閑話Ⅲ~看護~
ちょっと短いですが、ご容赦ください
「アレン様~♪あ~ん」
「アレン~♪あ~ん」
「アレン♪はいど~ぞ♪」
「アレンさん…あ~ん」
アインベルク邸のアレンの自室にあるアレンのベッドで、アレンは婚約者達の手厚い看護を受けていた。
イグノールとの戦いによって傷ついたアレンを、婚約者達が献身的な看病を行っていたのだ。
フィアーネ、レミア、フィリシアは勿論であるが、知らせを聞いたアディラもアインベルク邸にやってきて看病を行う事になったのである。
アディラは全寮制のテルノヴィス学園に通う学生であるが、婚約者の看病という形で、学園には休みをもらっている。テルノヴィス学園には、家族、またはそれに準ずる者の看病などの理由がある場合には、休みをもらえるという制度があるのだ。ただ、休んだ分は課題を提出するなどの補習的措置をとらなければならない。
アレンはイグノールとの戦いを終えたその日に、墓地の見回りに出ようとしたのだが、それはさすがに行かせられないと、フィアーネ達が行こうとしたのだが、今度はロムに止められ、結局ロムが墓地の見回りに向かうことになった。
そして、良い機会と言うことで、このままアレンには三日程の休養をとってもらうことになったのだ。
『とってもらう』という表現を使ったが、実際はロムとキャサリンによる強制である。事の顛末を聞いたロムとキャサリンは珍しく強い口調で、アレンの行為に苦言を呈した。主人と使用人という立場以上に、アレンにとっては祖父母という感覚が強い。
ロムとキャサリンは、フィアーネ達にアレンが安静にするように求め、フィアーネ達はそれを快諾した。
そして、四人の婚約者達は、アレンの看護に全身全霊を持って臨むことになったのだ。ただ、一度に看護をするために、アレンはかなり気を使うことになった。何だかんだ言ってアレンは四人の婚約者を愛おしく思っているし、大事に思っているために、自分のためにしてくれている婚約者を悲しませるような事はしたくなかった。
ちなみに、四人の婚約者達は別に競っているわけではない。ただ、アレンのために何かしたいと思っての行動であったのだ。それがいわゆる食事を食べさせるという行為、いわゆる『あ~ん』というやつであった。
ちなみに四人の分量を合わせればちょうど一食分になるというところに、婚約者達のチームワークを感じる事が出来る。
(アレンお兄ちゃんに『あ~ん』ができるなんて♪でも、これは遠大な計画の第一歩よ!!これで満足しちゃ駄目よ!!)
アディラはつい緩んでしまう顔を引き締めるのに苦労しながら野望を目に宿している。
(ふっふふ~アレンったら照れちゃって♪…はっ、ここで満足しちゃ駄目よ!!これはしょせん第一歩よ!!)
フィアーネもアディラ同様に頬がつい緩みがちだったが、アディラ同様に野望を目に宿している。
(アレン!!さぁ食べて食べて!!そして、私の野望を…くふふ)
レミアはニコニコとしているが、何かせかすような雰囲気があった。
(うう…恥ずかしいよぉ…でも、もっと恥ずかしい事するんだから、くじけちゃ駄目よ!!…くふふ)
フィリシアは顔を真っ赤にしながらも、何かを狙っているようであった。
一方、アレンは同時に出されたそれぞれのスプーンから生じる何というか隠された意図を感じており、戸惑っていた。もちろん、悪意などは一切感じないし、この四人がアレンに危害を加えることは天地がひっくり返ってもあり得ないので、そこは心配していない。
アレンが何かしら隠された意図を感じているのは、間違いではない。実際にアディラ達はある計画を練っていたのだ。その計画とは、いわゆる『ひょい、パクッ』という奴だ。そう、口の周りに食べ物がついている時に、取って上げてそれを食べるというアレである。
この計画は四人がアインベルク邸の厨房でそれぞれ食事を作っている時にアディラが言った言葉によって始まった。
『みんな…知ってる? 恋人同士では『ひょい、パクッ』というのをするらしいの』
『なにそれ?』
聞き慣れない謎の言葉に三人は首を傾げる。
『うん、私の侍女のエレナがね、恋人なら『ひょい、パクッ』にあこがれるって言ってたの』
『『『うん』』』
『その『ひょい、パクッ』ってのはね。例えば恋人同士が一緒に食事を取ったときに恋人の頬に食べ物がついてたりした時に、手でその食べ物をとって、それを恋人の前で自分の口に入れるらしいの』
アディラの言葉に三人は固まる。
『でも、アディラ…それってマナーとしてどうなの?』
フィアーネは抵抗があるようだ。もちろん、アディラとてマナーに問題があるのは分かっている。
『でも、フィアーネ…これはアレン様に日頃と違う自分を演出できるんじゃないかしら?それに『もう~しょうがないな~』という雰囲気を醸しだせば、アレン様に甘えやすくなるんじゃないかしら』
アディラの言葉にフィアーネ達三人は考え込む。まず、レミアの頬が緩む。次いでフィリシアが真っ赤になり、最後にフィアーネの頬が緩んだ。そして声を揃えて言う。
『『『ありね!!』』』
三人の反応にアディラも笑顔になる。
『しかも…これって上手くいかなくてもアレン様に『あ~ん』は出来るわ!!』
アディラの言葉に三人はピクリと動く。今度は四人とも想像しやすかったのか、早い段階で顔が緩み始める。
『成功しても、失敗しても私達にとっておいしいじゃない』
レミアがポツリと呟く。非常に小さい声だったが、三人の耳には、はっきりと聞こえる。
『でも『ひょい、ぱく』というのも魅力ですよ?」
フィリシアの顔はなおも赤いままだ。
『ふっふふ~アレンに『あ~ん』…その後、抱きしめられたら…』
フィアーネはさらに一歩すすんでいる。
『ぐへへ~アレン様~ぐへへ~』
アディラも通常営業だ…。残念王女の面目躍如だ。
『『『『早く作りましょう(るわよ)!!』』』』
四人の心は今一つになった。
というやりとりを経て、アレンに四人揃って食事の介護をしているという状況だったのだ。




