁えず、おごり高ぶっておりました。しかし、アインベルク卿の実力を知ってしまった以上、先ほどまでの自分の無知さを恥じるばかりです。どうか、この無知なる私めを指導していただけませんでしょうか」


 ウォルターが頭を下げる。その様子を見て、残りの三人もほぼ同様に跪きながら頭をたれた。


 年上の騎士達に丁寧に頭を下げられると、アレンもむげには出来ない。もともと、アレンは礼儀正しい少年だ。アレンが無礼な対応をするのは、アレンと大事な者へ無礼を働いた報復の意味合いが強い。相手が礼儀を守るならアレンもきちんとした礼儀を守るのだ。

 この四人も、先ほどの無礼を謝罪している。ならばアレンもこの四人の評価を改めるのはアレンにとって当然すぎる事だった。


「弟子入りの件は、条件付きで認めましょう」


 アレンの言葉は四人にとって天啓にも等しいものだった。アレンの弟子になれる可能性があることを理解したのだ。あとはその条件をクリアすればよいのだ。


「そ・・・その条件とは・・・」


 ロバートが不安げに尋ねる。


「あなた方の技量です。先ほどのあなた方の戦いぶりでは、話になりません」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「これから一ヶ月で強くなってください。一ヶ月後にその成長具合を見て、弟子にするかを決めたいと思います」


 わずか一ヶ月・・・。


 四人にとって短すぎる期間だった。アレンを納得させる技量をたった一ヶ月で身につけなければならないのだ。どれほどの鍛錬が必要か想像も付かない。だが、やらねばアレンに弟子入りは出来ないのだ。


「「「「やります!!」」」」


 四人は迷うことなく答える。


「・・・そ、それでは、一ヶ月後に我が家で試験を行うという事でよろしいですね」

「「「「はい!!」」」」


 四人が声を揃えて答える。


「そ・・・それでは、見回りを続けます」

「「「「はい!!」」」」


 この後、死霊が出たが、あっさりとアレンが斃し、この日の見回りを終えた。


 アレンは弟子入り候補を得るという思いも寄らない結果で今日の日課を終えた。


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