試験③
やってしまった…後悔はしてません
アレン一行は、墓地の見回りを行う。特に今夜は人数が多く、アンデッド達に発見されやすいために、アレン達の警戒はいつもよりも厳しかった。
「いた…」
まず、アンデッドを発見したのは、なんとアディラだった。アディラが指差した方角を見ると、確かにアンデッドらしき者達が動いていた。その距離は200メートル程だ。
「え?」
「ほんとだ…」
「ちょっと…アディラなんで?」
「信じられない…」
アレン達はみな驚きの声を上げる。アンデッドは瘴気を元に発生する。そのため放たれる気配も瘴気であった。アレン達では、200メートルも離れている者の気配を見つける事は難しい。
それをアディラはあっさりと見つけたのだ。
「じゃあ、行きましょう」
アディラは気配を消しながら、アンデッドへと近づく。100メートル程の距離に近づくと、アンデッドの数と構成をアレン達は把握する。グールと呼ばれるゾンビ達が6体、たむろしている。
「まずは6体っと…」
アディラはそういうと矢筒から矢を抜き取り、弓を構える。アディラの構える姿は限りなく流麗であり、殺気もまったく発していない。
アディラの美しい構えに見とれていた一同だったが、アンデッドとの距離を考え、射撃自体は止めようとする。
この距離では当てることは限りなく困難であり、加えて威力も大幅に落ちる。とてもこの国営墓地のアンデッドにダメージを与える事が出来るとは思えなかったのだ。
「アディ…」
「待っ…」
「ちょっと…」
周囲の者が止める間もなくアディラは矢を放つ。凄まじい勢いで放たれた矢は、一番手前のグールの胸を射貫いた。アディラの矢がグールの核を射貫いたのだろう。胸を射貫かれたグールはその場に倒れ込んだ。
「え…」
「まさか…」
「うそ…」
「うそでしょ?」
アレン達が驚いたのも無理はない。百メートル先のグールの核をアディラは射貫いたのだ。もし狙ったというのなら、常識が崩壊した世界に迷い込んだとしか思えなかった。
ドゴォォォォォォドゴォォォオオオォドゴォォォ!!!!
次いで、倒れ込んだグールが爆発した。その爆発の威力は凄まじく、百メートル離れたアレン達の元にも爆風が襲いかかってきた。アレン達は防御結界を咄嗟に展開し爆風をやり過ごした。だがアレン達よりも早く、アディラ、メリッサ、エレナは防御結界を展開していた。つまりアディラは爆発の威力をきちんと把握していたのだ。
爆煙が収まると、グールの居た場所は、直径30メートル程のクレーターが出来ていた。当然周囲にいたグール達は影も形もすでに存在しない。
「よし!!まず6体!!」
アディラは小さく拳を握り、グール6体を葬った喜びを示す。
対して、アディラ付きの侍女兼護衛のメリッサとエレナ以外の一行は、呆然としていた。
元勇者チームの一人であるドロシーが似たような技を使っていたが、精度、威力ともに桁違いだった。
「ア…アディラ…」
「どうしました、アレン様?」
「え~と…なんで爆発したの?」
「ええ、私の矢の鏃に魔石の欠片をはめ込んでいるんです。そこに私の魔術を込めて放ったんです。ちなみに今込めた術は【爆発】です」
「そ…それにしては威力がでかすぎるんだが…」
「ええ、それは私が【爆発】を魔石に三発分込めたからです」
「へ?」
アディラは事も無げに言ったが、実際はとんでもない事だ。普通、上質な魔石であっても込められる術は一つの魔石に一つであるというのが常識だ。
アレンも一度、一つの魔石に二つの術を込めようとしたのだが、魔石が耐えられず、割れてしまったのだ。それをアディラは二つどころか三つ込めるという。常識的に考えると、アディラの話はありえないことに思われる。
「どうやって、三発も魔石に術を込めたんだ? 鏃についている魔石は特別製なのか?」
「いえ、私の使っている魔石は、加工時に出た欠片を安く譲ってもらったものです。ですから普通の魔石だと思いますよ」
「…」
「やはり、妻として家計に多大な負担をかけるべきではないと思ったんです!!きゃ~言っちゃった~♪妻って言っちゃた~❤」
照れてクネクネしているアディラは相当カワイイのだが、それよりも驚きの方が遥かに大きい。
「い…いや、アディラ、じゃあ、どうやって三発も術を込めれたんだ?」
「メリッサとエレナに協力してもらったんです」
「二人に?」
「はい、【爆発】は私が形成し、メリッサが私の術を極限まで圧縮します。エレナがそれを魔石に込めるんです」
「三人で作ってるという訳か…」
「はい、魔石に込めた圧縮した術が暴発しないように、仕上げは私が魔力で作った膜で覆って完成します。大体、一個作るのに1~2分ですね」
アディラはあっさりと言っているが、この方法は誰でも出来るものでは無いは明らかだ。実際にこの方法でやろうとした者は今までかなりの数がいたことだろうが、針の穴を通すような魔力操作が必要であるのは間違いない。
「さぁ!!アレン様!!あと14体です!!頑張りますよ!!」
アディラは元気いっぱいだ。自分の技がアンデッドにも有効だと言う事が解ったことからさらにやる気が出たのだろう。
先導して、前を歩き出す。メリッサとエレナがその後に続いた。その様子を見ていたフィアーネがアディラ一行について行きながらアレンに言う。
「ねぇ…アレン…」
「なんだ?」
「もう、いいんじゃないかな…試験」
「…俺もそう思い始めている」
「あんな事できる人材を眠らせておく方がよほどもったいないわよ」
「そうだな…アディラは足手まといどころか…大事な戦力だな…」
アレン達は近接戦闘において、間違いなくローエンシア王国最大の戦闘集団と考えても良いだろう。そこにアディラの遠距離攻撃が加われば間違いなく戦闘力は跳ね上がる。
しばらく歩いていると、空に浮かぶ死霊をアディラが見つける。不快な嗤い声を上げ、上空を旋回する死霊だったが、アディラが弓を構えると、矢を放つ。
ギャアアアアアアアアア!!!!!
死霊は、叫び声を上げて消滅する。
ほとんど狙いも定めずに無造作に射たアディラであったが、死霊の核を正確に射貫き、ただ一射で消滅させたのだ。
上空を旋回する者を射貫くのは、動かない物を射ることに比べて遥かに難易度が高い。それをろくに狙いを定めた様子もないのに、アディラは射貫いたのだ。こんな事が出来る者が一体、どれほどいるのだろうか?
「アディラ、死霊の核の位置を知ってたんですか?」
フィリシアがアディラに聞く。
「うん♪前にアレン様が死霊の核は口の位置にあるって話してたの聞いてたんだ♪」
アディラの言葉に一行はもはや言葉もなかった。アンデッドに対する知識も会話から知識としてアディラは吸収していたのだ。
どうやらアディラには、人の話から物事を学ぶ『耳学問』の素養があるらしい。ということは、アディラは座学はもちろん、人との会話も教材となっているらしい。
「よし!!あと13体!!」
アディラのやる気に満ちた声が墓地に妙に響く。
「王女殿下…すごいな」
「ああ、俺達なんて一体斃せるようになるまで結構かかったよな」
「4回目だった…か」
「いえ、6回目でしょ…。私、思うんだけど私達って、この方達に必要かしら?」
「ヴィアンカ…それ以上言うな…」
「…そうね」
近衛騎士の四人が自分達の存在意義に疑問を持ち始めている。アルフィスの実力は、自分達の先生であるアレンと互角だし、アディラの弓術の腕前は、はっきり言って神業だ。
近衛騎士達が、疑問に思うのもおかしくなかった。
アディラは意気揚々と歩き出す。アレン達はその様子を見てさらに感心する。アディラは決して油断していないのだ。意気揚々と歩いているように見えるが、自分の実力と持ち味を自分自身で把握しているのだ。
自分の持ち味は遠距離による一方的な先制攻撃、そのためには、相手よりも早く、相手を発見する必要があるのだ。そのために、常に周囲を警戒している。
「いました…」
アディラの言葉にアレン達はもはや驚かない。アディラの探知能力がアレン達よりも優れている事を、とっくにアレン達は認めていたからだ。
アディラの視線の先には、デスナイト、デスバーサーカー、死の聖騎士、スケルトンソードマン、スケルトンウォリアー、リッチなどの集団がいたのだ。
距離は約150メートルだ…
「え~と、10体か…。距離は約150というところか…いける!!」
アディラは、矢をつがえると先手を打ち、無造作に射ち放った。
アディラ…ほんとにどうしてこうなった?




