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演習⑮

 フィアーネは草原を駆けている。


 フィアーネとフィリシアが森の出口付近に配置されて魔物の部隊を撃破(というよりも殺戮)した後、投降した魔物達をフィリシアが監視する事になり、フィアーネはアレン達を襲っている魔物達の背後に回り込むために駆けていたのだ。


(多分、アレンの事だからそろそろ反撃に転じるわよね。急がなきゃ)


 フィアーネはアレン達と魔物達との戦闘を横目にスピードを上げる。


 アレンからは残念令嬢と時々からかわれるが、こと戦闘に関する限りフィアーネは残念という表現からは最も遠いところにあると言って良かった。


 アレンは先だって行われたゴブリンとの戦闘で出た死体で魔物達を包囲するつもりだったのだ。

 すなわち、ゴブリンの死体をそのまま放置し、魔物達がそれを抜けた時にゴブリンの死体を死霊術によりアンデッド化し背後を衝かせるつもりだったのだ。


 その事自体、フィアーネに異論はない。だが、戦力としては不安が残ったためにフィアーネ自身が背後に回り込み包囲をより強固なものにしようと考えたのだ。


 そして、ゴブリン達の死体を後続の魔物達が踏み越えた頃、フィアーネは気配を殺しながら魔物達の背後を衝ける位置に到着した。後は魔物達の意識が完全に背後から外れるタイミングを見計らうだけだ。


 その絶好のタイミングとは間違いなくの両側にアンデッドの集団が現れた時だろう。


(そろそろ…)


 そして、フィアーネの予想通りそれほど待つことなく両側のアンデッド達が一斉に立ち上がる。


 フィアーネは魔物達の動揺を感じるとすぐに召喚術でアンデッド達を召喚する。召喚したアンデッドはデスナイトが3体、スケルトンソードマンが20体、スケルトンアーチャーが20体だ。フィアーネが一度に召喚できるギリギリの数だった。


 そこにアレンの死霊術を仕込まれていたゴブリン達の死体が起き上がる。ゴブリン達の死体はゆらゆらと揺れ動き、自分の意思で立ち上がり動いているようにはまったく見えない。そして突如、ゴブリン達の死体のうち何体が激しく痙攣を始めると瘴気がゴブリン達の死体をつつみ膨張しデスナイトへと変貌する。


 どうやらアレンは蓋の役目をするゴブリンの死体達の何体かをデスナイトにするつもりだったらしい。


「さすがに抜け目がないわね」


 フィアーネはアレンの用心深さに感心していた。ゴブリン達を使役するだけでは戦力的に不安があったのだろう。そのため、デスナイトも仕込んでいたのだ。


「さて…これで包囲網は完成ね」


 左右のアンデッド達は前進し包囲を狭める。魔将候補は決して愚かではないだろうから勝てないとわかったら投降するかも知れない。それはそれで手間が省けるので結構なのだが、魔物達の様子を見る限り戦意は失われていないようなので、どうやら一戦は避けられないらしい。


 フィアーネがそう考えた時に魔物達の絶叫が聞こえて来た。どうやらアレン達の反撃が始まったらしい。




---------------------


「みんな!!手加減はもうしなくて良いから存分に戦ってくれ!!」

「わかったわ!!」

「待っていたぞ…その言葉を!!」

「任せてください!!」

「アレン様!!わかりました。メリッサ、エレナ!!」

「「はい!!」」

「「「「わかりました!!」」」」

「任せろ!!シア、魔術での支援を頼むぞ!!」

「任せて!!」


 アレンの言葉を皮切りにアレン、アルフィス、レミア、フィリシアがまず魔物達に突っ込み、続いてジェド、弟子の近衛騎士4人が続く。


 アディラは上空に向け弓を引き絞ると矢を放った。アディラの放った矢は凄まじい速度で魔物達の中心に向かって飛び、上空20メートル程の高さで爆発した。


 ドゴォォォォォォォォ!!!!!!


 凄まじい爆風が魔物達の頭上から降り注ぎ周辺の魔物達を肉片へと変える。アディラの鏃に込められた三発分の【爆発エクスプロージョン】が炸裂したのだ。


 アディラはメリッサの担いでいた新しい矢筒を受け取ると、立て続けに魔物達を射殺す。堅い皮膚、筋肉に守られたトロルとサイクロプスであったが、眼球と口の中はそうではなかった。


 本気のアディラが放った矢はトロルの眼球に突き刺さり、その威力を緩めることなく脳に達し絶命させたのだ。後退中に眼球を射貫いたが、十分に手加減したために眼球を射貫くに留まっていたのだ。


 アディラに射貫かれたトロルが倒れると周囲の魔物達は明らかに狼狽する。だが、その狼狽は長く続かない。アレン、アルフィス、レミア、フィリシアという魔物達にとって理不尽すぎる戦闘力を持った人間達が容赦ない反撃を始めたからだ。


 特にアレン、アルフィス、レミアは相手を引きずり込むために手加減して攻撃したためにフラストレーションがたまりまくっていたのだ。そのフラストレーションを浴びる形になってしまった。


 魔物達にとっては災難以外のなにものでもない。


 アレンの剣がトロルの腕をまるで細い枝を切り落とすかのように切断し、絶叫を上げようとした瞬間に首を刎ねとばした。


 アルフィスの剣がサイクロプスの胴を両断し、それを見向きもせずトロルの両足を切断し、返す刀でトロルの首を刎ねる。


 レミアの槍がトロルの心臓、首、眉間を刺し貫き、悲鳴さえ上げる時間を与えずにトロルの命を散らす。


 弟子の近衛騎士達4人、ジェド、シア達もトロル、サイクロプス達をそれぞれ斃していく。


 ロアン、アルドと4人の近衛騎士達は自らの主君とアインベルク関係者達の戦闘力に圧倒されていた。


「す…すごい」

「え?何、あれ…俺は夢でも見ているのか?」

「トロルとサイクロプスってあんなに簡単に狩れるんだったけ?」

「アルフィス殿下…俺達に見せていた実力なんて僅かでしかなかったんだ…」

「なぁ…アインベルク卿を見下している奴らって…」

「ああ、見逃してもらっているだけなのだな…」

「いや…というよりも相手にされてないだけだろ…」

「俺、帰ったらアインベルク卿を見下している奴を全力で止めるわ」

「ああ、そんなアホな奴のとばっちりでまとめてやられたらシャレにならん」

「でも、すごいな…騎士としてあの強さは憧れる」

「ああ」


 近衛騎士達がそう話している間にもトロルとサイクロプスは次々と殺されていく。トロルとサイクロプスの死体が周囲に転がり、アレン達は後衛にいたゴブリン、オーク達への攻撃にうつる。


 アレン達は散会しゴブリン、オーク達を蹂躙する。あまりの理不尽な存在であるアレン達の魔の手から逃れようとするが散会したアレン達4人により挟まれた形となり密集地帯となった場所に今度はシアの攻撃魔術の【火球ファイヤーボール】が数発まとめて着弾する。アディラの【爆発エクスプロージョン】に比較すれば小規模な爆発であったが犠牲者のゴブリン、オーク達にとっては何の慰めにもなっていないことは明らかであった。


 焼け焦げた死体が周囲に転がる。アレン達はそれを無視して次の相手に容赦ない攻撃を行う。周囲には悲鳴と怒号、いや魔物達の悲鳴と絶叫が巻き起こっている。


 アレン達が反撃を開始してすぐに両側、背後のアンデッド達も前進を開始する。スケルトンソードマン達は壁の役目で積極的に魔物達に攻撃を加えることはしない。積極的に攻撃を行ったのは周囲に配置されたデスナイト達である。


 この強力なアンデッド達は死の暴風となって魔物達の中に飛び込むと魔物達の殺戮を開始する。


 背後に包囲網を形成したフィアーネは自ら戦闘に参加するような事はせず、デスナイト達を魔物達に突入させた。

 フィアーネが戦闘に参加しなかったのは魔将候補を捕らえるためであった。もし、魔将候補が包囲網を抜け出そうとした時にフィアーネが自ら捕らえるつもりだったのだ。


「さて…どこかな…」


 フィアーネが魔物達を観察する。魔将候補は用心深い正確をしていると言うことなので周囲の護衛はそれなりの存在だろうと予測する。フィアーネが突入させたデスナイト達を迎え撃ったのはトロルとサイクロプス達だ。


 殺到するデスナイト達にトロルとサイクロプスが迎え撃つ。アレン達から見ればデスナイトとトロル、サイクロプス達との戦闘など子どもの喧嘩にも等しいものであるが、普通の常識で考えると迫力がある凄まじい戦いであった。


 突入したデスナイトは計8体、トロル、サイクロプスは30体程だ。数の上ではデスナイト達が不利だが、個別の戦闘力ではデスナイトに軍配が上がるだろう。


 デスナイトの一体がサイクロプスに斬撃を見舞う。凄まじい斬撃がサイクロプスの腕を斬り落とした。


 サイクロプスの口から絶叫がほとばしるが、その歩みを止めることは出来ない。接近したサイクロプスはデスナイトを羽交い締めにしようとするも片手のために上手くいかず、その間にデスナイトの剣がサイクロプスの心臓に刺し込まれサイクロプスは絶命していた。しかし、その巨体が倒れ込むとき、デスナイトもまた巻き込まれてしまった。

 サイクロプスに巻き込まれたデスナイトは起き上がる前にトロル、サイクロプスの持つ棍棒で滅多打ちされる。絶え間なく滅多打ちされていたデスナイトの核が棍棒の打撃により破壊されデスナイトは構成していた瘴気を失い消滅する。


 デスナイトとトロル、サイクロプス達の激しい戦いを見守りながらフィアーネは目的の魔将候補を探す。


 アレン達がゴブリンやオーク達を斬り捨てながら戦場を走り回っているのが目に入る。すると妙な動きをする者達がいるのをフィアーネは見つける。


「あれだ!!」


 フィアーネはそう一声叫ぶと走り出す。フィアーネが見つけた妙な動きとは、周囲に目を配り慌てずに包囲網の穴を探している一団だ。周囲がアレン達の理不尽な強さに浮き足立ちもはや魔物達は集団としての統制を失っている中で、その一団だけがまだ秩序ある行動をしているのだ。


 逆に言えば、魔将候補の指示が届いているといえる。この状況で魔将候補指示が届くのは魔将候補が近くにいることに他ならない。


 フィアーネが駆け出すと同時に、アレン、レミア、フィリシア、アルフィスもその一団に狙いをつける。考える事は一緒らしい。


 駆け出したフィアーネの前に一体のトロルが立ちふさがる。だが、フィアーネの前に立ちふさがるには、そのトロルの戦闘力はまったく及ばなかった。


 フィアーネはトロルの振りかぶった棍棒を軽く受け流すと右腕に正拳突きを叩き込む。その時に反対の手でトロルの反対側を押さえていたため、フィアーネの正拳突きの衝撃が突き抜けることはなくトロルの腕を押しつぶした。


 グシャ…


 トロルの腕が異音を発し骨が粉砕される。フィアーネは跳躍し叫び声を上げかけたトロルの顔面に凄まじい速度で裏拳を叩き込んだ。


 魔力により強化されていたフィアーネの拳の一撃を受けトロルの顎の部分が耐えきれずに吹っ飛ぶ。顔の下半分を失ったトロルの死体が倒れ込むのをフィアーネは見ることなく魔将候補と思われる一団に向け駆け出す。


 フィアーネがトロルを斃すのに有した時間はわずか7秒だった。だが、この7秒のロスの間にフィリシアが一団に躍り込み、護衛の魔物達を斬り伏せていた。


 続けてアレン達も飛び込み命令を下していた魔将候補と思われる魔物が逃げ出す。そこにフィアーネが立ちふさがる。フィアーネは魔物の腕をとると捻り地面に叩きつける。


 フィアーネが魔物を押さえつけると、押さえつけられた魔物が叫ぶ。


『タスケテクレ!!コウサンスル!!』


 魔物の声にアレンがすかさず命令する。


「ならば部下達に投降を指示しろ!!」


 アレンの命令はすかさず実行される。


『エギリメドコルスイゲバルゴア!!』


 魔物の声を聞いた者達が慌てて武器を捨てて跪く。どうやら彼らの言葉で投降を呼びかけたらしい。


『エギリメ!!』

『エギリメ!!』

『エギリメ!!』


 魔物の命令が下されると跪いた魔物達が一斉に叫び出す。その叫びは人語ではないためにアレン達には意味がわからなかったが、内容は明らかだった。


 こうして、アレン達は魔物達を制したのであった。


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