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魔族Ⅲ③

 フィアーネとレミアが蹂躙した6体の観察者のうち、息があったのは一体だけであった。それもフィアーネの正拳突きによって胸骨を砕かれ、その勢いで壁に叩きつけられたために、生きていたのは単純に運が良かったという状況だった。


 ロムは、二人が斃した魔族達に瘴気による【瘴操術】によって、死体となった者、かろうじて息のある者をアインベルク邸に連れ帰った。というよりも自らの足で向かわせた。


 アインベルク邸に到着した魔族達のうち、まだ息のあるものに対して、治癒魔術を施し、なんとか命をつなぎ止め、尋問を行える状態にまで回復させる。


 尋問を開始したのだが、魔族は何もしゃべらず、黙秘を貫いた。


 アレン達は魔族の態度から拷問は無駄と悟り早々に尋問を打ち切り、両手足の骨を砕くと【瘴操術】によりアインベルク邸から自らの足で退出させた。


 魔族を追い出すと、アレン達は今後の対応を話し合う。


「さて、結局の所、今回得た情報は、あの魔族を送り込んだ相手の名前が『イグノール』という事と相手が剣を使うという事、最後に用心深い相手と言うことだ。相手の実力がどれほどか、どんな風体をしているのか、どんな技を持っているのかという事は結局謎のままだ」


 アレンが今回の相手の情報を整理する。結局魔族への尋問は上手くいかなかったので、あの魔族には別の面で役に立ってもらう事にしたのだが、フィアーネやレミアが戦闘前に魔族達の会話を聞いてから得た情報だけであった。

 ちなみに魔族達の会話の中にあった『切り刻まれる』という言葉から、相手が剣を使うと推測したわけである。もし素手なら『引き裂かれる』『叩きつぶされる』という表現を使うだろうし、槍なら『貫かれる』という表現になることだろう。


「そうですね。おそらく魔族の中で強者に位置づけられている剣を使うという相手は『魔剣士』と呼ばれる相手だと思われます」


 フィリシアの言葉にアレン達は頷く。アレン達は魔剣士と呼ばれる相手を4体斃したが、自分の技量に自信があり、アレン達を見下して来ていた。その隙をアレン達は突いて順当に勝利を収めたのだ。


「でも、今回の相手が魔剣士だとしてやっかいな相手のようね」


 レミアが言うのは魔剣士という肩書きではない。その戦闘に望むまでの用意周到さを警戒しているのだ。


「確かに、今までの魔族はこちらを舐めて掛かってきたから恐れる相手じゃなかった。というよりもただのカモだったな」


 アレンの言葉にもまだ見ぬイグノールに対して警戒しているようだ。


「確かに、アレンの言うとおり、今回の魔族はカモに出来ないわね。そして、恐らく今回の戦闘で、私とレミアの戦闘力の一端は知られた…」


 フィアーネが続けようとした言葉はアレン達もわかっている。


「各個撃破…」


 アレンの言葉に三人は頷く。


「となると基本出来るだけ一人で行動しないようにするというわけでいいわね」


 フィアーネの言葉にアレン以外の二人は頷く。アレンが頷かない事に疑問を持ったフィアーネがアレンに尋ねる。


「アレン、どうしたの? 各個撃破されるのは、どう考えても拙いわよ」

「ああ、各個撃破されるのは確かにな…。相手が俺達を各個撃破しようとするのはほぼ間違いないと思う。」

「それじゃあ、気を付けるのは当然じゃない」

「そうなんだが、相手が各個撃破しようとしているのならそれを逆手にとって罠に嵌めるという方法は何かないかなと考えてたんだ」


 アレンはフィアーネの言葉を否定したわけではない。むしろ、各個撃破を仕掛けてくる相手をどのように罠に嵌めるかというもう一段階進んだ事を考えていたのだ。


「う~ん、アレンが目的だから、アレンを一人にしてそこを私達で一気に叩くというのはどうかしら?」


 レミアの計画は大ざっぱだが、非常にシンプルなものだった。そして、シンプル故にその効果は大きい。


「でも、相手も当然その事を想定していると考えた方が良いのかもしれませんよ」


 フィリシアがレミアの意見に反対意見を述べる。ここでフィリシアが反対意見を述べたのは、あえて反対意見を述べることで、意見を深めるのが目的なのだ。そのことを全員理解しているために殺伐とした空気は生まれない。


「方法論はうまく考えるとして、基本はアレンを一人にして、『イグノール』を罠に嵌める。当然、それを相手も想定していると考えた対策をとるということね」


 レミアが考えを巡らせる。


 アレン達がイグノールを罠に嵌めようと画策していたが、それが実を結ぶ事はなかった。なぜなら、アレン達がイグノールに出し抜かれたからである。




-----------------


「イグノール様…ウォドスが帰って参りました」


 イグノールの元に捕らえられた部下が戻ってきたという話を聞き、イグノールは考え込む。


「そうか、ウォドスを始末しておけ」


 イグノールの口から出た言葉は非情そのものである。なんとか帰ってきた部下に対してあまりにもという…感情を部下はどうしても持ってしまう。


「どうした? ウォドスがあやつらに操られている可能性を考えれば、当然の事の対処ではないのか?」


 イグノールの言葉には一応、理論としては正しいと言えるだろう。だが、あまりにも上がなさすぎるのも事実であった。


「…御意」


 だが、部下の口から出た言葉は追従の言葉である。イグノールは部下を殺す事に一切躊躇わないのだ。下手を打てば次は自分なのだ


「ではさっさと始末しろ」


 イグノールの言葉を受けた部下が無言のまま退出する。その様子を見ていたエシュゴルはイグノールへ質問する。


「なぜ、部下を始末する? 確かにヘマをしたのは事実だが、だからといって優秀な手駒をここで使い捨てなくても良いだろう?」


 エシュゴルの言葉にイグノールは小さく嗤う。


「あいつは役に立ったが、代わりは十分に効く以上、始末しても惜しくはない。俺があいつを始末するのは、単に失敗したからではない。墓守が俺達の知らない術を使い、俺の情報を仕入れる仕組みをあいつに仕込んでいた危険性がある。その危険性がある以上、生かしておくわけにはいかん」


 イグノールの言葉にエシュゴルは、なおも反論する。


「しかし、あの墓守が俺達の知らない術をもっているとは思えんがな」


 エシュゴルの言い方は、魔族の一般的な思考回路であり、エシュゴル特有のものではない。エシュゴルはアレン達の戦闘力を知り、警戒はしていたが、魔術という観点からみれば取るに足らない存在と思っていたのだ。

 そのエシュゴルの考え方をイグノールは真っ向から否定する。


「あんたは、あの墓守の好きな色は知っているか?」


 イグノールの質問の意図がわからずエシュゴルは首を傾げる。さらにイグノールは続ける。


「じゃあ、好きな食べ物は? どんな本を読んでいる? どんな話に感動し、どんな言葉に共感を覚える?」

「知るわけないだろうそんなこと」


 エシュゴルはイグノールの質問に不快気に答える。あの墓守がどんな趣向を好むかなどとことんどうでも良いのだ。


「そう、あの墓守について知らないことがある。それでどうして相手が、俺達の知らない術を持っていないと断言できる? その根拠はなんだ?」


 イグノールの言葉にエシュゴルは応える事が出来ない。


「あんたは随分と今まで楽な相手としのぎを削っていたんだな」


 イグノールの言葉にはエシュゴルを見下す確かな感情があった。もちろんエシュゴルもそのイグノールの侮蔑を察しているが、何も言わない。


「いいか、俺達が色々策を巡らすように、相手にも思考能力があることを想定して動け、決して見下した思考回路に陥るなよ。俺達は殺し合いをしていることを忘れるな」


 イグノールの言葉は冷たい。ここまでのアレン達の対応を見ていると油断できない相手である事は明白だった。


「わかった」


 エシュゴルの言葉は不快な感情が含まれていたが、イグノールはそれに気づいていたが、あえて無視をする。


(相手が油断できない相手である事がわかった以上、さっさと行動を起こすか…)


 イグノールは心の中で呟いた。



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