試験①
ツッコミどころは多いでしょうけど、なんとか飲み込んでください(願)
アレンからローエンシア王国の上層部へ、国営墓地における『魔神』の復活、もしくは生存の可能性が報告されると、上層部はアレンを対魔神の総責任者に任命した。
といってもアレンは国営墓地の墓守であり、墓地で起こった事に対処する権限を元々、有しているために対魔神の総責任者に任命されたからと言って驚きはしなかった。
ただ、ローエンシアの上層部でも国営墓地に『魔神』が存在していることを知っている者は極々少数だ。
そのために、対魔神の総責任者といっても大々的に公開されたものではなく、密命という形である。
上層部が墓地に魔神が存在していることを隠している理由は、それ利用しようとする者がいるためだった。
もし、墓地に『魔神』が存在していることを知った場合に、身の程も弁えず入り込もうとする者の数は跳ね上がることだろう。正直な話、そんな連中がどうなろうと知ったことではないが、バカが跳ね回った結果、思いも寄らない災害が起きる危険性があることを考えると当然の措置であると言って良いだろう。
対魔神の総責任者となったアレンには、いくつかの仕事が増えた。それに伴う予算が組まれた事により、国営墓地の予算は一挙に5倍に跳ね上がった。といっても、元々アレンがやらなければ、国営墓地には一軍が常駐しなくてはならない事を考えれば、5倍の予算といっても、微々たるものであった。
予算が5倍にアップしたことで、アレン達は本格的に対魔神の対策を打つことにする。
アレン達の考えた対策は、とりあえずは人材の確保である。ここで言う人材とは、アレン達が有している駒として扱っている男達ではない。雇用契約を結び、対魔族の戦力となる者達だ。
具体的に言ってしまえば、『冒険者』『傭兵』だ。
候補の筆頭は、シアとジェドだ。
この二人の実力は、現時点ではアレン達に遠く及ばないが、あと1~2年もすれば『ミスリル』に、いや、依頼内容次第によっては『オリハルコン』にもなれる贔屓目無しにアレン達は考えていた。
レミアが魔将を討ち取った戦いにおいて、シアとジェドは実力で劣りながらも頭を使って戦い、アレン達と共に修練を積んだ事で、もはやその実力は『プラチナ』に匹敵しているぐらいだ。
ジェドはロムに、シアはキャサリンに指導を受けた事により、一気に実力を伸ばしていた。本来、ロムもキャサリンも教官が仕事ではないが、時間の空いた時だけでもというアレンの願いを快く引き受け、指導を行っていた。
シアもジェドも向上心があり、礼儀正しい少年少女であったため、ロムもキャサリンも指導に熱がこもるのは当然の事だった。
おそらく魔神が再び顕現するとしても、1~2年はかかるとアレンは思っている。魔神エーケンを吸収したと言っても、魔神の気配は一切ない事から、復活にはまだまだかかるとアレンは思っていたのだ。
もちろん、アレンの予測が外れており、アレン達を虎視眈々と狙っている可能性もあるのだが、そこまでは考えても仕方がないのだ。
となると…。
シアとジェドには早々に話を通しておく必要がある。正直な話、シアとジェドを危険に巻き込むのを逡巡する自分がいるのだ。
その悩みに対して、ロムに相談すると私見ですが…と、前置きをした上でアレンに言ったのは…。
「シア様もジェド様もアレン様達に声をかけられない事を知ったら悲しむでしょう。それがたとえ、お二方を気遣った行為だとしてもです」
という言葉である。確かに、逆の立場であれば、アレン達は水くさいと思うだろう。それが、どのような結果になったとしても、『声をかけない』という選択は別の言い方をすれば、シアとジェドの実力を信頼していないということだ。
それこそ、二人にとっては侮辱かもしれない。
アレンはロムの意見に頷き、シアとジェドを頼ることにした。
アレン達はシアとジェド以外で他に戦力になりそうな人を探すことにしたのだが、意外な人物がこの話を聞きつけ、アレンに直談判してきた。
その人物は二人…。
一人は、ローエンシア王国の王太子であるアルフィス=ユーノ=ローエン…。
そして、もう一人はローエンシア王国の王女であり、アレンの婚約者のアディラ=フィン=ローエンだった。
アルフィスの実力を考えればアレンにとって『了承』という選択肢しかないのだが、アルフィスの場合は立場の問題がある。
何と言っても、アルフィスはこのローエンシアの次代国王だ。そんな重要人物を魔神との戦いに駆り出すのは許されないと思い、断ったのだが、アルフィスはすでに手を回していた。
国王である父ジュラスに『アレンと共に事に当たるべし』という命令書を持ってきたのだ。
アルフィスは王族であり、国のために働くのは当然の事だ。命令書がある以上、アレンとしてもアルフィスを拒む事は出来ない。元々、実力的に言えば真っ先に声をかけるべき人物だったのだ。
しかし、アディラはさすがに駄目だろうとアレンは思う。
父ジュラスもアディラの参戦は認めないと拒否したのだが、アディラは『私は、王族であり、将来のアインベルク夫人です!!』とまったく引かなかったのだ。
ジュラスはそこで、実力的に不可能だと伝えたのだが、アディラはならば試すように要求したのだ。
ジュラスは近衛騎士から、二人を選出し、アディラの実力を試したが、アディラはあっさりと近衛騎士を撃破してしまった。さすがにアディラの成長を喜ぶべきか、悲しむべきか悩んだぐらいだったが、試練を見事突破したために、ジュラスは説得すべき根拠を失ってしまった。
ジュラスは結局、アレンに丸投げしたのだ。
「アレン様!!私も共に戦います!!そりゃアレン様やお兄様、フィアーネ達に比べれば実力ははるかに劣りますが、援護くらいなら出来ます!!」
アディラの言葉には、強い決意というよりも一歩も引かないという気概が満ちていた。
「アディラ、俺はお前に戦いの場でともに戦うのではなく、俺達を迎えて欲しいと思っている」
アレンは今のアディラに頭ごなしに否定しても絶対納得しないと思い、搦め手で行くことにした。いつものアディラであればこういう甘い言葉に絆されるのだが、今回は引かない。
元々、アディラは婚約者の中で自分だけ、アレンの役に立てていないという忸怩たる思いがあったのだ。そのために、武術の修練に力を必死に行ってきたのだ。
「アレン様!!実力が無いというのなら付けます!!でもせめて、一度だけでも私の実力を見てください!!」
アディラの言葉に、アレンはフィアーネ達に目をやる。フィアーネ達はアディラ側のようだ。
アディラは確かに王族である。だが、将来は共にアレンを支える同士であり、家族になるのだ。そのアディラが自分達とともに戦いたいという思いを解っていたのである。
アルフィスも困り顔だ。近衛騎士二人を撃破する実力を持っている以上、足手まといになるとは思えないが、大切な妹であるアディラには戦場に立って欲しくないのだ。それが、例え、それが身勝手な感情であってもだ。
「アディラ…俺はお前には戦場に出て欲しくないんだ」
アルフィスの言葉は重々しい。アディラとて周囲の者の思いは解っている。自分の身を案じてのことである事は十分に解っているのだ。だが、それでも自分一人安全な場所にいることは、アディラの矜持が許さなかったのだ。
「アレン様、お兄様…お二人の優しさは嬉しいですが、私はこの件について、引くつもりは一切ありません」
アディラの言葉にアレンもアルフィスも説得は無理だと諦める。すでに言葉で覆るような状況では無い。もし言葉でアディラの決意を変えれるなら、すでに父親であるジュラスによって説得させられていたはずだ。
「わかった…」
アレンが口を開く。
「だが、アディラ、言っておくが、実力が伴わない場合は、参加は不可だ。いいな?」
アレンの言葉にアディラは頷く。
「アディラ、今度の学園の休日に俺達と一緒に墓地の見回りに参加してもらう。そこで、実力が伴っているかを確認する」
「わかりました!!」
「それじゃあ、今度の学園の休みはいつだ?」
「4日後です!!」
「そうか、じゃあ4日後の昼に来てくれ」
「はい」
こうして、4日後にアディラの実力を確認することになったのだ。
もう、行くとこまで行ってしまえという感じです。




