調伏②
今回もちょっと短いですがご了承ください。
フィアーネから魔剣セティスを受け取ったフィリシアは庭先に移動する。その後をアレン、フィアーネ、レミアがついて行く。
どうやらフィリシアは庭で儀式を行うつもりらしい。
魔剣セティスの鞘には魔術による封印が施されている。誤って触れてしまっても呪いにかからないための安全策であった。フィリシアは魔剣セティスを鞘から抜き放ち、地面に突き刺す。
魔剣の封印を解いた瞬間に魔剣に再び呪われないように、フィリシアはあらかじめ耐呪の術式を施していた。そのためだろうか、魔剣セティスを抜いた瞬間に呪われることはなかった。
フィリシアはアレン達に向け微笑みを向ける。その微笑みを見てアレン達も頷いた。どうやら、さっそく儀式を始めるらしい。
「…行きます」
目を閉じ、覚悟を決めたフィリシアは一言、言葉を発すると儀式に入る。儀式に入ったフィリシアの足下から直径3メートルほどの魔法陣が浮かび上がる。
フィリシアの発動させた魔法陣は、黒く淡い光を放っており、昼の太陽の下であってもアレン達の目にははっきりと見える。
「あれは…」
「アレン…知ってるの?」
「ああ、フィリシアの魔法陣は『四剣』の術式だ」
「初めて聞くわね。何なのその術?」
「精神世界で調伏しようとする相手と戦うための術だ。精神世界での戦いである以上、物理的な力ではなく、精神力の勝負になるという話だ」
「なるほどね…。フィリシアは直接、魔剣をひれ伏せさせるという事ね」
「ああ…この術は負けた方は勝った方に絶対服従する。魂レベルでその事が刻まれる。その服従は通常の方法で解呪することは出来ない」
「それだけ強制力の強い術という訳ね」
「ああ…だが『四剣』の術式はものすごく高度な術式だ。フィリシアはいつの間にこんな術を…」
アレンは正直驚いていた。フィリシアの行っている『四剣』は凄まじい強制力を持ち、その効果に相応しく高度な術式だ。これだけでもフィリシアがどれほどの努力と時間をつぎ込んだかがわかるというものだ。
「執念というやつかもね」
レミアの言葉にアレン、フィアーネが反応する。確かに『努力』という言葉では表現できないレベルの成長だ。
「それだけ、過去の自分を乗り越えたいのか…」
「それだけじゃないと思うわよ」
「私もそう思うわ」
アレンの言葉にフィアーネ、レミアが返答する。
「他にあるのか?」
「ええ」
「確実にね」
「じゃあそれは何だ?」
フィアーネもレミアも微笑む。そして二人は揃ってアレンを指さした。
「俺のため?」
「「そう」」
「どういうことだ?」
「アレンの力になりたいからよ」
「フィリシアは十分に俺を助けてくれてるぞ」
「それは私達も同感よ。でももっと力になりたいと思ってるのよ」
「これ以上…か」
「私達もフィリシアと気持は一緒よ。そして、アディラも絶対に同じ気持ちよ」
フィアーネの言葉にレミアは頷く。
「ねぇアレン、私達はみんなあなたの助けになりたいのよ。アレンもそうじゃないの?」
レミアの言葉にアレンも迷わず頷く。アレンも今以上に実力を付け、四人の婚約者を助けたいと思っている。
「そうか…みんなも俺と同じ気持ちだったと言うことか」
「そういうこと」
レミアの返答にアレンの心に熱いものがこみ上げてくる。自分の婚約者達は実力、容姿も最高レベルに達しているが、その心根も最高レベルであったのだ。もちろん、アレンは婚約者達の心の美しさを知っていたが、まだまだ甘かったようだった。
「あれは?」
フィアーネの疑問の声に、アレンは意識を戻しフィアーネの指さす方を見る。するとフィリシアが描き出した魔法陣から四本の剣が浮かび上がっていた。
四本の剣の色は『白』『紅』『蒼』『黒』である。四本の剣は3メートル程の高さに浮かび鋒が、中心のフィリシアへ向けられそこで止まる。
「準備は終わったらしい…」
アレンの声を聞いたフィアーネとレミアは、説明を求めるよう目で訴える。アレンはその求めに超えたる様に説明に入った。
「あの四本の剣が『四剣』の肝だ。さっきも言ったように『四剣』は精神世界で相手と直接勝負する。負けた方にあの四本の剣が突き刺さることで完全に相手にひれ伏すことになっている。『白』は消滅、『紅』は血つまり肉体、『蒼』は意思、『黒』は確定をそれぞれ表現している。『白』の剣により、『抵抗の意思』が浄化される。そして『紅』の剣により真っ新になった肉体の支配権が縛られる。そして『蒼』の剣により意思が、そして最後に『黒』の剣が貫くことで、すべてを覆い尽くし確定する」
アレンの説明にフィアーネとレミアはゴクリと唾を飲み込んだ。この『四剣』というのは想定していた以上のものらしい。
だが、アレンもフィアーネもレミアも止めようとはしない。フィリシアを信じているからだ。そして、この段階でフィリシアを心配すると言う事はフィリシアの覚悟を辱める行為であった。
一方、陣の中央にいるフィリシアは、アレン達が止めに入らない事を何よりも嬉しく思っていた。それはフィリシアを信じているという何よりの証拠であるように思えたのだ。
フィリシアはその事に感謝し小さな声で言う。
「行ってきます」
フィリシアの精神は魔剣セティスとの勝負の場へ向かってとんだ。