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閑話Ⅲ~看護②~

 難産でした…。

「さぁ!!アレン!!私のミルク粥は栄養たっぷりよ!!」

「アレン!!私の麦粥は薄味だから、胃に優しいわよ」

「アレンさん私の麦粥は少し味を濃くしてみました」

「アレン様~ぐへへ」


 アレンの四人の婚約者達はそれぞれ作った食事をアレンにすすめる。一人だけ誤ったすすめ方をしているのは気になるが、そんなことはもはや四人にとって些細な事である。


(なんだ? 四人ともどうしたんだ?)


 アレンの戸惑いは大きくなるばかりだ。


「あのさ…、みんな今日はどうしたんだ? 何か妙な波動を感じるんだが…」


 アレンの戸惑いの声に対して、四人は声を揃えて返答する。


「「「「そんな事はどうでもいいから!!!」」」」


 ズイッっとスプーンを四人が差し出す。


 アレンは有無を言わさぬ四人の様子に、諦めて食べることにする。おそらく、ここで恥ずかしいから自分で食べるなどと言っても却下されることは目に見えていた。先程までフィリシアの顔は赤かったのだが、もはや何かを振り切ったかのように据わった目でアレンを見ている。

 

 アレンは自分から見て、右側から食べることにする。フィアーネ、レミア、アディラ、フィリシアの順番に落ち着いたのだ。


「それじゃあ…」


 アレンは差し出されたフィアーネのミルク粥を口に入れる。


「美味い…」


 アレンの言葉を受けて、フィアーネの顔が笑顔一色になる。本当に幸せそうだ。その様子を他の三人が羨ましそうに見ているのをアレンは感じ、すぐに、レミアのスプーンに盛られた麦粥を口に含む。


「これも美味い…」


 レミアの言うとおり、薄味に味付けされており、胃に優しい麦粥だった。アレンの言葉にレミアも幸せ一杯という顔をする。

 次はフィリシアの麦粥だ。フィリシアの差し出すスプーンを含む。


「あ…美味い」


 フィリシアの麦粥は、しっかりとした味付けであり食が大いに進みそうである。アレンの感想に、フィリシアの顔は赤くなり、その様子は幸せそのものだ。


「アレン様、さぁ、私のカボチャのポタージュです」


 アディラはカボチャのポタージュスープをスプーンですくってアレンに勧める。アレンが食べようとすると、『あっ!!』というと、口で2,3回息を吹きかけ冷ましてアレンに差し出す。


「アレン様、はい、あ~ん♪」


 アディラは幸せ一杯という顔でアレンに勧める。アレンは照れながらもアディラに食べさせてもらった。三人は『その手があったのか!!』と雷に打たれたかのような顔をしている。


「美味い…」


 アレンの感想にアディラもまたにっこりと微笑む。


 四人とも、アレンに自分の料理を食べさせることが出来た事で、幸せを噛みしめる。だが、まだ四人の野望はまだ完全に成就したわけではない。


「さぁ、アレン!!ちゃんと食べないと駄目よ。ふふふ~」

「アレン、私のもちゃんと食べてね、くふふ」

「アレンさん、その…私のも食べてください」

「ぐへへ~アレンお兄ちゃ…じゃない、アレン様どうぞ」


 四人は完全に怪しい波動を放ちながらアレンに勧めてくる。何か、先程よりもスプーンに盛られている量が多い気がする。


「「「「いいから食べて!!」」」」


 四人の圧力に負けたのかアレンはコクコクを頷き、順番に差し出される食事を口の中に入れていく。いや、正確には入れられていく。


 四人の作った食事が美味なのは嬉しいが、ゆっくり味あう暇がない。


 そんな時に、アレンの口の横に麦が一粒ついてしまった。四人はそれを目ざとく見つた瞬間に差し出していたスプーンをほぼ同時に自分の持っている皿に戻し、スプーンを置くと、アレンの口元にほぼ同時に手を伸ばし始める。


 四人の中で時間が凝縮され、感覚が研ぎ澄まされるがわかり、時間の経過がゆっくりに感じられる。一瞬でも早くアレンの口元についている麦をとり、自らの口元に入れるのだ。四人の頭にはそれしかなかった。


 そもそも『ひょい、パクッ』は柔らかな雰囲気の中でやることで甘い空気を演出するのだが、ここまで、果たし合いのような攻防では甘い空気を演出することは不可能なのだが、今の四人にはそこまで考えが及んでいなかった。



 だが…その四人の努力を完全に踏みにじったのはアレンである。


 アレンが一瞬早く自分の指で四人の野望を形にしたものをとってしまったのだ。当然、四人の動きは凍り付いた。そして天国から地獄という表現が最も似合う表情の変化を四人が見せてくれる。あまりにも見事すぎる表情の変化にアレンは狼狽した。


「あ…あの…どうしたんだ?」


 婚約者の落ち込みようにアレンは恐る恐る聞いた。


「ア~レ~ン~、どうして自分で取っちゃうのよ!!!」

「アレン!!空気を読みなさいよ!!」

「アレンさん、あなたに私達の絶望がどれほどか分かりますか?」

「アレン様~、乙女の野望を踏みにじるなんて!!!!!!」


 四人が一斉に責め立てル事にアレンは意味も分からず、アレンの狼狽は強まる一方であった。


「え?え?え?」


 アレンの狼狽に四人は非常に不満という顔を向ける。


「アレン!!そもそも私達がどうして立て続けにアレンに食べさせたと思ってるの!?」


 フィアーネの言葉は完全にアレンには理解不能だった。


「え~と…俺の看護の…ため?」


 アレンの言葉に四人は『ふっ』と笑う。


「甘いわ!!アレン」


 フィアーネがアレンを指さし高らかに宣言する。他の三人もうんうんと頷いている。


「私達は『ひょい、ぱく』をするためにアレンに食べることを急かしていたのよ!!」

「…」

「それなのに…アレンは自分で取っちゃうし…」


 アレンは聞いたこともない単語に戸惑うが、それよりもフィアーネの様子が気にかかる。このテンションは異常だ。そして、他の三人も同様のテンションになっていく。一度ため込んだエネルギーが再び充填されていくようだ。


「アレンさん…私がどんなに恥ずかしい思いを押し殺して…でも、『ひょい、ぱっく』のためにがんばったのに…あんまりです!!」


 フィリシアはエネルギーが貯まったのだろうか、色々とテンションが暴発しかけている。


「アレン…あなたには、乙女のささやかな野望を…どうしてくれましょうかねぇ」


 レミアはため込んだエネルギーが怒りに変換されたようだった。というか乙女のささやかな野望って…。乙女なら願いとか望みと言うような単語を使って欲しいとアレンは心の中で思ったが、怖くてとても言えない。


「アレン様…この償いは当然、行っていただけますよね? ぐへへ」


 アディラはなんかいつも通りだった。ある意味、アディラはぶれない事に安心するが、変態親父モードの笑い声を出すアディラの中でどのような算段がついているのか考えると正直怖い。


「え~と…みんな落ち着いてくれ。俺の何が悪かったか説明してくれ」


 アレンの訴えは正論中の正論であったが、四人の心には響かなかったようだ。


「もう、面倒くさいから、このままアレンに甘えちゃわない?」


 フィアーネの言葉に三人は頷く。


「そうね。シチュエーションを作ってというのも良いけど、今回は置いときましょう」

「アレンさん…償ってもらいますね」

「フィアーネの言う通りね。やっぱり私達には直接行動という方法が似合うのかもしれないわね~ぐへへ」


 四人はアレンににじり寄ってくる。アレンは捕食される生物の気分をこの時、初めて理解した。




 それから、四人はひたすらアレンに甘えまくることになった。


 四人はホクホク顔で終始過ごすことが出来たが、アレンはあまりにも恥ずかしくてたまらない時間を過ごした。


 ちなみに性的な事は何一つ起こらなかった事は記述しておく、これをアレンの意思の強さと取るか、ヘタレととるかは聞いた者で意見が分かれるところだろう。





------------------


「アレン様のご様子は?」

「婚約者様方に甘えられ、ひたすら照れてますよ」


 ロムとキャサリンが苦笑しながら言葉を交わす。


「ロムさん、これじゃあアインベルク卿は少しも心が休まらないのではないですか?」


 アディラの侍女兼護衛のメリッサがロムに尋ねる。


「そうですよ。確かにアインベルク卿に甘えるアディラ様達は本当に幸せそうでしたが、肝心のアインベルク卿は照れっぱなしでしたし、何かを我慢している姿は私にも分かりましたよ」


 もう一人のアディラの侍女兼護衛のエレナが言う。


 アレンは結婚までは何が何でも、婚約者達に手を出さないと決めているので、甘えてくる四人の婚約者に手を出さないように必死に戦っていたのだろう。


「これはアレン様への罰なのですよ」

「「罰?」」


 ロムは苦笑しながら言う。ロムの言葉にメリッサとエレナは首を傾げる。


「はい、アレン様は周囲の者が傷つくのを非常に嫌います。ですが、自分の事になれば傷つくのを少しも厭いません」

「確かに…」

「はい」

「私達からすればアレン様が傷つくのは、非常に嫌なのですけどね。あの方はそこのところを意外と忘れてしまうのです。今回の件は本来、アレン様はすぐに治癒を受けるべきでしたのに、それを後回しにしました。そのことに対して苦言を申し上げましたが、アレン様は恐らく、またやるでしょうから、そうさせないための手段として、婚約者の方々に看護をしてもらったのです」

「「?」」


 ロムの言葉にメリッサもエレナも首を捻る。婚約者の看護がどうして無茶な行動を抑止することになるのかわからなかったのだ。


「つまり、アレン様も健康な男子、そこにあれほどの自分を慕う美しい婚約者達に手を出すわけにはいかないという葛藤はすさまじいものでしょうな」

「でも、下品な事を言ってしまいお恥ずかしいのですが、アインベルク卿が求めれば、その…アディラ様達が拒むとは思えませんが…」


 むしろ喜々として応じてしまうのではないのだろうかとメリッサは考えてしまう。だが、ロムはそんな心配は無用とばかりに言う。


「それはその通りでございましょうが、アレン様は絶対に手を出すことはありません」

「どうしてそう言いきれるのです?」

「アレン様が決めたからでございます」


 ロムの言葉は答えになっていない気もするが、ロムは自分の言葉を完全に事実と考えているようだ。


「アレン様は一度決断されたことは、絶対に覆しません。増してやその事は婚約者様方にも約束されました。いくら自分が辛いからと言って約束を反故にするような事はいたしません」

「…何というか、面倒くさい方ですね」

「はい、しかし、それがアレン様なのです」


 ロムの言葉にその場にいる全員が苦笑する。


「この苦しい戦いを制する事はアレン様でさえ容易ではありません。このような状況になったのは自分が無茶をした結果と捉えると思われます。ならば二度とこのような失態はしないと今頃心に誓っていることでしょう」


 ロムの言葉にメリッサとエレナも色々と『そんなものかしら?』と思わない事は無かったが、ロムとキャサリンは自分達の考えに絶対の自信を持っているようだ。アレンの事をよく知るロムとキャサリンがそう言うのなら、そうなのだろうととりあえず納得しておく。




 後日、ロムとキャサリンがアレンに、『またこのような無茶をすればまた婚約者の方々に頑張ってもらいますよ?』と伝えるとアレンは即座に、そして何回も頷いたのを見て、ロムとキャサリンは自分達の企みが上手くいったことを確認する。


 だが、この手もアレンが結婚する3年先までしか使えない。


 ロムとキャサリンはそれまでに別の方法を考えることにする。だが、3年もあるのだから時間はたっぷりあると墓地の見回りに出かけるアレン達の背中を見ながら、二人は考えるのであった。


 甘い空気を出すための練習として書いたのですが、どうも…上手くいきませんね。


 自分にはやっぱり恋愛要素を描くのは難しいですね。精進あるのみです。


 おつきあいしていただきありがとうございました。

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