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魔将Ⅱ⑦

 少し不愉快な描写がありますがご容赦ください。

 アレンとフィアーネがクルコムドを斃した頃に、レミアとフィリシアが蛮勇を振るいアンデッド達を蹂躙しているゴルヴェラに狙いを定める。


 レミアとフィリシアに狙いを付けられたゴルヴェラの名前は『リラムンド』、自分の身長を超える長さの柄に、刃渡り1メートルを超える大きさの大鎌を持っている。


 レミアとフィリシアを見つけたリラムンドは騎乗している魔獣を促し、二人に向けて走らせる。


 リラムンドの顔に緊張はない。人間、しかも相手は女という状況に負けるという危険意識をまったく捕らえることが出来なかったのだ。

 それどころか、レミアとフィリシアの整った顔立ちを見て劣情を刺激されたのだろう。ただ惨殺するべき相手としてではなく性欲のはけ口として使おうという下卑た思考にとらわれている。


 ゴルヴェラの美的感覚は、人間のものと変わらない。そのためにゴルヴェラ達は人間達を殺すときに美しい異性を性的に暴行し、その後さらに嬲り殺すという事がよくあったのだ。


 このリラムンドもその例にもれず、人間を襲ったときに夫、恋人の前で女性を犯しその後で惨殺する事を好んでいた。


 人間達の怨嗟の声を聞きながら女を犯し、その後で惨殺するときにリラムンドは充実感に包まれるのだ。


 自分の獲物として二人の美しい雌がいる事にリラムンドは舌なめずりをする。


 魔獣を駆り踏みつぶしてしまえば、この雌二匹を楽しむ事は出来ないと、リラムンドは魔獣から降りる。


 その行為にレミアとフィリシアは首を傾げる。てっきり魔獣に騎乗したまま機動力を駆使してこちらを翻弄しようとするとばかり思っていたのだ。


「ねぇ…レミア、あのゴルヴェラの目的は何かしら? わざわざ有利な状況を捨ててくれるなんて、あまりにもこちらに都合が良すぎるわ」

「う~ん…別に大した事は考えてないんじゃない? 見てよ、あの嫌らしい顔…いかにも底の浅いアホがしそうな顔じゃないの」

「確かに街でレミアを見かけた男性と同じ顔をしてますね」

「…やめてよ思い出しちゃったじゃない。というよりもあなたも同じような目で見られてるわよ」

「…不愉快ですね」

「そうね…こいつなら殺しても問題にならないし、さっさと殺っちゃいましょう」


 レミアとフィリシアが物騒な結論に達する。レミアもフィリシアも街を歩けば劣情を催した男達に見られることに対して不快な思いをしているのだ。しかもその後に一緒に歩いているアレンに敵意を込めた目で見るのはさらに我慢が出来なかった。


 レミアとフィリシアがすでにリラムンドを殺す決意をしている事など露知らず。リラムンドは呑気にレミアとフィリシアの元に歩いてくる。


 リラムンドはレミアとフィリシアの間合いのギリギリの場所で止まる。どうやら、レミアとフィリシアを舐めているし、獲物として捉えているがリラムンドの闘技者としいての本能が間合いギリギリの所で止まらせたようだった。


「ほぉ…この雌二匹は中々美しいな。さて、どうやって楽しもうかな」


 リラムンドのこの言葉でレミアとフィリシアはこのゴルヴェラを嬲り殺す事を心の中で決定する。


 レミアとフィリシアはもはや殺気を隠そうともせずにリラムンドへ向けて放つ。二人の殺気を受けてリラムンドはニヤリと嗤う。人間如きがゴルヴェラである自分に殺気を放つという大それた真似をしたことに対して、それを踏みにじってやろうという嗜虐心が生じたのだ。


「くくく、人間如きがこの俺に生意気にも殺気を放つか…。身の程知らずもここまでいくと滑稽だな」


 リラムンドはあくまでレミアとフィリシアを格下と見ている。その事を察し、二人は内心ほくそ笑んでいた。


 レミアもフィリシアもリラムンドと対峙したときに戦いの準備を始めていたのだ。


「レミア…どうも、このクズは私達の純潔を奪おうと考えているようですよ?」

「そのようね…私達の純潔はアレンに捧げるべきなんだから、こんなクズがそんな大それた事を考える事自体が不快ね」

「どうします? まずは両手両足から切り落として顔を踏みつぶしましょうか?」

「フィリシアは優しいわね。両手両足の健を切ってから焼き殺したいんだけど」


 レミアもフィリシアもとんでもないことを話し合っているが半分は演技である。物騒な会話を聞かせることでリラムンドの意識を逸らそうという目的があったのだ。


「くくく…やれるものならやってみろ。そのアレンとやらの前でお前らを犯してやろう」


 リラムンドの言葉を二人は黙って聞いている。正直、聞く価値のある話は一切していないのだが、どうせ最後の愉悦の時間だし浸らせておくことにしたのだ。すでにレミアが罠を張っている以上、掛かったときの落差による怒りは凄まじいものになることだろう。


「じゃあフィリシア、殺りましょうか…」

「そうね…こいつ、やっぱり生かしておく価値はないわね」


 レミアとフィリシアはそれぞれ剣を抜き二手に分かれる。二人の距離は5メートルほどだ。


「まとめてかかってくるが良い。結果は変わらないのだからな」


 リラムンドの挑発にレミアとフィリシアはニヤリと嗤う。


「わかってるじゃない」

「クズのくせに状況判断はまともなんですね」


 レミアとフィリシアが一瞬で間合いを詰め、殺し合いが始まる。



 口火を切ったのはフィリシアだ。フィリシアは手にある魔剣セティスの能力を解放する。魔剣セティスは対象者に恐怖を与える魔剣である。フィリシアはこの魔剣セティスの能力を『四剣』の儀式により完全に自分のものとしている。


 魔剣セティスの魔力によりリラムンドの心に恐怖心が植え付けられる。突然の芽生えた恐怖心のためにリラムンドは狼狽する。人間如きに恐怖心を持ったことが信じられなかったのだ。

 そのためだろう、流れをレミアとフィリシアにしっかりと握られたのだ。魔剣セティスの能力は相手の感情に直接作用する。戦いの場においては、恐ろしい効力を発揮するのだ。


 懐に飛び込んだレミアは両手に握った双剣を振るう。まず狙ったのは足だ。実戦において足を狙うというのは効果がすこぶる高いのだ。

 しかもレミアが狙ったのは足の内側である。足の内側は血管や神経が集まっている箇所でありそこを傷つけられると戦闘力は著しく低下するのだ。


 リラムンドはレミアの足への斬撃を大鎌の柄の部分で受け止める。柄の部分は木製ではあるが、リラムンドは魔力を通すことで強化しておりレミアの剣であっても容易に切り落とす事は出来ないようだ。


 初撃を防がれたレミアであるが動揺はない。むしろ想定内と言わんばかりに、間髪入れずにもう一方の剣でリラムンドの首を狙う。


 だが、リラムンドは首に放たれた斬撃をまたも大鎌で受け止める。


 リラムンドの技量にレミアが『へ~クズのわりにはやるじゃない』というような嗤いを向ける。その一方でリラムンドは自分が格下とみていたレミアの技量に舌を巻いた。頬を伝う冷たい汗は魔剣セティスの能力によって生じた恐怖によるものではない。


「くっ」


 リラムンドの口から苦戦を告げる声がもれる。そこにレミアの斬撃と同等の鋭さをもったフィリシアの斬撃が放たれる。リラムンドはかろうじて回避に成功するが、もはやその顔に先程までの余裕はない。


 レミアとフィリシアの攻撃には一切の手加減はない。すべて急所を狙ったもので、躱し損ねれば、それで命が終わるような攻撃だった。


 しかも、それが間断なく放たれることでリラムンドは防戦一方になる。


(まずい…このままでは押し切られる。この俺が人間のメス二匹如きに!!)


 フィリシアの袈裟斬りをリラムンドは柄で受ける。そこにレミアの斬撃が脇腹目がけて放たれる。


「くっ」


 リラムンドはかろうじてレミアの剣を躱す事に成功するが、状況は一向に改善しない。いや、レミアが斬撃を放つと同時に背後に回り込もうとしたために、レミアとフィリシアの挟撃を受ける形となってしまい、状況はさらに悪くなったのだ。


 フィリシアの突きが顔面、腹、心臓、肩、足と立て続けに放たれ、リラムンドはかろうじて躱したが、足に放たれた突きを完全に避けることは出来なかった。フィリシアの剣先5㎝程がリラムンドの太股に突き刺さったのだ。回避に専念していたが、あまりにも鋭い突きである事と、背後に回り込んだレミアに意識を一瞬逸らしたことで、フィリシアの突きに反応するのが一瞬遅れたのだ。


「ぐぁ!!」


 フィリシアが付けた怪我は戦闘に支障があるほどのものではないが、リラムンドに与えた衝撃は大きい。人間如きと見下していた相手に傷を負わされたのだ。


「くそが!!!」


 リラムンドの心に憤怒の感情が爆発する。リラムンドは大鎌を振り回し、フィリシアに反撃する。遠心力のついた大鎌の一閃をフィリシアはバックステップで躱す。リラムンドの大鎌の一閃はフィリシアだけでなくレミアも狙ったものでありレミアは柄の部分に剣を当て、大鎌の一閃を止めようとした。


 …が。


 レミアが剣を当てて受け止めた箇所を支点に大鎌がしなり、刃の部分がレミアを襲った。


 レミアはかろうじてもう一方の剣で刃の部分を受け止める。そこにリラムンドのニヤリという嗤いが目に入る。リラムンドはレミアの剣が大鎌の刃を受け止めた瞬間に引き、レミアの剣の一本を絡め取った。


 ザシュ…


 レミアの手から絡め取られた剣の一本は宙を飛び地面に突き刺さった。


「やるじゃない。私から剣を奪うのは滅多にいないわよ」


 レミアがリラムンドの技量に賞賛をおくる。だが、リラムンドの不愉快さは一切改善されない。レミアの賞賛はリラムンドを格下とみなした響きがあったからだ。


「随分と上から目線だな…人間如きが」


 リラムンドの言葉に、レミアとフィリシアは嗤う。


「そりゃそうよ。あんたは格下なんだから上から目線になるのは仕方が無いわ」

「私達の方があなたよりも遥かに高みに立っているのですから当然でしょう。事実を指摘してなおかつあなた如きを見下さないようにするなんてそんな器用な真似は出来ないんですよ」

「まぁ、するつもりもないけどね」

「レミア、そこまで身も蓋もない言い方したらあまりにも惨めですよ」

「それじゃあ、フィリシア、後任せても良い?この程度の奴に2人がかりなんて恥ずかしいわ」

「良いですよ。この程度なら私一人でも問題ありません」


 この状況になってもレミアとフィリシアはリラムンドを挑発する。


「どこまでも虚仮にしおって!!」


 リラムンドが激高した瞬間にフィリシアがリラムンドとの間合いを詰めると斬撃を見舞った。レミアは動かない事を視界の端にとらえ確認すると意識をフィリシアに向ける。


 フィリシアの袈裟斬りがリラムンドに放たれる。リラムンドはフィリシアの袈裟斬りを大鎌の刃の付け根で受けると魔剣セティスを絡みとると同時にフィリシアの首を刎ねるつもりだった。


 キィィィン!!


 リラムンドは狙い通りフィリシアの袈裟斬りを大鎌の刃の付け根で受け止めると絡め取ろうと鎌を引こうと力を込める。


「な…」


 しかし、リラムンドの背中に鋭い痛みが発すると鎌を引くことが出来なくなる。そこにフィリシアが柄に沿って剣を滑らせるとリラムンドの両手の指を切り落とした。リラムンドの大鎌は両手の指とともに地面に落ちる。


「ぎぃやぁぁっぁぁ!!」


 リラムンドの口から苦痛の叫び声が放たれる。


 リラムンドは自分が指を切り落とされる原因となった背中の痛みが生じた理由を確認するために振り返る。


 そこには冷たい目で見下ろすレミアの姿があった。




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