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演習⑬

 本格的に戦いスタートです。

「敵襲!!!!!!!!!」


 アレンは声の限り叫ぶ。アレンの言葉を受けて全員が天幕から走り出てくる。さすがに戦いに携わる騎士や傭兵の様子に寝ぼけた様子は見られない。そして、戦いに携わってないはずのアルフィスやアディラもまったくと言っていいほど動揺していない。いつでも戦えると言った感じだ。


 だが、本陣にアンデッド達がいた事には驚いたようで、事情を知らない者達は動揺するが、アレンの口から召喚したアンデッドという事がわかると動揺も沈静化する。


「フィアーネ、フィリシア」

「何?」

「なんでしょう?」

「今から退路を確保してもらう、おそらく向こうは挟み撃ちにするために部隊を二つに分けたはずだ。森の方に部隊が展開しているだろうから蹴散らしてくれ」

「わかったわ!!」

「わかりました!!」


 フィアーネとフィリシアが頷く。


「レミアは早速、デスナイト達を予定していた位置に展開させてくれ」

「わかったわ」

「タイミングはフィアーネとフィリシアが出た瞬間にだ」

「うん」


 レミアが天幕に隠されていたデスナイトの元に向かう。デスナイトと聞いてこれまた事情を知らない者達は驚愕する。デスナイトを使役できる人間などいるはずがないというのは常識だからだ。

 この場にいるアインベルクの実力を噂でしか聞いた事のない者達は、尾ひれがついたものと思っていたのだが、実際はかなり押さえられていた噂であった事を察した。


「森の伏兵はフィアーネとフィリシアが蹴散らします。これは確実ですから安心してください。森の方からは敵は来ませんから私達は背後に回った敵に集中しましょう」


 アレンの声にアルフィスが尋ねる。


「それでどう戦う?」


 アルフィスの言葉に不安の一分子も感じる事は出来ない。どう考えても負けるはずがないという自信が現れている。


「ああ、ここでは戦わずに、少し経ったら森の方へ後退する」

「後退?」

「ああ、アルフィスに正面から突っ込んでもらい、その後に全員が続くと言うのが一番手っ取り早いんだが、魔将候補は形勢が不利とみれば逃げ出すだろう。だから、俺達が下がって敵軍を引きずり込む。すでに両翼にはアンデッドの軍隊が配置してあるからそれで包囲網が出来上がる。そうしたら反撃開始だ」

「さっき、フィアーネ嬢とお前がやっていたのはそれか」

「ああ、反省した上での行動だ」

「まぁその辺はあとでじっくり聞かせてくれ」

「ああ」


 アレンとアルフィスの会話を聞いて全員に戦意が宿る。不意をつかれたのは仕方ないがそれでも十分に巻き返しは可能と言うことを察したのだ。


「アディラは後退するときに10メートル後退するごとに敵を射てくれ。スケルトンアーチャーの50体はアディラの命令を聞くようにしておいたから頼むぞ」

「はい!!」


 アディラは覇気に満ちた声で答える。どうやらアレンに頼られた事が相当嬉しいようだった。


「それから【照明イルミネーション】が使える者は頼む」


 アレンの声にシアとジェド、近衛騎士達、傭兵達が詠唱を始める。十数秒後に【照明イルミネーション】の魔法が発動し、周囲を明るく照らし出した。


 アレン達の背後に回り込んだ部隊が光に照らし出される。トロル、サイクロプスがそれぞれ40程の集団が前面に展開し、その背後にゴブリン、オークなどの魔物達がひしめき合っている。数は全部で500を超えているようだ。距離は400メートル程だ。ここまでお膳立てして未だに攻めかかっていないところを見ると、魔将候補は自分の策が上手くいった事で余裕を見せているのだろう。


 アレンはスケルトンソードマン達50体を前面に並べる。トロルやサイクロプスのような巨大な魔物に対して防御壁としては薄すぎるがアレンはかまわないと思っている。


「フィアーネ、フィリシア、それじゃあ頼む」

「わかったわ」

「まかせてください」


 フィアーネとフィリシアは森方面へ向けて走り出す。凄まじい速度で走り出した2人を見て続けてレミアにデスナイトを転移させるように指示をする。


「アルフィス、レミアは俺と一緒にあのデカブツ達を相手にしながら後退する」

「わかった」

「わかったわ」

「他のみんなは戦線を維持しながら後退する。森の方面からフィアーネとフィリシアが打ち漏らした魔物が来るかも知れないから十分注意してくれ」

「「「「「はっ!!」」」」」


 全員が返事を返す。


「それでは作戦開始!!」






-----------------


 フィアーネとフィリシアは暗い草原の中を駆けている。


「フィアーネ」

「どうしたの?」

「トロルが前面に10体ほどいるわ」

「そうね…」

「半分ずつ殺る?それとも私とフィアーネのどちらかが受け持つ?」

「う~ん…」


 フィリシアの問いにフィアーネは走りながら考える。どちらでも完勝は可能だろうというよりも可能と断言できる。問題はどちらの方がより効率が良いかだ。


「手当たり次第で良いんじゃない?どっちでも結果は変わらないし、誤差の範囲内と思うわ」


 フィアーネの言葉にフィリシアは笑う。


「フィアーネならそう言うと思っていましたよ」

「ちょっと、それじゃあ私が脳筋みたいじゃない」


 フィアーネが頬を膨らませる。その表情すら可愛く見えるのだから美人は得ねとフィリシアは思う。最も逆の状況ならフィアーネがフィリシアに対して思った事だろう。


「でも、そんなフィアーネのやり方が私も好きなのよ」


 フィリシアがそう言うとスピードを上げる。その走りを見てフィアーネはニヤリと嗤い自身もスピードを上げた。


 2人が一気に魔物達に迫ると、ゴブリン達が2人に向けて矢を放つ。だが、2人には擦りもしない。


 フィアーネとフィリシアに最初に血祭りに上げられたのは、ゴブリンの弓兵達である。フィリシアの振りかぶった斧槍ハルバートが、ゴブリン達をまとめて薙ぎ払った。


 フィリシアの斧槍ハルバートが振るわれる度にゴブリン達の体が切断されていく。首、腕、足、胴あらゆる部位がフィリシアの周辺に舞い散る。肉片と化したゴブリンの肉片が周囲に降り注ぎ血や臓物を浴びた魔物達はそれが肉片、血である事を認識するまでにフィリシアの斧槍ハルバートが今度はその魔物達に振り下ろされる。


 魔物達の怒号と悲鳴が周囲に響く。怒号と悲鳴の割合は圧倒的に怒号の方が多かったのだが、フィリシアの振るわれる斧槍ハルバートの残虐性のために徐々に悲鳴の方が増えてきた。


 フィアーネもフィリシアとほぼ同時に魔物達の中に飛び込み、死を撒き散らしていく。フィアーネの魔力によって強化された全身は凶器以外の何物でもない。フィアーネの拳をまともに受けたゴブリンの頭部は破裂したスイカのように粉々となった。その様を見たゴブリン達は自分の目が信じられなかっただろう。巨大な戦槌で打ち砕いたとしても先程のゴブリンの頭部のように粉々にならない。あまりにも常識はずれの一撃としか思えない。


 フィアーネの暴虐は留まらない。斬りかかってきたゴブリンの一体の腕を掴むとその腕を握りつぶす。『ぐしゃり』という表現しか出来ないような残酷な反撃だった。腕を握りつぶされたゴブリンの絶叫が周囲に響く。フィアーネは蹲るゴブリンの足を掴むと振り回し始める。最初の一振りでゴブリン達数体が吹っ飛ばされ肉片とかしていく。振り回された哀れなゴブリンもその時に肉片と化してしまいフィアーネの手には胸から先をなくした死体だけが残った。


「まだ使えるわね」


 フィアーネはそう言うとさらにもう一振りする。またも数体のゴブリンが肉片と化した。その際にフィアーネがゴブリンの死体を見ると片足しか残っていない。


「たった二振りで…脆すぎるわ」


 フィアーネの言葉をもしゴブリンが解すればあまりの身勝手さに憤っただろう。いや、それとも恐怖に駆られて一歩も動けなかったのではないだろうか。


「まぁ…こんなにいるから大丈夫よね」


 フィアーネは周囲を見渡しニヤリと嗤う。その嗤い顔を見たゴブリン達はガタガタと震えだした。


 魔物の集団の背後からも怒号と悲鳴が聞こえ始める。どうやらレミアが転移させたというデスナイトが魔物達に攻撃を開始したのだろう。レミアが設置した拠点よりもかなり魔物達は森から離れていたので、微妙なタイムラグが生じたのだ。


 フィアーネとフィリシアはその事に気付くとニヤリと嗤う。


 すでにフィアーネとフィリシアが蹂躙した魔物達は80体を優に超えている。


 その段階になってトロル達が2人に殺到してくる。トロルの戦闘力はゴブリンとは比べものにならないぐらいに高い。ある意味、精神的な支柱となっていたのだ。フィアーネとフィリシアはトロルをまだ殺していなかったのは、最初にトロル達を殺してしまえばゴブリン達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出すだろう。そうするとそれらを追って行かなければならないのは面倒だったのだ。


 『手当たり次第』と言っていたが何も考えていない訳ではないのだ。


 フィアーネとフィリシアは視線を交わして頷くとトロルではなくゴブリン、オークに向かって走り出し再び蹂躙を開始する。


 トロルが動いたことで、ゴブリン達は生存の希望が芽生えたのだが、ことは彼らの望むようにはならなかった。しかも今度はオークの集団もフィアーネとフィリシアという理不尽な存在の蹂躙を受けることになったのだ。


 フィアーネはオークの腹に正拳突きを叩き込む。フィアーネの正拳突きはオークの内蔵を潰し、オークは凄まじい苦痛の中でその生涯を閉じようとしたが、フィアーネはオークの顔面を掴むと振り回す。またもオークとゴブリンの肉片が周辺に飛び散った。振り回されたオークは内蔵を潰された苦痛に加え、自らの手足が肉片になるのを感じさらなる苦痛を受けたまま生涯を終えた。


「う~ん、ゴブリンと強度は変わんないわね…」


 またも残念そうなフィアーネの言葉が口から発せられる。手刀で掴んでいたオークの首を切り落とすと呆然と恐怖の表情を浮かべるオークの一体にその頭部を投げつける。躱す事も出来ずにオークの頭部同士がぶつかり両方の頭部が砕け散った。


「あれなら丈夫そうね」


 フィアーネの視線の先には2人を追うトロルが目につく。ゴブリンとオーク達はフィアーネの視線の意味を察した。この人の形をした災厄は自分達が頼りとするトロルですら恐怖の対象でない事がわかったのだ。


 本能がこの2人の危険性を理解し、ゴブリンとオーク達は逃げだそうと体を反転させる。だが、そこにはフィリシアが作り出すフィアーネとは違う死が待ち構えていたのだ。フィリシアの振るう斧槍ハルバートの斧の部分はすでに犠牲者達の血、脂などの様々な体液で切れ味はほとんど失われているはずだったが、その斬撃にはまったく支障がない。


 両断された死体が周囲に散乱し、死というものがこの場では当たり前のように存在している。


「そろそろかな…」


 フィリシアの口から呟きがもれる。その呟きはゴブリンの断末魔の響きにかき消されたために誰の耳にも届かなかった。


 フィリシアは反転し自分達を追うトロルを斃すことを選択する。そしてほぼ同時にフィアーネもトロルに向かい走り出す。


 フィアーネはオークの頭を鷲づかみしてトロルに突進していく。頭を鷲づかみにされたオークが暴れているところを見るとまだオークは生きているようだ。


「でぇぇぇぃ!!」


 トロルの棍棒の一撃をフィアーネはオークの体を叩きつけることで破壊する。トロルの棍棒は根元からへし折られたが同時にオークの下半身も砕け散る。


「まずは…」


 フィアーネはオークの体を投げ捨てるとトロルの膝に正拳突きを放つ。フィアーネの正拳突きを受けたトロルの膝は砕け散りトロルは絶叫を放ちながら倒れ込んだ。フィアーネはすかさず倒れたトロルの延髄に貫手を刺し込む。魔力によって強化されたフィアーネの貫手は並大抵の槍よりもはるかに貫通力がある。フィアーネの貫手が延髄を切断し、トロルは永遠に苦痛から解放される。


「さて…と」


 フィアーネは手刀でトロルの首を落とすと、トロルの首を抱え上げる。身長3メートルを超えるトロルの首の全長は50㎝程度だが、フィアーネはそれを凄まじい速度で別のトロルに投げつけたのだ。そのトロルはかろうじて左腕で受けたが衝撃を吸収することは出来なかったのだろう。左腕の骨が皮膚まで突き抜けていた。


『ギィィィヤァァァァァァ!!!!!!』


 トロルの絶叫が響く。その絶叫を聞いてゴブリンとオーク達は呆然と立ちすくんでいた。自分達よりもはるかに戦闘力の高いトロルの絶叫など聞いたことはなかったからだ。


「うるさいですよ…」


 駆け込んできたフィリシアが跳躍しトロルの首に斧槍ハルバートを一閃させるとトロルの首が落ちた。


 しかし、この時フィリシアの斧槍ハルバートも限界を迎えていたらしく斧の部分から柄がへし折れてしまった。


「あらら…」


 フィリシアは斧槍ハルバートの柄に魔力を込めるとトロルに投擲する。凄まじい速度で投擲された柄はトロルの口に突き刺さり後頭部から突き出た。トロルは力を失い倒れ込むと周囲にズシンという音が響く。


 フィリシアは魔剣セティスを抜き放つ。トロル達はフィリシアに近づかない。見るとカタカタと震え始めているのだ。フィリシアは魔剣セティスの恐怖を増すという能力を使用していない。トロル達は本能で察したのだ。この人間のメスはこの剣を構える姿こそがこのメスのあるべき姿であるという事を…。


 トロル達の洞察というか本能で感じたことは正しい。


「さて…」


 フィリシアが動く。


 それがトロル達にとっての地獄の終焉だった。フィリシアの剣がトロルの一体の胴を両断する。両断されたトロルの上半身が地面に落ちる僅かの時間に、すでに次のトロルの首が飛んでいる。


 一呼吸で2体のトロルの命を散らしたフィリシアはその剣技をいかんなく発揮し、死体を量産していく。もはや戦闘でも蹂躙でもない。その様子を見ていたゴブリン、オーク達は武器を捨てただひたすら跪き慈悲を乞い始める。


 跪く者達は加速度的に増えていく。自分達の精神の支柱で会ったトロル達は、フィアーネとフィリシアに為す術なく殺されたのだ。そんな2人から逃れられると思えるほどゴブリンやオークは楽観的にはなれなかったのだ。


 その様子を見ても、2人は戦闘態勢を解除しない。


「降参するなら、周りの奴らにも呼びかけなさい!!!!」


 フィリシアの言葉が跪くゴブリン、オーク達の耳を叩く。この魔物達は人語を解さないがこの時にフィリシアが何を言ったかは本能で察したようだった。跪いた魔物達が口々に叫び始める。


 その叫び声を聞いた魔物達から武器を捨て跪き始めた。


「デスナイト達よ!!」


 フィアーネが叫ぶ。


「跪かない者達のみを殺しなさい!!」


 フィアーネの命令を受けたデスナイト達は跪かない者のみに攻撃を行う様になると、ゴブリン、オーク達は生き残るために跪き始める。


「これで終了ね」


 フィアーネの言葉にフィリシアは頷く。


 跪いているゴブリン、オーク達は顔を上げることも出来ずにガタガタと震えている。完全に心が折れていることがわかる。


 跪いているゴブリン、オーク達は約40体程度だ。200体前後の魔物達の部隊だった事から160体程が討ち取られたことになる。


 いずれにせよ、これで後顧の憂いはなくなったのだ。


 フィアーネとフィリシアはアレン達の方に視線を移すとそこでも激しい戦いが始まっていた。


 戦闘は筆の進みが良いです。楽しんでいただければ幸いです。

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