魔将Ⅱ①
登場人物がかなり増えました。
説明回みたいなものですので、そのつもりでよろしくお願いします。
アレン達は転移魔術により魔将達を迎え撃つ場に立っていた。
アレン達が魔将達を迎え撃つ場所として選んだのはレーグル平野である。
このレーグル平野はルジアムから北部約20㎞の地点にある平野である。土地は痩せておりあまり農業に向かないために周囲に村はなかった。この平野を超えると街道が分岐するため、選択肢を絞るという意味でもこの位置を戦いの場に選んだのは当然であった。
またアレン達は森の手前に布陣することで、魔将達が森を出た所で迎え撃つ形になる。森の中にある道は道幅が狭く大軍であってもその数の利を活かすのは非常に難しい。
森にしかれている街道は2㎞ほどの長さであり、一度入ってしまえば容易に身動きのとれない場所である。まさに守るにはうってつけの場所なのだ。
「さて…それじゃあ始めようか」
アレンがフィアーネに言う。フィアーネは頷くとアンデッドの召喚を始める。
フィアーネが詠唱を始めるとフィアーネの前の空間に魔法陣が浮かび上がる。
空中に描かれた魔法陣の直径は3メートルほどだ。そこからおぞましいという表現が最も適切な不死者の集団が現れる。その様子を見て息をのむ者達がほとんどだ。このアンデッド達が自分達に危害を加えることは決して無いことはわかっているのだが、それはそれ、これはこれである
フィアーネが描き出した魔法陣から後から後からアンデッド達が現れる。
スケルトンソードマン、スケルトンウォリアー、スケルトンアーチャーの集団が現れると整列を始める。
異様な光景であった。生を終え役目を終えた存在であるはずの体が動き、整列し自分達のために戦おうというのだ。あのアンデッド達は生きているのか、意識はあるのか、魂は?などという宗教的、哲学的な疑問が次々と考えさせられてしまう光景だ。
「すごいわね…」
冒険者の一人が呟く。
今回雇われた冒険者チームは2つだ。
一つは『オリハルコン』クラスの冒険者チームである『暁の女神』だ。
『暁の女神』の構成人数は5人だ。
リーダーは魔法剣士であるリリア=レグメスは25歳、身長はアレンよりも頭一つ分低いが女性としては長身で、ぱっちりとした目に愛嬌のある中々の美人である。元々貴族の出身だったらしいが、とんでもなく評判の悪い相手に嫁がされそうになったという事で家を逃げ出し冒険者になったというかなり異質の経歴をもった人物である。
戦士のエヴァンゼリン=マキオンは23歳、戦士としては小柄で線も細いという印象だがそれは見かけだけである。その鍛え抜かれた体躯には女性らしさは感じられないが、余計な脂肪は一切無い。無駄を極限までそぎ落とした戦士としての体であった。
持っている武器は両手剣である。この体格でこれだけの剣を振り回せるというだけでも、その実力がわかるというものだ。
神官戦士のユイメ=クルゴスは24歳、プラチナブロンドの長い髪をポニーテールにまとめた、『清楚』という表現が適切な女性である。だがその武器を見ればとても『清楚』という言葉があてはまるか疑問である。
彼女が持っているのは巨大な戦槌であったのだ。ユイメの身長の3分の2程の戦槌は本来筋骨逞しい男性であっても両手で扱うような巨大なものだ。だが、彼女のもう一方の手にはユイメの身長を遥かに凌駕する巨大なカイトシールドがある事から、この清楚な女性が片手で戦槌を振り回す事は明らかである。
レンジャーのミア=レムは23歳、レンジャーらしく身軽な装備をしている女性で、小柄なためだろうか十代でも通じそうな容姿だ。ショートカットに勝ち気な瞳が印象的な少女だ(年齢的には女性と称した方が良いのだが)。
最後はアナスタシア=レーギット、22歳の魔術師である。緩くウェーブのかかった金色の髪を持つ美女である。魔術の腕は凄まじく詠唱をせずに術を展開する事が可能だ。
ちなみにレミアに『戦姫』という二つ名をつけた人物であり、レミアに関わらず気に入った人物には二つ名をつけている。
もう一つの冒険者チームの名は『鋼』だ。こちらは戦闘に特化した冒険者チームであり気の荒い連中の集まりであった。結構な頻度で暴力沙汰を起こしており評判は悪い。
リーダーは戦士であるロイド=ハーリュン。28歳で金髪碧眼の美丈夫である。ミスリル製の剣、盾、胸当てを身につけている。
もう一人の戦士であるクラーク=デミルドは25歳、一目で戦士と認識できる風貌だ。短く刈り込んだ髪に頬に走る裂傷が戦士の風貌を演出している。
魔術師のミシェル=カトスは26歳、ミシェルを魔術師と一目で看破できる者はほとんどいない。その体格は戦士のそれであり持っている武器も斧槍であり、一般的な魔術師の姿との乖離は甚だしかった。
もう一人の魔術師はエルド=キュイ。23歳という話だが、容貌からは30代半ばに見える。残忍そうな見かけであり、敵対者を魔術を使って嬲り殺すのが趣味という男である。
神官戦士のイリューク=ノバストは27歳、筋骨逞しい体格から振るわれる戦槌の一撃は岩をも砕くほどである。
レンジャーのウシュラ=バルロイは25歳、目がつり上がりニヤニヤと嗤う顔は人に油断のならない奴という印象を与える。
「なぁ王太子さんよ」
『鋼』のリーダーであるロイドがアルフィスに声をかける。あまりにも無礼な言葉に周囲の近衛騎士達は色めき立つが、アルフィスが目で近衛騎士達を制すると、まったく気にしていないような表情と声で答える。
「なんだ?」
「俺達は俺達のやり方でやらせてもらいたい」
「好きにしろ」
アルフィスの言葉はロイドにとっても意外だったようで、困惑の表情が浮かんでいた。
「いいのか?」
「ああ、俺達とお前達では戦いの呼吸が間違いなく違う。拙い連携なら最初から考慮に入れるべきじゃない」
「そうか、話が早くて助かるぜ」
「ああ、但し『かかれ』と『後退』ぐらいの指示には従ってもらうぞ」
「ああ、当然だな」
ロイドはニヤリと嗤うと仲間の所に戻っていく。
「良いのですか?」
ロアンがアルフィスに聞く。
「ああ、俺達と彼らでは戦いの呼吸が違うのは事実だ。なら、それぞれの呼吸でやるのが一番効率が良い」
「わかりました」
アルフィスの言葉を受けてロアンは一礼する。
「アレン…」
アルフィスがアレンに声をかける。
「どうした?」
「『ゴルヴェラ』11体をどうやって斃すか考えてるか?」
「基本は各個撃破だな」
「そうか…それ以外にはないか?」
「もう一つはアディラだな」
「アディラ?」
「ああ、ゴルヴェラの意識をそらしてアディラに射殺してもらう」
「だが…それは」
「ああ、アディラに敵の狙いが集中することになる」
「そうだな」
アルフィスの声に苦い者が混ざる。アディラの弓は今回の魔将討伐の鍵になるとアルフィスは考えている。アレン、フィアーネ、レミア、フィリシアとアルフィスならばゴルヴェラを相手取ることは可能だ。だが、他の者はそうでない。そのためにゴルヴェラとの戦いを有利に進めるためにもアディラの弓が必要なのだ。
だが、そうなれば魔将達は当然まずアディラを狙うだろう。アディラが敵の標的となるのだ。それはアルフィスとしては避けたい所なのだが、それが最も有効な方法である以上、使用しないまま敗れでもすれば本末転倒だった。
「となるとアルフィスがアディラを守ってくれれば解決だな」
「俺が?」
アレンの提案にアルフィスが反応する。むしろ守るのはアレンの役割ではないのかという思いからの聞き返しであった。
「いや今回、アディラには俺を助けてもらう事に集中してもらう」
「お前を?」
「ああ、どっちみちお前がアディラの近くにいればこっちは何の心配もいらずにゴルヴェラを始末できる」
「ふむ…」
アレンの言葉を受けてアルフィスは考える。アディラを危険にさらすのは本意ではないが自分がアディラを近くで守れば良いのだ。
「…それしかないか」
「ああ、アディラの能力がこの戦いの鍵を握っているのは間違いない」
「わかった。アディラには俺も護衛につく」
「そうしてくれ。それからアルドさん、ロアン、近衛騎士の方々もついてもらう」
「そうか…となるとアディラの護衛は俺、アルド、ロアン、近衛騎士、傭兵、メリッサ、エレナだな」
「ああ、そこにデスナイトとスケルトンソードマン、アーチャーもつけよう」
「それなら何とかなるな」
「ああ、俺、フィアーネ、レミア、フィリシアがゴルヴェラ達とそれぞれ戦うから、アディラには俺達の支援をしてもらおう」
「シアとジェドは?」
「あの二人と俺の弟子達四人を組ませてゴルヴェラを一体任せたい」
「ふむ…」
一人では残念だがゴルヴェラに敗れるだろうが、あの6人が組めばゴルヴェラを討ち取れる可能性は十分にあった。
「さて…基本戦術はこんなものか?」
「ああ」
「それでは基本方針をみんなに伝えるとするか」
「そうだな」
アレンとアルフィスは戦術を全員に伝える。
魔将との戦いの基本戦術が決まったのだった。




