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演習⑪

 やっと本格的に戦闘開始です。


 長かった…

 アレンは索敵から戻るとすぐに全員を集め予想される敵襲への備えを指示する。


「魔将候補はおそらくすぐに来ます。全軍で来るか、先発隊が来るかのどちらかですが、確実です」


 アレンの言葉に反応したのはアルフィスだ。


「そうか布陣は?」

「まずはアルフィスと護衛の近衛騎士の方々が中央、フィアーネ、フィリシア、シア、ジェドはその隣に布陣、アディラ達はフィアーネ達の右斜め後ろ」

「ねぇアレン私は?」

「レミアは俺と一緒にその後衛で待機してタイミングを見計らって拠点にアンデッドを転移させてくれ」

「わかったわ」


 アレンの説明が終わると、全員が魔物を迎え撃つために準備に入る。


「アレン」

「どうした?フィアーネ」

「本気でやっていいの?」


 フィアーネの言葉に近衛騎士、傭兵達がアレンの言葉を待つ。フィアーネが強いという話は聞いていたがその要望から考えればとてもそのようには見えない。


「出してもらっても構わないんだが、条件が一つ」

「何?」

「魔将候補が現れたら本気を出してくれて構わない」

「どういうこと?」

「もし、まず来るのが先発隊だったときには魔将候補は来ないだろうから、油断させるためにもかろうじて払いのけたという感じにしたい」

「どうしてアレンは魔将候補がこないと思うの?」

「こちらの戦力が20人程だという報告を受けているだろうから、まずは100~200程の戦力で来ると思う」

「なるほど…もし、アレンの読みが外れて全軍で来たら?」

「その時は手間が省けていい。みんな本気を出して構わない」

「わかったわ」


 とりあえずフィアーネは納得したらしい。


「あのアレンさん…」

「何?」

「もし先発隊がおくられた場合ですが、アレンさんも戦闘に参加したらどうでしょう?」

「え?」

「もし先発隊が来た場合、アレンさんが魔物を斃してアンデッドにして使役してみたらどうでしょうか?」

「ふむ…」


 フィリシアの提案は悪くない。魔物の死体をアンデッドにすれば有利に事が進む。しかも死体をそのまま放置しておけば、地雷代わりにも使える。


「そうだな。先発隊の中に魔将候補がいなかった場合は遠慮無くアンデッドとしてこちらの戦力にしてしまおう」

「はい」


 フィリシアの提案をアレンは受け入れ、アレン自身も先発隊だけで来た場合は戦闘に加わることになった。そのため、当然ながらレミアも戦闘に参加することになった。


 周囲を見渡すと皆が迎え撃つ準備をしている。


 みんな表情に悲壮感がないのは、アレン達の実力を知っているか、アルフィスの実力の高さを知っているからだろう。近衛騎士達からしてみればアルフィスの実力を知っている以上、シアやジェドにしてみればアレン達の実力と容赦の無さを知っている以上魔物達に同情したくなってしまう。





「シアさんはジェドさんと恋人同士なんですか?」

「ち、違います!!そのジェドは…幼馴染みで…その…」


 アレン達から少し離れた所で、アディラとシアが話しながら迎え撃つ準備をしている。天真爛漫なアディラは緊張するシアとジェドに自ら話しかけ打ち解けていたのだ。アディラは公的な場では王女として振るまうが、そうでない時には年相応の少女としてふるまうのだ。


「え~絶対にジェドさんはシアさんの事好きだと思うな~」

「あう…王女殿下、声が…」

「あ、ごめんなさい」


 アディラの声が少し大きくなり、シアは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。


「そういう王女殿下こそ、アレンとどんな感じなんですか?」

「え~と…秘密ですよ♪」

「ずるいですよ~」


 そんな話をしているとフィアーネ、レミア、フィリシアが二人の会話に混ざる。


「何々?楽しそ~な、話ねぇ~」

「私達も混ぜなさいよ~」

「シアとジェドの事は気になりますもんね~」


 アディラとシアが振り返るとフィアーネ達がニヤニヤしながら立っている。そして準備をしながら、きゃいきゃい騒ぎ始めた。


 その様子をアレン、アルフィス、ジェドの三人は眺めている。


「あいつら…呑気だな」

「それもあるけど声結構デカイよな…」


 アレンとアルフィスがジェドを見ると顔を真っ赤にしている。アディラとシアの会話自体がすでにジェドの耳に入っており、恥ずかしさのあまり聞こえないふりをしていたのだ。


「それで君はあのをどう思ってるの?」

「え…その」

「アルフィス、お前性格悪いぞ」

「いや~他人の恋路は楽しいからな」

「王太子殿下…からかわないでくださいよ」

「いやいや、すまんすまん」


 アレン達は緊張とは無縁に迎撃態勢を整えていく。だが、その緊張感の無さは表面上だけだ。きゃいきゃい騒いでいる婚約者達も周囲の警戒を解いていないし、アレン、アルフィスも同様だ。





 そんな賑やかな準備が終わり1時間ほど経った時にアディラが叫ぶ。


「来ましたよ!!」


 その声に全員が森の方を見ると、ゴブリン達の集団が次々と森から出てくる。


「来たぞ!!全員配置につけ!!」


 アレンの声が響くと全員が配置につく。


 ゴブリン達は次々と森から出てくる。数はあっという間に100体ほどの集団になると陣形を作り始める。


 ゴブリン達の最前列には槍を構えたゴブリン達並び、その後ろには剣と盾、斧や盾で武装したゴブリン達が続く。陣形を見るにどうやらそのまま槍衾のまま突っ込んでくるらしい。

 どうやら先発隊だけで戦わせ様子を見るというのが魔将候補のとった作戦らしい、いや、ひょっとしたら様子見と言うよりもこの程度で十分と考えているのかも知れない。


「アディラ!」

「はい!!」

「射程に入ったら構わず射てくれ」

「はい!!」


 アレンの言葉を受けて、アディラが矢筒から矢を一本抜き構える。アディラが弓の準備をしたために傭兵のケリーも弓の準備をする。


 近衛騎士達もボウガンをセットしゴブリン達に狙いをつける。



 ゴブリン達は陣形を乱すことなくスピードを上げた。弓を放たれることを察して少しでも早く間合いを詰めるつもりなのだろう。


 ゴブリン達との間合いが200メートル程の距離となった瞬間に、アディラの弓から矢が放たれる。


「え?」


 ケリーが呆けた声を出す。どう考えても自分の射程の倍以上の距離だ。届くわけがないおそらく恐怖のあまり誤ったのだ。とケリーは思うが、ゴブリンの一体が倒れた事に驚愕する。


「え?」

「そんな…」


 驚愕に満ちた声が傭兵達の口から漏れる。


 続けてアディラは2射、3射と続けて矢を放つ。その度にゴブリンが射倒されゴブリンは苦痛の声を上げ絶命する。


 アディラの弓は正確にゴブリン達を射殺したが、数が違うためにゴブリン達の足を止めることは出来ない。100メートルを切ったところで、ケリーの弓からも矢が放たれる。


 ケリーの矢はゴブリンの眉間に刺さり刺さったゴブリンは絶命する。


「よし!!本気出します!!」


 アディラはそう言うと、矢を立て続けに放つ。


 キィシィィィン!!

キィシィィィン!!

キィシィィィン!!


 アディラの弓弦が立て続けに鳴り響き、その都度、眉間を貫かれたゴブリン達が絶命する。


 そこに近衛騎士達のボウガンが放たれる。8人のボウガンから放たれた矢は2体のゴブリンを射殺したが、当然、ゴブリン達の勢いを殺す事は出来ない。近衛騎士達はボウガンを投げ捨て、剣と盾を構える。

 

「フィアーネ、レミア、フィリシア!!」

「「「まかせて!!」」」


 アレンが声をかけると三人は飛び出していく。槍衾を崩しておかないと近衛騎士や傭兵達が思わぬ不覚を取る可能性があったからだ。


「よし…行くか!!」


 アルフィスは剣を抜き、ゴブリン達の眼前に歩み出る。静かな歩みはとてもこれから戦いの向かう感じではない。


 アルフィスの歩みは静かだが敵にとってはこれ以上ない危険なものだ。アルフィスは槍衾の間をするりと抜けてゴブリン達の間合いに入り込み剣を振るう。首を落とされたゴブリン達数体が自らの死に気付かず3歩程進んで倒れ込む。そのままアルフィスは槍を構えて進むゴブリンの背中から容赦なく刃を振るう。


 再び数体のゴブリンがその命を散らす。後ろの列のゴブリン達はアルフィスに殺到するが、アルフィスの剣は鋭くゴブリン達を斬り捨てていく。後ろの列のゴブリン達にとって腹立たしいのは、アルフィスの狙いはあくまで前列の槍を持つゴブリン達という事が解っていたからだ。いわばついでに斬り捨てられているのだから、ゴブリン達の怒りは増すばかりだった。


 だが、強大な戦闘力を持っているのはアルフィス一人だけではなかった。フィアーネ、レミア、フィリシアが前列のゴブリン達の槍をかいくぐりその戦闘力を発揮したとき、ゴブリン達は自分が死地に居ることに今更ながら気付く。だが、気付いた時には遅かった。


 フィアーネの拳に打たれたゴブリンは骨を砕かれ、喉を潰され次々とその命を終えていく。

 レミアが槍を振るい顔面、喉、心臓を正確に貫いていきゴブリン達の死体が周囲に転がる。


 フィリシアの振るう斧槍ハルバートを受けたゴブリンは真っ二つに両断され宙を舞う。


『ギヤァァァァァァ!!』

『グギィィ!!』

『グギャァァァァァ!!』


 ゴブリン達の断末魔の叫びが周囲に響くと、近衛騎士、ジェドも戦いに加わるとあっという間に乱戦となった。


 そこにシアの【火球フィイヤーボール】がゴブリン達の後衛に放たれる。【火球ファイヤーボール】を受けたゴブリン達数体が黒焦げの死体となって転がり周囲に肉の焼ける嫌な臭いが充満する。


「シア、アディラ達の所に」

「わかったわ」


 アレンの指示に従いシアがアディラ達の方へ移動する。


 アディラの方を見ると、アディラにゴブリン達が向かっていくが、アディラが立て続けに射殺し、まともに近づくことは出来ない。もし、近づいたところで、メリッサ、エレナという強力な護衛がついている以上、問題はないだろう。


 アレンに師事している四人の近衛騎士達の戦いぶりに眼をやると、この四人は危なげなくゴブリン達を斬り捨てている。ウォルター、ロバートは自分の盾でゴブリンの攻撃を受け止め、すかさず剣でゴブリンの喉を貫くという戦法でゴブリン達を次々と倒していく。 ヴォルグは、斧槍ハルバートを振るいまったくゴブリン達を寄せ付けない。それどころか周囲の仲間を見て支援をするぐらいの余裕があった。

 ヴィアンカの剣は出会った頃と比べることも出来ないほど冴え渡っている。ヴィアンカの剣は本当に合理的であった。最短距離で敵の体を斬り裂くのだ。


「うわぁ…あの4人って本当に強くなったな」


 アレンが敵に同情し始めた頃にゴブリン達が退却を始めた。その事に気付くとアレンは追撃をするような事はせずこちらも下がる。


 ここで必要以上に斃してしまうと魔将候補をおびき出すことが難しくなるのだ。


「みんな、なんとか撃退した体を装ってほしい。その場にへたり込んでくれ」


 アレンの指示を受けるとほとんどの者がその場にへたり込んだ。これで遠目には『なんとか撃退した』とうつったのではないかと思う。


 魔将候補がアホでなければすぐに次の手を打ってくるだろう。



 それとももうすぐ日が暮れる事を考えると夜襲か明日になるかも知れない。


 アレンは傾いた日を見てそう思うのであった。


記念すべき第200話に到達しました。


結構やれるもんですね。300話まで話が続くかわかりませんが目指して頑張っていきたいです。

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