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魔族Ⅲ⑥

 アレンの視界が急に変わる。


 街角を走り抜けていた所に視界が急にぼやけ、視界がまた回復した。視界が急にぼやけたときに『転移させられる』と言うことを一瞬のうちに認識したアレンは視界が回復すると同時に右に跳んだ。


 転移させられたと言うことは罠に嵌まったと言うこと、という事は転移した場所に無防備にしていれば攻撃を受ける恐れがあるための行動であった。転移した先の魔法陣で攻撃をするのは罠をはる上での常套手段だったのだ。


 アレンは転がりながら周囲の状況を確認する。周囲にはかなりの数の魔族達がいるようだった。


 立ち上がり、周囲の魔族達を見渡すと明らかに他の魔族とは一線を画す魔族がいる。今まで何回かこういう格好をした魔族に襲われたからこそわかった。こいつが『イグノール』であることは間違いないだろう。


 イグノールの身長はアレンとそれほど変わらない。魔剣士と呼ばれる者達が纏うフルプレートに身を包み、長剣を背負いこちらを見ている。顔立ちはそう悪くない。いや、秀麗と呼んで差し支えないような要望だ。黒い髪が短く刈り込まれているのは、髪を戦闘中に捕まれることを防ぐためだろう。


「初めまして、墓守殿」


 イグノールの口からアレンへの挨拶が発せられる。イグノールの言葉にはこちらを蔑むような感情は見られない。だが、周囲の魔族達はニヤニヤとこちらを蔑んだ表情を見せている。


 アレンとすれば時間を稼ぐのが、良い手なのだが、あえて悪手を選んでみることにした。その悪手とはいきなりの戦闘である。


 なぜアレンがいきなり戦闘を選んだのか?


 理由は二つ…。


 一つは単純にイグノールの予想を裏切る必要性にかられたからだ。イグノールはアレンが考える限り、非常に用心深く、戦闘に関する考え方に油断というものは存在しないと思っていた。戦闘に関してアレンとイグノールは似たもの同士であるとアレンは考えていたのだ。

 そこから、イグノール自身もアレンを非常に用心深い相手と見ていると思い、まずは対話することで情報を探り合うという方法をとると想定していると考えたのだ。ならば少々悪手とはいえ、いきなりの戦闘行為はイグノールの予想を上回る行為であると考えたのだ。


 そしてもう一つは…。


 アレンはいきなり、横に跳び一番近くにいた下級悪魔に剣を突き立てる。呆気にとられる下級悪魔に苦痛のうめきが発せられようとしたときに、アレンはすでに次の下級悪魔を斬り捨てている。


 あまりの行動に周囲を囲む魔族達は咄嗟に動けない。そこに容赦なくアレンの剣が振るわれる。

 立て続けに斬り捨てられた下級魔族達を見て、周囲の魔族達の怒りが爆発した。


「ふざけるな!!人間如きがぁぁぁぁぁ!!!!」

「殺せ!!」

「やっちまえぇぇ!!」

「ぶっ殺せ!!」


 周囲の魔族達は一気にアレンに殺到する。人間如きに舐められてたまるかという魔族としての誇り、いや人間を蔑む心がイグノールの部下達に行動を起こさせたのだ。


 そしてこれが、アレンのとったもう一つの理由である。すなわち、イグノールの思惑通りに戦闘が始まれば、この不利な状況からフィアーネ達と合流する前に討ち取られる危険性もあったのだ。イグノールの手から事態をコントールする術を外すというのがアレンのとった理由であった。


(意外とうまくいったな…)


 アレンが心の中で呟く。てっきりイグノールは部下達を制止すると思っていたため、意外だった。


 イグノールは、当初勝手に動く部下達を確かに制止しようとしたが、アレンの戦闘技術を見るために制止することを思いとどまったのだ。


(墓守め…。俺に主導権を渡さぬための行動か…。だが、それは悪手だぞ)


 

 アレンの下に殺到する下級悪魔達をアレンはあっさりと斬り捨てていく。アレンの手に握られているのは『魔剣ヴェルシス』斬った者の生命力を吸収する魔剣だ。まったく消耗していないアレンにとって現段階で魔剣の能力は必要ないが、後から活きてくることになるだろう。


 アレンは死体を量産していく。そして、その死体達が二、三度の痙攣の後、立ち上がりデスナイトに変貌する。数は6体だ。デスナイト自体は中級魔族であれば問題なく処理できるアンデッドだが、死体の突然のデスナイトへの変貌は魔族達の動揺を誘う。


 その動揺を嘲笑うかのようにデスナイトは魔族達に襲いかかり、たちまち数体の魔族達が血祭りに上げられた。

 その様子を見て、アレンは瘴気を集め始める。集まられた瘴気は拳大の塊となり、一気に人型に変貌する。変貌した瘴気の塊は長い髪を靡かせ、妖精の様な羽を生やした美しい女の形となった。

 アレンの作成した闇姫である。アレンの作成した闇姫を知らない魔族達は狼狽える。美しい容貌だが、それ以上に闇姫から発せられる禍々しさが恐怖を与えていたのだ。


 その禍々しい存在が四体…。警戒するなという方が難しいだろう。


「…行け」


 アレンの静かな殺意をのせて紡ぎ出された言葉を受け、闇姫達が周囲の魔族達に襲いかかる。


「ぎゃああああ!!!!」


 一体の下級魔族が闇姫の手で腹を引き裂かれる。腹を引き裂かれた下級魔族は絶叫を放つ。仲間であれば耳を塞ぎたくなるような痛々しい叫び声だが、加害者である闇姫は何も感じていないのだろう、容赦なく叫び声を上げる口に両手をつっこみ空に浮かび上がる。その様子を他の魔族達は呆然と見ている。

 10メートル程の高さに浮かび上がった闇姫は暴れる下級魔族を空中で引き裂いた。より描写すれば上顎と下顎を引き裂いたのだ。闇姫の両手には下級悪魔の上顎から上の部分が、もう片方には下顎からしたの部分が握られている。引き裂かれた箇所はグロテスクそのものだ。

 意識などない闇姫だが、下級魔族を引き裂いた顔には愉悦の表情が浮かんでいた。


 空中に浮かんだ闇姫は引き裂いた下級悪魔の上顎を眼下の魔族に投擲する。凄まじい速度で放たれた上顎部分は、下級魔族の顔面にあたり、躱せなかった下級魔族の頭は、壁に叩きつけられたスイカのように爆ぜた。


 そして、もう一方の下顎の部分を手放すと下級悪魔の死体は落下する。その光景を見ていた魔族達にさらなる悲劇が起きる。


 死体を手放した闇姫はそのまま地上に降り立ち、落下した下級魔族の足を握るとまるで棍棒のように死体を振り回し始めた。直撃を受けた中級魔族はすさまじい衝撃により宙をまった。地面に叩きつけられた時にはすでに事切れており、威力のすさまじさを物語っていた。


 他の闇姫達も思い思いの方法で魔族達を蹂躙していく。辺りには次々と死体の山が築かれていく。


「ぎゃあああああ!!」

「ひぃぃぃぃ!!」

「た…助けて!!」

「うぎゃあああ!!」


 もはや、魔族達に先程までの余裕はなかった。その動揺を見逃すほどアレンは優しくない。すかさず恐怖に凍る魔族達を斬り捨てていく。またも絶叫が上がる。


 アレンは、魔族達の数を減らしながらもイグノールの動きから警戒を外さない。この程度の戦闘力をアレンが有している事など当然想定しているだろう。ということは、このまま何の動きもなく終わると言うことはあり得ない。


 これはまだ前哨戦にすぎないのだ。


 アレンはそう思い。下級魔族を血祭りに上げた。

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