魔人②
ちょっと虐殺描写が残酷でした…。読むときはそこを注意してください。
「とりあえず…お前達には死んでもらおうか」
この言葉が口から嘲りと共に発せられた瞬間に、魔人エーケンは動く。
魔人は凄まじい速度で、魔術師との間合いを詰め、一人の魔術師の頭を鷲づかみにするとニヤニヤと嗤い、頭上に掲げる。
鷲づかみにされた魔術師はジタバタと暴れて必死の抵抗を見せていた。
「た、助け…がぁぁっぁぁぁっぁぁぁっぁ!!」
魔術師の口から苦痛の叫びが放たれる。魔人はその声を聞き、ニヤリと嗤うと、魔術師の頭を握りつぶした。
眼を反射的に背けてしまうほどの惨状だった。頭を握りつぶされた魔術師の体は地面に落下し、握りつぶされた箇所を魔術師達にさらす。眼を背けるのが遅れた魔術師達数人の口から吐瀉物が吐き出される。
だが、この場でそれを責める者など存在しない。魔術師達はみな、恐怖にとらわれていたのだ。
「何をしている!!殺せ!!」
分隊長の一人が声を張り上げる。いくら魔術師といえども、ラーミット魔術師団は軍である。命令があれば動くように訓練されているのだ。
「くくく…」
おかしくて仕方ない感じで魔人は、命令を出した分隊長の首を掴むと先程の魔術師のように頭上に掲げた。他の魔術師達は先程と同じように頭を握りつぶされると予測したが、今回は違った。
魔人は頭上に掲げた分隊長の腹に手刀を刺し込み横に引き裂く。分隊長の腹から腸がこぼれだし地面に落ちる。分隊長はまだ意識があるのか涙を浮かべている。しかし、魔人はニタニタと嗤い、分隊長をいたぶっている。
しばらくいたぶっていた分隊長が意識を失った事で、喉を握りつぶし、分隊長の頭部を引きちぎった後、分隊長の体と頭部から手を離し地面に落ちる。あまりにも現実感に乏しい光景に魔術師達は動けない。
いや、これが現実である事を魔術師達は理解している。そして、自分達が殺される事も本当は理解していたのだ。だが、それを受け入れることが出来なかった魔術師達は、現実としてとらえることを放棄したのだ。
魔人はニタリと嗤い、虐殺を開始する。
「ぎゃああああ」
「ひぃぃぃ」
「駄目だ!!逃げ…ぐぎゃああ!!」
「助けて、ぐぎゃあ!!」
魔術師達の叫びが神殿の最奥に響き渡る。その叫びもだんだん最奥から奥へ、そして中央、出口付近で叫び声が上がっていく。
神殿の外に魔人が出たときには、すでに魔術師達の死体が折り重なっており、その惨状のひどさを物語っていた。
「あっちか…」
魔人はそう呟くと、背中からコウモリのような羽を生やすと、羽を羽ばたかせ空に浮かぶと飛び去っていった。
飛び去った方角の先にはローエンシア王国の王都フェルネルがあった…。
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深夜になり、いつものようにアレン達は国営墓地の見回りを行っていた。
今夜のメンバーはいつもの四人に加えて、駒を5体連れている。アレン達が駒となった犯罪者達をつれているのに、別に明確な目的はない。このアレン達を襲って返り討ちにして捕まえた連中をアレンは完全に駒としかみていない。
そんな駒達は元々、アレンが魔族の襲撃の時に使うつもりで確保したのだが、前回のイグノールとの戦いでは、駒を使うという状況を作り出すことが出来なかったのだ。
実際、その時点でこの駒達の出番はしばらくないのだが、ただ飯を食わせるのはなんだか腹が立つので、墓地の見回りに連れてきたというわけだった。
毎晩、墓地の見回りに同行させていたために、駒となった者達はかなりの数がケガをしている。アレンは駒の者達の何人かに治癒魔術を習得させ、治癒魔術をそいつらにさせた。
ちなみに習得させる費用はアレン達が出すのではなく、駒達が自分で稼いだ金である。国営墓地の見回りに出る者以外は、日雇いの肉体労働者として金を稼いでいたのだ。アレンはその金を取り上げるようなことはしなかったが、駒達の装備、魔術の習得のためにその金を使ったのだ。
「う~ん…今夜の見回りもいつも通りで何よりだ」
アレンの声に三人の婚約者達は頷く。今夜、発生しているアンデッド達は、スケルトン、死霊などでありそれほどの強さのアンデッド達ではない。
アレン達四人にしてみれば、完全なルーチンワークであった。しかもかなり甘めのである。もちろん、ルーチンワークだからと言ってアレン達に気の緩みはない。発せられた言葉自体は呑気なものであったが、周囲の警戒を怠ることは決してしない。『いつも通り』とは常に気を張り、周囲を警戒してアンデッドを駆除するという意味であり、油断とは程遠い精神状況である。
ただ、アレン達にとっては危険を感じるほどのアンデッドではないが、駒として連れてこられた男達にとっては命がけであった。
「アレン…」
フィアーネが声を潜める。その様子を見て、アレン、レミア、フィリシアが頷く。
「なんだ?」
「何?こいつ…」
「何者でしょうか?」
アレン達四人のやりとりに、駒の男達の緊張は嫌が応にも高まる。男達から見て、アレン達の実力は遙か彼方に位置しているのだ。そのアレン達のただ事でないという声色に緊張するなと言うのが無茶だった。
もし、アレン達が自分達に好意的であったら、彼らが守ってくれると考える事もできただろう。だが、アレン達は自分達に対する好意など皆無であり、それどころか道具としてしか見ていないことは男達にも分かっていたのだ。
アレン達は警戒を強める。
放たれる禍々しい気配は、人間の者では無い。だが、魔族のものとも異なる。正体不明の気配がこちらに向かっているのだ。
「何者かは知らんがろくでもない奴である事は間違いないな」
アレンの言葉に、三人が頷き返答する。
「ええ、厄介な奴みたいね」
レミアの声に警戒の色が濃くなった。
「アレンさん…気付いているとは思いますが、こちらに向かってくる相手以外にも…」
フィリシアがアレンに言う。アレンもこちらに向かってくる者以外の存在を感じているのだ。
「ああ、分かっている。だが、とりあえずはこっちに向かってきている奴からだな」
アレンがそういった瞬間に、墓地の結界を破り、侵入してきた者がアレン達の前に降り立った。
「これはこれは…」
侵入してきた者はアレン達を見ると、ニヤリと嫌らしい嗤いを浮かべる。
「誰だ?」
アレンの声は警戒を少しも含んでいない。友人に話しかけるような穏やかなものである。勿論、アレンはこの侵入者を友人とみなしているわけではない。警戒の感情を気取られた時に遅れを取るかも知れないと考えたアレンの演技であった。
問われた侵入者は醜悪な嗤いを浮かべ答える。
「ああ、俺の名はオルトー=レンスだ。最もお前達の中では魔人エーケンという方が通じるかもしれんな」
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