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演習⑦

「え?この人達連れて行くの?」


 フィアーネがアインベルク邸に来て、傭兵達を連れて行く事を告げたときの返答がそれだった。

 しかも、昨日アレンに手加減に手加減を加えられて気絶だけですませてもらった傭兵達だ。何かあると思うのも無理は無かった。


「私は反対!!この人達はアレンにあれほど恥をかかされたのよ。絶対に何か裏があるに違いないわ。隙を見せて後ろから斬りつけるとか近隣の村の人々を襲ってその罪をなすりつけるとかが有力候補ね」


 フィアーネは三人の傭兵の前で包み隠さず言う。


「そ…そんな事するか!!」

「俺達をなんだと思っているんだ!!」

「何も目の前で…」


 傭兵達はフィアーネの言葉にかなり傷ついたらしい。まぁここまでダイレクトに言われれば鋼の精神力をもっていたとしても傷はつくだろう。


「まぁまぁフィアーネ落ち着いて」

「フィアーネ落ち着いてください」


 レミアがフィアーネをなだめる。フィアーネが来る前にレミア、フィリシアも同じ反応を返したために苦笑いしながらのなだめであったが…


「フィアーネの言葉ももっともだが、俺は連れて行っても良いと思っている」

「どうして?この人達の仕事はアディラの護衛という事になるじゃない。こんないつ裏切るかわからない人達をアディラの側に置いといて不安じゃないの?」

「それは当然、俺も考えた。だが、こいつらがどんな思惑でここに来ているかを考えたんだが、そんな考え自体どうであろうと大丈夫と判断した」

「根拠は?」

「まずこいつらは弱い」


 弱いという言葉に三人はかなり傷ついたようだ。力を重視する彼ら傭兵にとって弱いという評価は何よりも屈辱なのだ。


「そして、弱いと言う事はフィアーネのあの術で縛ることが出来るだろ」


 アレンの言葉にフィアーネは驚く。アレンは行動を制限するフィアーネの術を使う相手をかなり厳しく制限していたのだ。その対象者は『駒』として使い潰しても心の痛みを覚えない相手、別の言い方をすれば『真性のクズ』相手だけだった。

 確かにこいつらは信用できないが、だからといって『駒』と同格に扱われるほどの外道ではないと思っていたのだ。にも関わらずアレンが術をかけることを意外に思ったのだ。


「フィアーネの考えも解るが、俺はこいつらを駒として扱うつもりはないんだ。だが、今回はこいつらを信用するための時間がない。時間がない以上、フィアーネの術で保険をかけておく必要がある」

「じゃあ、連れていかなきゃいいんじゃないの?」

「それも考えた。だが、今回はアディラの護衛の数がメリッサさんとエレナさんだけじゃ足りないんだ」


 戦場という不確定要素の塊である場では備えるのは当然の事なのだ。アレンの言葉にフィアーネは正論と頷かざるを得ない。何事にも絶対などという事は無いのだ。


「解ったわ。確かに今回の件は非常手段という事で納得する」


 フィアーネはそう言うと三人の傭兵達を見て言う。


「連れて行く事はとりあえず納得したけど、話を聞いていたように私達はあなた達を信用していない。だからこそ保険をかけさせてもらうわ」

「了解した」

「当然の事だと思う」

「それでいい」


 三人の傭兵も頷く。


「この魔将討伐が終わったら術は解く。その時のあなた達の行動を見させてもらうわ」


 フィアーネの言葉の真意を察した三人は頷く。フィアーネはアレンに敵対すれば容赦はしないと言っているのだ。


「それでは始めるわ」


 フィアーネはそう言うと男達の頭上に魔法陣が描き出される。魔法陣はゆっくりと下がり傭兵の頭をくぐり、体を通り抜け床に吸い込まれていった。


「はい、終わり」


 フィアーネがそう言うと三人は特段何も変わってないことに戸惑っていた。


「この術で封じたのは俺達への敵対行為だ。俺達に不利益を与える事は一切出来なくなったわけだ」

「別に…何も変化が感じられないんだが…」

「俺もだ」

「俺だけじゃなかったんだな」


 三人の傭兵の声を聞き、アレンは三人に自己紹介を促す。何度も聞くのは面倒だったので。フィアーネが揃った段階で自己紹介させようと思っていたのだ。


「じゃあ、あんたから順に自己紹介してもらおう」

「は、はい」


 アレンがまず指摘した傭兵は昨日、アレンにまず話しかけた傭兵だ。


「俺はアヴィン=ゲルグだ。いや、です。年齢は24で、剣と盾で戦うのが基本スタイルです」


 アヴィンと名乗った傭兵は黒髪、黒眼の精悍な顔つきをした男性で、身長はアレンより少しばかり高い。細いがその体は鍛え抜かれている。


「俺はロアルド=シアーグです。年齢は24です。剣と斧槍ハルバートで戦うのが基本です」


 次いでロアルドと名乗った傭兵は金髪碧眼の偉丈夫で、筋骨逞しく膂力も相当なものだと考えられる。意外と人懐っこいようで、子ども達の相手をしてそうな雰囲気を持つ男だ。


「俺はケリー=オーゴ、年齢は26、剣もそれなりに使えるが、得意なのは弓です」


 最後に名乗ったケリーは茶色い髪に茶色い眼の色を持つ美しい青年だった。だが、決して甘い雰囲気にならないのは頬にザックリと入った傷のためだろう。

 

 自己紹介の結果、アレンは頷く。三人しかいないので名前はすぐに覚える。


「さて、あんたらは今回、魔将討伐に参加してもらう際に俺の指示に従ってもらう」

「「「はい」」」

「給金だが、昨日ギルドに出した条件をそのまま転用するつもりはない。一日辺り金貨一枚だ。それ以上の恩賞は支払わない」

「「「え?」」」

「不満か?」

「いえ…給金をもらえるんですか?」


 アヴィンが不思議そうに言う。他の二人も意外だったようで戸惑いの表情が浮かんでいた。


「確かにあんた達は弱いし、役に立つとは思えないがそれでもただ働きさせようなどとは思っていない。あんた達の能力と仕事としての契約は別問題だ」


 アレンの言葉に三人は頷く。これは試験だと思っていたために、給金が出るとは思っていなかったのだ。


「ありがとうございます。それで、アインベルク卿の名前は分かるのですが、そちらの女性方を何とお呼びすれば?」


 アヴィンがアレンに問う。アレンと周りにいる美少女達との関係は気になるところであったし、失礼な事をしてアレンの怒りを買うのは避けたいところであった。


「それもそうだな。みんな自己紹介してくれ」


 アレンの言葉に三人は頷く。


「私はレミア=ワールタインよ。年齢は17、レミアと呼んでちょうだい。アレンの婚約者よ」 


 レミアが婚約者と名乗ったときにロアルドが残念そうな顔をし、アヴィン、ケリーは嬉しそうな顔をした。ロアルドはどうやらレミアが好みだったらしい。そして、アヴィンとケリーが嬉しがったのは、残りの二人はアレンの友人であり口説くことが出来ると考えたからである。

 だが、次のフィリシアの自己紹介でそれが間違いである事を思い知らされる。


「私はフィリシア=メルネスです。年齢は17です。私の事はフィリシアと呼んでください。私もアレンさんの婚約者です」


 フィリシアの自己紹介に顔が凍ったのはアヴィンである。どうやらアヴィンの好みはフィリシアだったらしい。ケリーは笑う気にはなれない。話の流れから言ってもう一人の美少女もアレンの婚約者の可能性が高かったからだ。だが、一つの希望を信じ、心の中で信じてもいない神にケリーは祈る。


「私はフィアーネ=エイス=ジャスベイン、年齢は18歳で、フィアーネと呼んでね。あと私もアレンの婚約者よ」


 フィアーネの言葉に一縷の望みを絶たれたケリーの絶望に覆われる顔をアレンは見た。


(まぁ三人ともとんでもなく可愛いからな…この反応は敵対行為としては見逃すべきだな…)


 アレンは三人の表情の変化の理由をほぼ正確に把握していたため、さすがに三人を責める気はなかった。これでもう一人アディラがいることを知ったときにどんな表情をするかなと思うと少々気が重い。


「それでは自己紹介も終わったと言う事で、今度の魔将討伐には装備関連は自分で集めてもらうが、食料関連はこっちで集めるから心配しなくても良い」

「…わかりました」

「…はい」

「…了解しました」

「それでは、準備に取りかかってもらう。出発まであんた達は離れに滞在してくれ」

「「「…はい」」」


 気落ちした声を聞きながらアレンは話を打ち切る。これ以上、構っても仕方がないのだ。


 アレンの部屋を三人が出て行った後に、アレンも消耗品の補充に取りかかることにした。



 準備は忙しいが、フィアーネの空間魔術があるため、荷物は最低限度で済むのは有り難かった。

 フィアーネの空間魔術はジャスベイン家の倉庫に通じているのだが、アインベルク邸の倉庫とも通じさせたために食料品などはここに集めれば良いのだ。


「フィアーネ、それからジュスティスさんに許可はもらってくれたか?」

「ええ、二つ返事だったわよ」

「これでアンデッドの召喚は問題ないな」

「うん。費用は一体当たりに銅貨一枚でいいそうよ」

「え?そんなに安く?お礼を伝えておいてくれ」


 アレンとフィアーネの言っているのは、アレンとフィアーネが出会うきっかけになったジャスベイン領の瘴気に汚染された区画の事である。


 ジャスベイン領のある地域を魔人が実験のために瘴気で汚染したのだが、原因が分からず浄化できなかった。その対策のためにフィアーネが国営墓地にやってきたのが、二人の出会いだったのだ。そして、調査のためにジャスベイン領に赴き、魔人を斃したアレンをジャスベイン家の人々が気に入った理由だったのだ。


 魔人を斃した後、汚染された土地をあえてジャスベイン家は浄化せず、アンデッドの発生牧場として運営していた。

 牧場というぐらいだから、アンデッドを出荷するわけだが、その出荷先はジュスティスの作成するダンジョンである。といっても、ほとんど出荷されていないためにアンデッドが溢れかえっているという状況だったのだ。


 そこに今回の魔将討伐に使うという依頼をしていたのだが、許可は出たらしい。アレンの出した条件はアンデッド一体あたり銀貨一枚だったのだが、ジャスベイン家は銅貨一枚に引き下げてくれたのだ。


 アレンはアンデッドを作成できる死霊術を修めてはいるが、そのためには死体が必要だったのだ。戦場であればアレンが斃した敵をアンデッド化するのだが、現段階では死体がないためそれはかなわない。


 またアンデッドは単純な命令しか行えないので、戦力としてはそれほど重視できないのだ。


「あとは消耗品の買い出しに行こうか」

「「「うん」」」


 アレンが声をかけると三人は嬉しそうに頷く。


 あとはアルフィスの準備だなとアレンは思う。順調に進んでいるように思えるが、見落としがあるかも知れないとアレンはさらに気を引き締めた。


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