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理由

 やっとこの話を書くことが出来ました。

「「「魔神?」」」


 アレンの言葉にフィアーネ、レミア、フィリシアは声を揃えて鸚鵡返しする。


「ああ、前に聖女様達がこの国営墓地の浄化に来たことがあったろ」


 アレンの言葉に三人は頷く。


「その時に、この国営墓地は浄化が不可能と言ってたのを覚えているか?」


 アレンの言葉に三人は記憶をたぐっているような表情を浮かべている。そして、レミアが思い至った表情を浮かべる。次いでフィリシア、フィアーネの順番で思い出したようだ。


「確かにそんなことを聖女様が浄化をした時に言ってたわね」


 レミアは、その時の事を思い出したようだ。


「ああ、その浄化が不可能な理由が『魔神』なんだ」


 アレンの言葉を三人は黙って聞いている。三人は国営墓地が浄化不可能な理由を当初は知りたいと思ったのだが、アレンが言わなかったので、あえて聞かなかったのだ。時が来たときには話してくれると思っていたのだ。


「より正確に言えば、この国営墓地に『魔神の死体』があるんだ」


 アレンの言葉に三人の顔は驚きの表情を浮かべていた。この国営墓地に魔神の死体があるなんて話は初耳だったのだ。


「この事は、国でも俺と王家とエルマイン公、レオルディア侯ぐらいしか知らない」


 アレンの言葉に、三人は驚く。このローエンシア王国で極々限られたものしか知らない機密中の機密だ。


「本来、俺の婚約者であるみんなには、伝えるべきだったんだが、アインベルク家に正式に入らないと伝えちゃ駄目だったんだ」

「でも、今伝えたじゃない」


 フィアーネがアレンの言葉に不可解な事を感じていた。アレンは、ルールを遵守する事を重視する性格なのだ。アインベルク家に入らないと伝えることは出来ないと言う事は、結婚まで伝える気が無かったという事である。

 

 その事について、三人に不満はない。むしろ、そんな大事な機密を軽々しくアレンが口にしたのなら失望した事だろう。


「ああ、状況が変わったからな。ロム、キャサリン、コーウェンさんとダムテルさんにも伝えるつもりだ」

「変わった…ですか?」

「ああ、魔神の死体が行動を起こすという事は今まで一度もなかったんだ。だが、今回の件で魔人エーケンをここに呼んだのも、吸収したのも魔神の死体に何らかの変化が起こった結果の可能性がある以上、伝えるべきと判断した」


 アレンは普段はルールを遵守するが、それはアレンにとって絶対のものではない。状況が変われば、それに応じた行動をとるのがアレンである。


「それじゃあ、魔神は生きていたと言う事なの?」


 レミアの言葉にアレンは考え込む。


「それは分からない。ただ、魔神が生きていたのか、蘇ったのかは重要ではないと言うことだ」

「…?」

「魔神が再び現れた時に、どうやって斃すかという事だ」


 アレンの声に恐怖も戸惑いもない、アレンは魔神と呼ばれるほどの存在が再び現れた時に、戦うつもりなのだ。しかも勝つつもりだという事を三人は察する。


「でも、アレン…魔神になんて存在に勝てるの?」


 レミアの言葉をアレンはあっさりと肯定する。それが何の根拠も無い事でないことを、三人は知っている。


「レミア、その魔神は今、この墓の下にいるんだぞ?」

「?」

「なぜ、その魔神は墓の下にいて、さっきの魔人をわざわざ呼び寄せて吸収するような無様なことをしなくてはならない?」

「え…それは、まだ復活してないから?」

「そう、なら復活しないといけない状況になったのは何故だ?」


 アレンの言葉から、レミアはだんだん分かってきた。アレンがなぜここまで魔神と呼ばれる存在を恐れていない根拠を…。


「その魔神とやらは人間に負けたんだよ。ちなみに魔神を殺したのは、初代のローエンシア国王とアインベルク男爵だ」

「え?そうなの?アレンとアディラのご先祖が魔神を殺したの?」

「ああ、人間に負けたという例があるのに、その魔神を恐れる理由なんかないだろ」


 アレンの言葉に三人は頷く。確かに魔神という言葉から敵を必要以上に大きく見ていたのかもしれないと三人は思う。だが、アレンの論法では警戒する相手ではあるが、勝てない相手ではない事が分かる。勿論、厳しい戦いになるだろう事は十分想定しているが、絶望する必要はまったくないのだ。


「その魔神をアレンが恐れないのは分かったわ。でも、結局、魔神の死体と墓地の浄化不能の理由をまだ話してもらってないんだけど」


 レミアがもう一つの疑問点をアレンに聞く。


「ああ、それはご先祖達が魔神を殺したまでは良かったんだけど、魔神の死体からあふれ出る瘴気は途切れることがなかったんだ。ちなみにご先祖達はありとあらゆる方法を試したらしいが結局、魔神の死体から放出される瘴気を止めることは出来なかったらしい。そこでこの地に魔神の死体を埋め、俺のご先祖が墓守としてここを管理することになったというわけだ」


 アレンの話を三人は黙って聞いている。


「ちなみにローエンシア国王と俺のご先祖はどっちが国王になるかで揉めたらしい」

「「「え!!」」」


 アレンの言葉に三人は驚く。国王の座を巡って争ったのだろうかとアインベルク家とローエン家の確執があったのだろうかと気持が沈むのを感じた。


「ああ、お互いに国王の座を押しつけ合ったという話だ」

「え?」

「最終的にクジ引きで決めたらしい。その時の初代国王の絶望とイライラは凄かったらしいぞ」

「…」


 思っていた争いとはまったく逆だったようだ。道理で、ローエン王家とアインベルク男爵家は友人関係なわけだ。


「まぁ、そんな感じで、魔神が復活というよりもまた現れたら斃すという基本方針だけは関係者に伝えておこうと思う」


 アレンの声にまったく気負いはない。本当にいつもの墓地見回りでのアレンの声と一緒だった。


「でも、アレン…その魔神はいつ頃復活するのかしら?」


 フィアーネがアレンに尋ねる。


「それは分からないけど、そうだな今日、明日というわけじゃないと思うぞ」

「根拠は?」

「今夜の魔人エーケンを吸収したけど、それから気配が完全に消えたろ」

「うん」

「ということは、魔神はまだまだ全然、力を取り戻してないんだと思う」

「うん」

「もし、栄養十分ならすぐにここに現れるだろ」

「なるほど」

「多分だけど、魔神は長い年月で体を失ったんだと思う。時間の経過による劣化は、魔神であっても逃れられないというわけだな」

「じゃあ、復活前に処理するというわけにはいかないわけね」

「まぁ、そうなるな。俺としたら復活してもらい。それを斃した方が効率が良いと思ってる」

「どういうこと?」


 アレンの言葉は三人には意外だったようだ。


「いやさ…。魔神が復活のためにいろいろな奴を呼び寄せるようになるとするだろ。それを魔神が処理してくれるわけだ」


 アレンの言葉を受けて、三人は得心がいったようだ。


「なるほど、魔神を利用するわけね」

「そういうこと、そして復活した魔神を始末すればそれで終わりというわけ」


 アレンの言葉に三人は苦笑いする。魔神ですらアレンにとっては仕事の道具でしかないのだ。


「さて、それじゃあ帰ろうか」

「「「うん」」」


 アレンの言葉に三人は嬉しそうに答える。


 アレンはその様子を見て微笑む。


 この幸せの怖そうとする者は容赦せずに滅ぼすことをアレンは心に誓う。







 今夜の出来事は翌日、ローエンシア上層部に報告された。


 この件でアレンは、対魔神の総責任者に任命されることになった。アレンの墓守の業務に魔神への備えが追加されることになったのだ。


 以前、感想で『国営墓地の浄化不能な理由って書かれてましたっけ?』というご指摘があったんですが、179話にしてやっと、物語の核となる部分をお届けすることになりました。


 まぁこの作品の基本は、主人公達が敵を容赦なく倒すという所なので、蛇足的な感じもしますが…。


 『え?今更』というツッコミではなく、優しいツッコミをお待ちしています。

(なんか、最近の後書きでもそんなことを書いた気がします…)

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