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騎士②

 敷地内に入ってすぐ、ウォルターがアレンにとげとげしい口調で宣言する。


「アインベルク卿、よろしいか?」

「はい、なんでしょうか」

「先ほどはクライブ殿の手前、口にはしませんでしたが、私はアインベルク卿の指示に従うつもりは毛頭ありません」

「そうですか」

「我らは誇りある近衛騎士団に所属して居る者・・・墓守の命令を聞くいわれはありませんのでな」


 明らかに見下した表情で、ウォルターが告げる。他の同行者の顔を見るとみな大なり小なりウォルターの意見に賛成のようだ。


「ウォルター殿の考えは分かりました。それでは、他のお三方の考えもウォルター殿と同じかお伺いしたい」


 やけにすっきりした声で、アレンが他の三人に視線を移し、答えを聞いた。


「まずは、ロバート殿は、いかがですか?」

「私もウォルターと同様です。アインベルク卿は、近衛騎士ではありませんからな」

「そうですか、それではヴォルグ殿は?」

「私もですな、近衛騎士でない事を差し引いても、アインベルク卿は年齢的にも我らよりも下、命令を受けるつもりはありません」

「では、最後にヴィアンカ殿は?」

「近衛騎士たる私が、軍人でもないアインベルク卿の命令を受けるのは御免被ります」


 四人の返答を聞いたアレンは、晴れ晴れとした口調で告げる。


「そうですか。、じゃあ、あなた方は帰っていただいて結構です」

「「「「は?」」」」


 アレンはそれだけ伝えると、スタスタと歩き出した。四人は慌ててアレンを呼び止めるが、アレンは四人を相手にせず、歩みを止めない。


「「「「お待ちください、アインベルク卿!!」」」」


 スタスタ・・・

 歩み去ろうとする、四人はアレンの前に回り込んだ。


「なんですか?」


 アレンは心底面倒くさそうに言った。


「帰れとはどういう意味でしょう?」


 ロバートが慌てたようにアレンに告げた。他の3人も同様に困惑しているようだ。何しろいきなり会話を打ち切ったのだからだ。

 元々、四人とも上司からの命令で、墓地に来ている以上、帰れるわけないのだ。このまま帰らされでもしたら、上司からの評価が著しく傷つく、上昇志向の強い彼らにとって、それは好ましくなかった。

 彼らは、アレンに「指図を受けるつもりはない」と挑発することで、今日の任務で主導権を握ろうと考えていたのだ。これから交渉を経て、アレンに対して優位に立とうしていたのだ。


「そのままの意味ですよ。この墓地の敷地内では、私の判断が何よりも優先される。にも関わらず、あなた方は私の命令を受けるつもりはないという。ならはっきり言って邪魔です。だから帰れといっているのです。何か不可解な事でもありますか?」


 アレンは、「邪魔だから帰れ」と言われるのが、四人にとって一番困る事は十二分に理解していた。そもそも今回の件は、第四大隊の隊長であるセオドア自ら持ってきた話である。またクライブもアレンの指示に従うことを四人に命じていた。そんな中で、アレンの命令には従わないので『帰された』などというのは、四人にとって致命傷になりかねない失態となる。

 それにも関わらず、四人がアレンの命令に従わないと言ったのは、アレンから主導権を奪うことで、見回りを終えようとしていたのだ。後で、命令を聞かなかったことをアレンが上司に泣きついたところで、アレンの能力の欠如を示すことになるだろうから、実際にはアレンが泣き寝入りするしかないとふんだのだ。

 アレンはその事を読んでいたので、四人が一番困るであろう『始まった早々、帰す』という対応をしたのだ。


「しかし、今回の件はスペイラ大隊長自らの依頼のはず、それを・・・」


 アレンは、ヴォルグの言葉を遮った。


「私の立場がまずくなるとでも?あなた方ごときに心配される必要はありません。そもそも、スペイラ大隊長殿の依頼を受けたのは、スペイラ殿をはじめとするお三方が、年下である私に対しても礼を尽くした丁寧な依頼であったからこそ引き受けたのです。。」


 一呼吸置いて、アレンはさらに続けた。


「そもそも帰されて立場がまずくなるのは、そちらでしょう?私の立場がまずくなるといって撤回させようというのは卑怯というものです」


 どうすればよいか分かりますよね?言語外にそう言った。

 アレンの言語外の意図を察した四人は歯ぎしりする。だが、客観的に見て、傷が大きいのは四人の方が事実であるし、非があるのも四人の方なのだ。


「申し訳ありませんでした」

「大変失礼をいたしました」

「お許しください」

「申し訳ありませんでした。なんとか同行をお許しください」


 苦虫を百匹以上噛んだような、四人の表情である。

 

「よいでしょう。謝罪を受け入れます。同行は許しますが、指示に従わない場合は即刻でってもらいます。そして次はありません」


 アレンの言葉に、ホッとする空気が流れる、しかし、とげとげしさがなくなった訳ではない。四人は有利な状況どころか、当初より立場を悪くして見回りに同行することになった。


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