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戦姫Ⅱ⑥

 戦闘が終了した後に、一応、死にそうな者には治癒魔術で治療を施した。正直、尋問がなければ放っておくのだが、この死にそうなクズがひょっとしたら何かしら情報を持っている可能性を考慮して命だけはつなぎ止めておくことにしたのだ。


「さて、クズ共、これから尋問を開始するが、予め言っとくぞ。俺達を苛つかせるな。この意味がわかるな?」


 アレンが開口一番、ギリアド達にそう告げる。


「おい、お前、理解したか?」


 指を差された男はすごい勢いで頷く。アレン達の戦闘力を見せつけられれば、そう小手ざるを得ない。いや、戦闘力もだが男達を恐れさせるのはアレン達の容赦の無さだろう。何しろ、この少年は慈悲を乞う男の顔面を容赦なく蹴り砕いたのだ。ここで、苛つかせると言うことはどのような事をされるか想像するだけで恐ろしかった。


「よし、じゃあお前、お前らの雇い主は誰だ?」


 アレンの質問に指摘された男は狼狽する。まさかギリアドではなく自分のような下っ端が指摘されるとは思っていなかったのだ。恐る恐るギリアドの方を見る。


 その瞬間、フィアーネがギリアドの顔面に蹴りを入れる。ギリアドの顔には苦痛もあったが、それ以上に『何故?』という疑問が浮かんでいる。それはそうだろう。自分には何の責任もないのにという思いだろう。


「もう一度、聞くぞ?雇い主は誰だ?」


 アレンはまた別の男に聞く。指摘された男は答えない。いや、答えないのではない答えられないのだ。問われた男はいわゆる下っ端であり、雇い主が誰か知る立場ではなかったのだ。

 もちろん、アレン達とて、この男がそんな事を知っているとは思っていない。にも関わらず、その男に聞いたのは、アレン達は理不尽な事をする存在だと言うことを意識付けさせるためである。


 高い戦闘力と容赦の無さ、最後に理不尽さで逆らおうという気概を折っておこうという考えからである。


 案の定、男が答えなかった事で、ギリアドに制裁が下される。今度の制裁はフィリシアの投擲したナイフである。フィリシアの投擲したナイフはギリアドの左肩に突き刺さる。


「がぁぁぁ!!」


 またしても、ギリアドへの理不尽な制裁が加えられ、男達の困惑は強まっていく。


 シアとジェドは困惑しつつも黙ってみている。シアとジェドがもしこいつらに捕まっていたらどのような目に遭わされるかをアレン達に聞いており、同情する気は起きない。

 ここで、シアとジェドに手を出せばすればどうなるか、骨の髄までわからせておく必要があることを二人も知っていたのだ。敵に容赦するようなことをすれば次は自分や大切な者が死ぬことを二人とも知っているのだ。


「さて、頭の悪い奴らだな。俺はなんどでもくり返すぞ?その度にお前らのボスは痛い目に遭うというわけだ。愉快だな。クズが痛い目に遭うのを見るのはどこまでも俺を喜ばせてくれる。これが無辜の人間であれば心が痛んでとてもこんな真似は出来ない。ところがお前らの様なクズだと遠慮なく痛めつけることが出来る」


 アレンの言葉が脅しではなく本心である事を男達は悟っている。


「さて、お前らの雇い主は誰だ?」


 アレンの猛禽類じみた笑顔とともに再び発せられた質問に対して、男達は凍り付く。ギリアドがまた理不尽に痛めつけられるのだ。


「ま、待ってくれ!!本当に知らないんだ!!」


 指摘を受けた男は叫ぶが、アレン達はそんなことにお構いなく。ギリアドに理不尽な暴力を振るう。フィアーネが先程フィリシアの投擲したナイフに蹴りを入れる事で、肩口に刺さったナイフが押し込まれたのだ。


「がぁ!!」


 新たな苦痛にギリアドはうめき声を上げる。そして、ついにギリアドは陥落した。


「言う言う!!雇い主は…がぁ!!」


 ギリアドの言葉を封じたのはアレンの投擲したナイフである。アレンが投擲したナイフはギリアドの右太股に突き刺さったのだ。


「がぁ…な、なぜ?」


 意味がわからないという顔でギリアドはアレンを見る。他の男達も同様だ。


「勝手に喋るな…俺がいつお前に質問したんだよ? 頭の悪い奴だな。俺は情報を手に入れる以上にお前をいたぶるのが目的なんだよ」


 アレンの言葉にギリアド達は一斉に顔を青くする。


「お前らはクズだから、温情を弱さと勘違いする。お前らが誰に手を出したか、それを本能レベルで理解させておかないと、また同じ事をするからな。別にお前らの様なクズが何をしようが潰してやるだけだが、蠅がぶんぶん飛び回るのは、うっとうしいからな。二度と俺達の周りを飛べないようにしておこうと思ってるんだよ」

「お願いだ!!話を聞いてくれ!!…いや、聞いてください!!」


 ギリアドが苦痛に耐えながら叫ぶ。口調の変化はギリアドが完全にアレンに屈服したことを示したものだった。


「ふん、まぁいい。雇い主と計画を全部話せ。ああ、嘘でもいいぞ。もし嘘と判断したら、その度に無作為に貴様らのうちの一人を殺すから」


 淡々と言うアレンにギリアド達はまたも体が震えた。世の中にはこんな恐ろしい人間がいるということを今更ながら思い知らされた。


 ギリアドの話の結果、黒幕の名は『イスベリム=アスドラー子爵』、黒い噂の絶えない男で人身売買に関わっているらしい。

 目的はレミアだった。戦姫という二つ名を持ち、容姿も美しいレミアを貴族達が狙っており、アスドラー子爵は自分の手元に置こうとしたという話だった。レミアが平民である事から、犯罪行為を行っても自分の家の力で握りつぶすつもりだったらしい。

 計画は、シアとジェドを誘拐し、それを理由にレミアを呼び出し、人質を盾にレミアを捕らえるというものだった。


 アレン達はギリアドの口から話を聞いたときに、アスドラー子爵の低脳ぶりに怒りよりも可哀想になってしまった。

 現時点でレミアは、戦姫という二つ名で呼ばれ (レミアは嫌がっている)るほどの有名人になっている。そのレミアが貴族の求めに応じるということはどうあっても注目を集めてしまうのだ。そこで、レミアが助けを求めるという行動をとれば一気にアスドラーは終わる。

 それをさせないためのシアとジェドという人質なのだろうが、人質でつなぎ止められる期間などたかがしれている。長期的には絶対不可能なのだ。


 どうあってもアスドラーはこの計画で、レミアを手に入れる事は出来ないのだ。もし、レミアの戦闘力が並の冒険者で、知名度が戦姫と呼ばれる前であれば成り立ったかもしれないのだが、元々の前提条件が異なっている以上、アスドラーは現状認識能力の欠如が甚だしいと言わざるを得ない。


「みんなアスドラー子爵家には消えてもらうつもりだ」


 アレンの言葉に全員、頷く。


「アスドラーがレミアをまともに扱うわけない。まともに扱うつもりなら、そもそもシアとジェドを誘拐しようとしない」


 アレンは言葉を濁しているが、アスドラーがレミアを手に入れれば (まず、あり得ないが)、かならず陵辱行為に及ぶ事を全員が理解していた。


「俺は想像の中とはいえ、アスドラーがレミアにそんなことを考えた事自体が許せん」


 アレンの怒りを受けて、他の者達の怒りに火がついたようだ。


「でもアレン、アスドラーを潰すつもり?」


 フィアーネがアレンに問う。確かにアスドラーは黒い噂の絶えない男だが、未だに罪に問われていない以上、尻尾をだすとは思えない。かといってアレンが力で潰すのは簡単すぎるがそれは出来ない。


「フィアーネ、俺達の代わりに罪を背負ってくれる駒がここにいるじゃないか」


 アレンはギリアド達を見て、ニヤリと嗤いながら言った。その意味を察した、フィアーネ達は納得の表情を浮かべ、反対にギリアド達は顔を青くする。


「そうね…、こいつらクズだし、ここで一緒に消えてもらうというわけね」

「確かに、クズにはお似合いの終わりね」

「それぐらいしか、この方達には使い道はありませんね」


 フィアーネ達、アレンの婚約者達は当たり前のように受け止めている。だが、シアとジェドはちょっと戸惑いがちだ。もちろん、自分達に危害を加えようとした者達を許すつもりはないし、甘い沙汰だと再び同じ事をする可能性はある。だが、シアとジェドはあっさりと子爵家を潰す事を決断しているというアレン達の思い切りの良さに戸惑うのも常識的に考えて当然なのだ。


「え~と、みんな、ちょっと待って」


 シアがアレン達に声をかける。


「どうしたの?」


 レミアが友人に答える。


「子爵家を潰すって本気なの?」


 シアの言葉にアレン達はそれぞれ答える。


「もちろん」

「そうよ」

「絶対潰すわ」

「むしろ、潰さない方が面倒なことになりますよ」


 アレン達の迷いない言葉にシアもジェドもそして駒と認定されたギリアド達も二の句が告げなかった。


「シア、ジェド、アスドラーとやらは、レミアを最低の方法で手に入れようとした。それはレミアの尊厳を踏みにじる意図しかなかったんだ。人の尊厳を踏みにじろうとするなら、自分が踏みにじられることも想定すべきだと俺は思う。奴が汚い手を使うのなら、こっちは同じような汚い手で潰すだけだ」


 アレンの言葉ははっきりとしており、シアとジェドはアレンの覚悟を、そしてフィアーネ達がアレンを見る目から同様の覚悟を持っていることを察した。


 アレンは、相手が汚い手を使うなら、汚い手を使うことに一切の逡巡はない。人によっては相手と同じレベルに落ちてしまうことを嫌がる者がいるが、そんな事はアレンは考えない。それは傲慢であり、油断でしかないのだ。アレンは油断すれば、死に直結する国営墓地で働いているのだ。油断するような甘い精神構造ではとっくにアレンの命はなくなっているだろう。


「わかった。アレンの言葉は正しいと俺も思う」


 ジェドはアレンの言葉に賛同する。何だかんだ言って、シアを陵辱しようとしたギリアド達もその雇い主のアスドラーも許すつもりはなかったのだ。ジェドも許して良い相手と悪い相手の区別はついているのだ。


 アレンはジェドの言葉を聞いて、ニヤリと嗤う。残酷な笑みだが、ジェドの目には頼もしく写る。


「そうね。ここで手心を加えればまた、同じような事になるかもしれないわね」


 シアも賛同する。これで全会一致でギリアド達とアスドラーを噛み合わせて双方に消えてもらう事が決定したのだ。


 話の流れから、ギリアド達は自分達が置かれている状況が加速度的に悪くなっていることを察していた。だが、命乞いしても無駄だと言うことを心のどこかで察していた。


「さて、クズ共、話は聞こえていただろう。お前らはアスドラー子爵家を潰してもらい、その後に死刑になってもらう。お前らが今までやってきた事の報いだから、甘んじて受けろ」


 アレンはそう言うと、瘴気を集める。瘴気はあっという間に大きくなり、アレンの頭上に浮かぶ。十分な大きさになったことを確認すると、ギリアド達の一人一人に瘴気の塊から線が伸びてきて、ギリアド達の体を覆っていく。


「ひっ!!」

「やめてくれ!!」

「助けて!!」

「許して!!」

「神様!!」

「こんなの嫌だ!!」


 男達は瘴気に覆われていく恐怖のために恐慌状態になったが、それも完全に覆われ、声を出すことが出来なくなったのだ。


「さて、これでお前らは完全に俺の駒になった。まずはギリアド、お前の店で働く者のうち表の仕事だけに関わっている者に十分な退職金を与え、取引先に支払を済ませろ」


 アレンの言葉をギリアド達は黙って聞いている。


「それが終わったら、裏の仕事に関わっている者すべてを率いてアスドラー子爵家を襲撃し、アスドラー子爵を討ち取れ」


 アレンの言葉が終わると、ギリアド達は死刑宣告を受けたかのような青い顔をしている。貴族の屋敷を襲撃し子爵を殺せば当然死刑となる。


 ギリアド達は自分達が手を出してはいけない者に手を出した事を後悔したが、もはやどうすることも出来ない。


「さて、帰ろうか」


 アレンの声はギリアド達にとって死刑宣告だった。



 

 内容がグダグダでしたね。ご容赦ください。

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