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演習⑥

「さて…これはどういう状況だ?」


 三人の傭兵の一人がアレンに尋ねる。酒場の机が目茶苦茶に壊れ、一人の傭兵が蹲っているというどう考えても尋常でないというギルドの雰囲気にアレン達が関係しているのは一目瞭然だった。


「そいつらがジェフを!!」

「アヴィン!!やっちまってくれ!!」


 周りの傭兵達がはやし立てる。自分達だけだとまともに目も見られなかったくせに、強者が現れればそれを利用しようという浅ましさにアレン達の傭兵達の評価がさらに下がる。


「一応言っておくが、あのクズ共に利用されるつもりか? あいつらはあんた達が来るまではブルブル震えてまともに俺の顔を見られなかったぞ。そこに事情を知らないあんた達がやってきたので利用しようとしているだけだぞ。わざわざ乗ってやるつもりか?」


 アレンは質問には答えずに、傭兵の一人に尋ねる。


「いや、利用されるつもりはないよ。ただ事情が知りたいと思っただけだ」


 明らかに年下のアレンの言葉に不快感を示さずに男は穏やかに答える。


「そうだな、俺達は傭兵を雇うために依頼に来たんだが、ここの職員が非常に舐めた態度で接してきたために口頭で注意したら、逆上したから窘めた。そして要件を伝え帰ろうとしたら、そこで転がってるクズが絡んできたから叩きのめした。ついでに他の奴らをかるく脅したらすっかり怯えてしまい、傭兵は使い物にならんと判断したので依頼をキャンセルし帰ろうとしたらあんた達が来たというわけだ」


 アレンの説明はかなり乱暴なものであり、かなり脚色されているし、伝えてないところもあるのは事実だ。だが、アレンはもはや傭兵などと言う能無し共に何一つ期待していないために必要以上に言葉に容赦がなかったのだ。


「なるほどな…」


 入ってきた傭兵三人は呆れた様に他の傭兵達を見る。


「それは確かにあんた方の怒りも解る」


 最初に声をかけた傭兵がアレンの言葉に理解を示す。


「だがな…」


 傭兵の声は次の瞬間には不快気なものが含まれる。


「傭兵稼業を舐められるのは我慢ならないな。俺達は命をかけてこの稼業やってるんだ。貴族のお坊ちゃんにそこまで舐められる覚えはないな」


 傭兵の放つ雰囲気が剣呑なものに変わるがアレンは、いやアレン達は誰一人として狼狽えない。


「別に命をかけているのは傭兵だけじゃないだろうが、自分達が特別とでも思っているのか?幸せな思考回路を披露して何がそんなに自慢だ?俺にはお前が底の浅いお目出度い人間にしか思えんぞ」


 アレンの言葉に一切の容赦は無い。この段階で荒事無しにこの場を収めるのは不可能と判断したからだ。いや、より正確に言えば荒事無しに収めるつもりはアレンにはなかったというべきだろう。


「俺達、傭兵はな。揉めたら剣で決めるという決まりがあるんだ。どうだ、これで決着をつけるという事にしようじゃないか」

「ああいいよ。面倒だから参加したい奴は一度にこい」


 アレンの言葉に傭兵達はいきり立つ。といってもいきり立っていた傭兵は最初からギルド内にいた傭兵達であり、後から入ってきた三人は落ち着いている。


「ほぉ…大した自信だな」

「お前らごときに何を警戒すれば良い?自惚れるなよ」

「良いだろう。でそっちはお前一人か?それともそっちのお嬢ちゃん達も相手をしてくれるのか?」

「冗談だろ?お前達ごときに俺一人で十分だ。いかにお前らがアホでもここまでお前達に有利な状況を与えてもらってなお、手も足も出なければ嫌が応にも思い知るだろうよ…自分の身の程ってやつをな」

「良いだろう。そこまで言うのなら見せてもらおうじゃないか」

「外に出るか?それともここでやるか?」


 アレンの言葉に三人は迷わず外を選択した。


 アレンが頷くと三人は外に出て行く。アレンはその様子を見ていてため息をつく。三人の傭兵は何の警戒もなくアレン達に背を向けたのだ。アレン達にしてみればこれはあり得ないぐらい危機感がない証拠だった。視線を動かし、婚約者達と視線が交叉すると婚約者達も呆れているようだ。

 実際にアレン達は建物から出るときも他の傭兵が攻撃してこないか警戒していながら外に出ようとしているところから危機に対する備えは雲泥の差だった。


「本当にごめんね、アレン…」


 フィアーネが申し訳なさそうに言う。この計画を思いついた段階では良い手だと思ったのだが、ここまで面倒な事になるとは思っても見なかったのだ。


「気にするな、傭兵の中では腕がある方と思われる存在であってもあの程度だ。俺もここまでとは思ってなかった」

「アレン、もうさっさと片付けてよね」

「確かにこれ以上あの人達に付き合うのは…ちょっと」


 レミアもフィリシアも呆れきったらしい。先程の時よりも傭兵達の評価が下がって言っているようだった。


 外に出ると三人の傭兵達がアレンを睨みつけている。


 三人ともすでに剣を抜いている。


 アレンは腰の剣をレミアに渡しそのまま傭兵達の前に歩き出す。


「何のつもりだ?剣はどうした!!!」


 傭兵の一人が怒りを露わにする。


「さっきも言っただろうが、有利な状況を与えてやると」

「何ぃ!!」

「まぁ、もう良いから始めるぞ」


 アレンはそう言うと、ゆっくりと間合いを詰める。傭兵達はアレンが近づいてくるのを黙って眺めている。見ているのに解っているのに傭兵達は攻撃を仕掛けることが出来なかった。


 アレンは悠然と歩を進め、傭兵達の間合いに入る。だが傭兵達はまったく動けない。


スパァァァァァァン!!


 アレンの拳が傭兵の一人の顎を打ち抜く。顎を打ち抜かれた傭兵は意識を一瞬で飛ばし倒れ込む。傭兵が地面に倒れ込むまでの僅かな時間に隣にいた傭兵の首筋に凄まじい速度の手刀が放たれる。


 首筋を打ったアレンの手刀は血液の流れを一瞬遮断したことで、打たれた傭兵の意識ははじき出される。


 最後の一人となった傭兵は何が起こっているのかまったく解っていなかった。


 混乱から立ち直る前にアレンは掌を傭兵の目の前に掲げ視界が封じるとほぼ同時に延髄に手刀が叩き込まんだ。


 傭兵は視界を封じられた事に気付く前に意識を手放した。



 三人の傭兵をまったく相手にせずに、アレンは婚約者達に声をかけるとアレン達は傭兵ギルドを後にする。残された傭兵ギルドにいた者達はその様子を呆然と眺めていた。





------------------


 翌日、朝にアインベルク邸に来客があった。


 ロムにその事を知らされた時、アレンは執務室で書類を作成していたが、この執務室に通すようにロムに伝えると、通された客は昨日、アレンがのした傭兵達であった。


「何か?」

「アインベルク卿!!あなたに仕えさせてくれ」


 傭兵達は声を揃えてアレンに訴える。その目には決意に満ちている。


「断る」


 だが、アレンの返答はにべもないといった感じだった。


「なぜです?」

「役に立たないからだ。ついでに言えばお前達は信用できない。恥をかかされた恨みをはらすためにここに来たのかも知れないからな」


 アレンの言葉に三人は言葉を失う。


「そんな事はしません」

「第一、俺達とあなたでは実力に差がありすぎて現実味がなさすぎるでしょう」


 必死の訴えだったがアレンの反応は冷淡だ。


「お前達がアインベルク家に雇われてアインベルク家の者と認知された段階で犯罪行為を行い俺の命令だったと証言すれば十分すぎるほど俺に迷惑をかけられるな?」

「…」

「返答できないか?そうしないという身の証を立てられない以上、お前達を受け入れるつもりはないな。さっさと帰れ」

「ならせめて試験をしてくれ!!いやしてください!!」

「試験?」

「はい!!今度の魔将討伐で俺達が役に立ったら考慮してください!!」


 三人の傭兵達はすがるような目で見てくる。


「ふむ…」


 さて、どうしたものだろうか…。


 この三人の傭兵の実力はお話にならないレベルだ。はっきり言って戦力にならない。


 だが将来はどうか?


 近衛騎士の四人も最初はお話にならなかったが、最近の実力の伸びから考えれば十分、対魔神の戦力として考える事が出来る。となるとこの傭兵達もそのように化ける可能性もある。


「そうか、だが俺はお前達を信用していない。だからお前達が信用できるまでお前達に術で俺達への敵対行為を封じる。お前達を連れて行く条件がそれだ」

「もちろん構いません!!」

「お願いします!!」

「感謝します!!アインベルク卿!!」


 三人は一斉に頭を下げる。


 さて、フィアーネが来たらこの三人に術をかけてもらうか。喜ぶ三人の傭兵達を見てアレンはそう考えていた。



 今回はいつもより戦闘に入るまでにやたら時間がかかっています。ちょっと思うところがありまして、前の段階を丁寧に描写してみようと思ってこういう流れになっています。


 テンポが悪い、グダグダしてると思われるかも知れませんが、ご容赦ください。

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