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演習⑧

 アヴィン達がアレン達に同行することが決まった次の日にアルフィスから連絡が来た。


 使いの騎士が言うには、『アルフィスもアディラも準備は完了した。いつでも出発できる』との事だった。


 そこで、アレンは使いの騎士に『明日9時に王城に出仕し、陛下に挨拶をした後に出発する』という伝言を頼むと、騎士は短く返事をするとアインベルク邸を出立する。


 騎士がいなくなると、アレン達は手分けして準備の確認に動く。


 アレンは傭兵達への連絡…。

 フィアーネ、フィリシアは部屋に蓄えた備品の最終チェック…。

 レミアはシアとジェドの二人への連絡…。


 といっても、動くとは言ってもそれほどの内容ではない。すでに準備は終えており、時間がかかるようなものはないのだ。


「あのアレンさん」

「どうした?」

「あの『駒』の人達は今回使わないと言う事で良いのですよね?」

「ああ、フィアーネの実家からアンデッドを召喚できることになっている以上、あいつらをここで連れて行く意味はないからな」


 アレンが『駒』を連れて行かない理由は、ただ役に立たないからだった。駒の男達の実力ははっきりって眼も当てられないレベルだ。いくら吸血鬼ヴァンパイアとは言え、連れて行ってもすぐに戦闘不能になるか、命を散らすかでしかない。せいぜいその後、アンデッド化させて敵陣に放り込むぐらいしか使い道が見つからない。


 それなら、アンデッドを確保できている以上、ここで駒を使う必要はなかったのだ。


「解りました。アディラの壁に使えるかもと思ったので」


 フィリシアの言葉もかなり辛辣だ。清楚な容姿に似合わずフィリシアは戦いについては非常にドライだった。フィリシアは完全に『駒』の男達を有利な状況を作り出すための道具としか思っていない。その点、アレン、フィアーネ、レミアもそうなので、ことさらフィリシアだけが『駒』の男達を道具扱いしているわけではない。


「じゃあ、フィリシア行こう」

「はい♪」


 フィアーネとフィリシアが最終チェックに出て行く。


「それじゃあ、アレン行ってくるわね」


 レミアがシアとジェドを呼びに出て行く。


「いよいよか…」


 アレンが独りごちる、今までとは異なる戦いになる事を予想し、気を引き締めるのであった。





-------------------


 翌朝、アレン達は王城に向け出立する。



 アレンは黒を基調とした服に革鎧、籠手、すね当て、マントを身につけている。腰には魔剣ヴェルシス、予備の剣を背負い、腰に装着した小物入れに投擲用のナイフを入れている。

 フィアーネは黒を基調とした服に、手甲を両手にはめている。いつものフィアーネは黒を基調としたドレスなのだが、さすがに今回はヒラヒラした装いをするわけにはいかないとズボンを履いている。

 別にフィアーネの実力からしてヒラヒラした格好でも不覚を取ることはないだろうが、最近のフィアーネはTPOを弁えるようにがんばっているらしいのだ。

 レミアとフィリシアの格好は似通っている。革鎧に籠手、すね当てに違いは見当たらない。違うのは二つの武装だけである。レミアはいつもの双剣を腰に帯び、手には槍を持っている。対してフィリシアは腰に魔剣セティス、手には斧槍ハルバートを持っている。


 みな戦場に出るのに違和感のない格好をしている。違和感があるとすれば、フィアーネ達の容姿が戦場に出るというのには些か華美であると言う事ぐらいだろう。


 シアは黒いローブの中に鉄製の胸当て、手には魔力の増幅効果が込められた魔石を組み込んだ腕輪、一般的な魔術師が持つロッドを持っている。

 ジェドは、鎖帷子に、鋼鉄製の胸当て、腰に片手剣を帯び、背中に盾を背負っている。


 この二人の格好は一般的な冒険者の格好であった。


 アヴィン、ロアルド、ケリーも一般的な傭兵の装備で、鎖帷子の上にプレートメイル、鉄製の兜を身につけている。だが、持ち物には個性が表れている。アヴィンは片手剣に、槍、盾をロアルドは剣と斧槍ハルバートをそしてケリーは剣と長弓に矢筒をそれぞれ準備している。


 街を歩くというには物々しいのだが、目的が目的なのでしょうがなかった。国が傭兵を集め魔将になる前に討伐するつもりだという話は、どこからともなく噂で流れていたので、アレン達もそういう集団と思われたようだ。そのため王都の人々には奇異な目で見られることはなかった。


 アレン達は予定の時間よりも早く王城に到着した。


「それじゃあ行ってくる」

「うん、待っているわね」

「ああ」


 アレンは国王に挨拶に向かうことになっており、ここで一端フィアーネ達と分かれ、その間にフィアーネ達は転移施設に向かうことになっていたのだ。


 転移魔術は便利な術ではあるが座標を特定するのは難しい。言った事が無い場所には座標を特定する事は出来ない。アレン達の目的地である『ジルガルド地方』にはアレン達は言った事は無かったので、王城にある転移施設によって出発することになっていたのだ。


 この転移施設は、一度に送る事の出来る人数は12人までであり、大軍を一気に送り込むという事は出来ない。だが、今回のように少ない人数ならば便利な施設である。


 アレンはフィアーネ達と別れ、王城内に入ると係の者に要件を告げると話が通っていたのだろうすぐに国王の執務室に通される。執務室の中には国王、宰相、軍務卿以外にアルフィスとアディラの二人がいる。


 アレンは今回同行する親友と婚約者を見る。


 アルフィスは黒を基調とした全身鎧フルプレートに長剣を帯びている。見た目はかなりゴツいのだが、この全身鎧フルプレートは、魔鉄、ミスリル銀の合金を薄く成形し、魔術により魔力により常に覆われることにより軽量でなおかつ信じられないほどの強度を誇っている。


 対してアディラは白を基調としたノースリーブのシャツに薄い青色のベスト、青いフレアスカート、白いマントを羽織っている。一見、戦場には似つかわしくない格好だが、身につけているベストはミスリル銀で編まれており強度は相当なものである。また白いマントは魔力によって覆われており普通の刃物ではまず通らない。


「アレン早かったな」

「アレン様、がんばりましょう!!」


 まずアルフィスとアディラがアレンに声をかける。アレンも二人にあいさつを返し、ジュラス王に出立の挨拶を行う。


「アレンティス=アインベルク、これより魔将討伐に出立いたします。陛下のご期待を裏切らないことを約束いたします」

「うむアインベルク卿、吉報を待つ」

「はい!!」


 アレンは一礼する。簡単な挨拶であり、やる意味はあるのかというレベルのものであったが、いくらなんでも挨拶もせず出立するわけにはいかないのだ。


「アインベルク卿、王太子殿下、王女殿下の事…頼むぞ」

「アインベルク卿、今回の事は解っているとは思うが特例措置だ。王太子殿下、王女殿下を頼むぞ」

「はっ!!」


 エルマイン公とレオルディア侯がアレンに念を押す。アレンも素直に頷く。アレンにとっても今回参加する者達を一人でも失うのは避けたかったのだ。


「それでは、アルフィス、アディラ解っているとは思うが、今回の討伐においてはアレンが責任者だ。アレンの指揮権を侵すような事はしてはならない」

「「はい!!」」

「ふむ…それからアレン、君は指揮官としてふさわしい行動が求められる。常に最善を目指しなさい」

「はっ!!」

「それでは行きなさい」


 アレンは一礼し、アルフィス、アディラも続いて一礼すると国王の執務室から退出する。




 執務室から出たアレン達は、フィアーネ達が待つ転移施設に移動する。そこにはすでにフィアーネ達と他に数人の騎士達がいる。今回同行するという近衛騎士の人達だろう。


 みな笑顔を浮かべているようで、どうやら初顔あわせは問題がなかったようだ。


 アレンは同行する騎士達の中に見知った顔である事に気付く。アレンの弟子というよりもむしろロムの弟子と言った方がしっくりくる四人の近衛騎士達がいたのだ。


 立場的に言ったら、シアとジェドの兄弟子にあたる人達だ。


「あ!!アレン先生!!」

「「「「おはようございます!!」」」」


 ウォルターがアレンに気付くと、ロバート、ヴォルグ、ヴィアンカは一斉にアレンに挨拶を行う。護衛対象であるアルフィス、アディラよりもアレンにまず挨拶を行うのは近衛騎士として何かおかしいのではないかとアレンは思ったが口には出さない。


「ああ、おはようございます」


 アレンがちらりとアルフィスを見るが、アルフィスは苦笑しただけで何も言わない。


 四人の近衛騎士の他にアレンに面識があるのはアルフィスの護衛隊長であるアルド=コクロス、従者であるロアン、アディラの護衛兼侍女のメリッサとエレナの4人だ。あと近衛騎士が4人同行するらしい。


 計23人の魔将討伐隊が顔を揃えたのだ。


「アインベルク卿、お久しぶりです」


 ロアンがアレンにあいさつを行う。アレンがアインベルク家を継ぐ前に学園に通っていた時以来だった。


「お待たせしました。それでは出発と言いたいところですが、その前に今回の作戦の目的の確認を行います。その目的とは『魔将候補の捕獲』になります」


 アレンはその場にいる全員に作戦の目的を話す。アヴィン達には伝えていなかったために、3人は驚いた顔をしていたが、他のメンバー達は動揺を見せない。どうやらアルフィスから事前に話があったらしい。


「相手は約600の魔物です。それに対してこちらは23人。当然ながら数の上では不利を通り越して絶望的といえます」


 アレンの言葉に顔を強張らせたのは、アレンと面識のない近衛騎士4人とアレン達の実力を見たことの無いアルドとロアンである。


 他のメンバーはまったく緊張していない。特にアレンとならぶ実力のアルフィスなどは『俺の出番はあるかな?』という顔をしている。


「ですが問題なく勝てると思います。根拠はアルフィスです」


 アレンは近衛騎士の前でアルフィスの事を王太子殿下とは呼ばずにアルフィスと呼び捨てにしたが、すでにアルフィスからその辺の話は通っているのだろう。近衛騎士達の顔に動揺は見られない。


「みなさんは私の実力を知らなくても、アルフィスの実力はご存じでしょう?」


 アレンの言葉に近衛騎士達は頷く。アルフィスの人間を超えた実力を知らない者は近衛騎士にはいない。


「私はアルフィスが選んだあなた達が弱いはずはないと思っています」


 アレンの言葉に近衛騎士達が反応する。確かにアレンの言うとおり、アルフィスが選んだ近衛騎士達はみな一流の腕前を持つ事をお互いに知っているのだ。


「アルフィスが選んだあなた達だけでも十分に魔将討伐は可能でしょう。そして、私が今回集めた戦力もあなた達に決して劣るものではありません。その我々が共に討伐して敗北はあり得ません」


 アレンは淡々と話す。だが、この淡々と話す姿勢が逆に全員に事実を告げていると思わせる。

 事実アレンは思っていることを口にしているだけだ。指揮能力の向上という目的が無ければ、アレンかアルフィスのどちらかが一騎駆けでもしてしまえばそれで済むのである。


 一人でも勝てるのに23人で行くのだ。しかも弱兵は一人としていない。まぁアレンが雇った傭兵達の実力はアレンから見れば話にならないレベルだが、他の傭兵達に頼られる以上、一般的に見れば弱兵とは言えないのだろう。


 『これで負けるか?』と考えれば即『否!!』とアレンは答えるだろう。


「そして、このメンバーなら今回の目的を果たせることは間違いないでしょう」


 アレンの言葉に全員が頷く。


「それでは、出発しましょう」



 アレンの言葉が終わると、全員が転移施設の中に入っていく。


 すでに準備が終わっていたのだろう、施設の中の魔法陣が淡い光を放っている。



 アレン達はいよいよ魔将討伐に出発した。


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