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戦姫Ⅱ⑤

「みんな、殺さないでくれ。口は多い方が後の尋問がしやすい」


 アレンの言葉に婚約者達がそれぞれ、返事をする。


「わかったわ」

「まかせて」

「わかりました」


 アレン自身も剣を抜き、ギリアド達に躍りかかる。といってもアレンが躍りかかったのは、盗賊に扮したギリアドの部下達である。

 ギリアド達はフィアーネ達に任せることにする。どう考えても、ギリアド達の技量で、フィアーネ、レミア、フィリシアに対抗することは出来ない。


 そしてそれはまったく予想通りだった。


 フィアーネは、アージスの膝をまず蹴り砕いた。フィアーネの蹴りを受けたアージスの膝の反対から骨が突き出ている。あり得ない方向と痛みのためにアージスは泣き叫ぶ。


「ぎゃああやあああああああああああぁぁっぁぁっぁぁあぁぁうあやあ!!!!!」


 すさまじい絶叫だった。フィアーネがこの絶叫を放置したのは、もちろん男達への牽制であり、恐怖を与えるためである。私と戦えばこういう目に遭わせてやるという意思表示だ。フィアーネの意図を察したギリアド達は顔を青くする。


 レバンドはガタガタと震え、フィアーネに慈悲を乞うと跪く。だが、フィアーネは容赦なくレバンドに蹴りを放つ。フィアーネの蹴りは肋骨に入り、骨を砕いた。レバンドは蹴り飛ばされた勢いそのままに荷台に激突して口から血が吐き出される。折れた肋骨が肺に刺さったのかもしれない。


 ホフリとコルムにはフィリシアが相手をする事になった。フィリシアは剣を抜き、凄まじい殺気を放ちながらホフリとコルムに向かい歩を進める。


 ホフリとコルムは、フィリシアの殺気を受けて震え上がる。裏社会に長く身を置く二人であったが、これほどの冷徹な殺意を放つ相手に会うことはなかったのだ。


「ま、待て!!」


 コルムはフィリシアに声をかける。だが、フィリシアは露骨に蔑んだ表情を浮かべると剣を一閃する。


 ゴトリという音と共にコルムの右腕が落ちる。


「ぎゃああああああ!!」


 コルムの絶叫が辺りに響き渡る。


 フィリシアにしてみれば、ここで容赦をすれば不意をつかれて思わぬ事態になる可能性があるので、的確に戦闘力を削いでおく必要があったのだ。


 フィリシアはコルムの腕を切り落とすと蹲るコルムの顔面を蹴り上げた。コルムは歯を撒き散らしながら宙を舞い、地面に激突した。


 ホフリはその様子を呆然と眺め、命乞いは無駄である事を察する。この少女、いや、この四人の敵対者への容赦の無さは、裏社会においても中々見られないレベルの苛烈さであった。


 もちろん、アレン達からすれば後で尋問するために十分に手加減しているのだ。だが、それはあくまでアレン達レベルでの事であり、一般社会では苛烈そのものであったのだが、そのことまでは、やられる立場からすれば何の意味も無いことであった。


 シュン!!


 フィリシアの剣が、またも一閃する。ホフリの目にはフィリシアが剣を振るったと認識し、自分が斬られた事を認識するのに時間がかかった。ホフリが斬られたのは両足だ。その事を認識したとたんに、ホフリの痛覚は仕事を始める。その事はホフリにとって苦痛以外のなにものでもない。


「あががががっががあがが!!」


 音程の外れた叫び声がまたも男達の耳に入る。コルム同様に蹲るホフリの手にフィリシアは剣を突き刺し、地面に縫い止める。


「あががああ!!ま、待って!!」


 ホフリが命乞いをしようとフィリシアを見るが、フィリシアの目には『何を今更…』という感情が浮かんでいる。フィリシアは容赦なく蹴りをホフリの肋骨に放った。


 ゴゴォォォ!!


 異様な音がしてホフリは吹っ飛ぶところだったが、剣によって縫い止められた手のため、それもかなわず、地面に落ちる。その時に肩と肘を脱臼したようだが、ホフリのケガの度合いを考えれば些細な事なのかもしれない。


 自分の護衛達がまったく抵抗することも出来ずにやられる様を見せつけられ、ギリアドは呆然としていた。今まで自分達ほど容赦のない者達はいないと思っていたのだが、アレン達に会ってそれは単なる自惚れであった事を悟ったのだ。


 ギリアドの喉元にはレミアの双剣の一つが当てられている。その仕草よりもレミアの発する凄まじすぎる殺気がギリアドの行動を封じていた。


「ま…」


 ギリアドが声を発しようとするとその度にレミアは殺気を強めていく。もはや、心が死なないようにするのが精一杯だった。


「レミア、それ以上、殺気を強めるとそのクズは心が壊れるわよ」


 フィアーネがレミアに注意を促す。


「そうね…、このクズの心が死んだら尋問が面倒ね」


 レミアはフィアーネの言葉にニコリと笑い、殺気の度合いを引き下げる。そのことによりギリアドはヘナヘナとその場に座り込み、恐怖によって止まっていた呼吸を再開した。


「後は、あの雑魚達ですけど…私達も言った方が良いですかね?」


 フィリシアが目をやった先には、アレンが盗賊に扮したギリアドの男達を薙ぎ払っている光景が目に入っていた。


「いや、そんなに時間かからないから、ちょっと待っておきましょ」


 フィアーネの言葉に、レミアとフィリシアも頷く。すでに半分がアレンによって戦闘力を奪われていた。



 アレンは一瞬で間合いを詰めると、男の腹に膝をめり込ませる。男は体をくの字に曲げ倒れ込もうとする。男が倒れ込むよりも早く肘を背中に落とした。


 ガゴォ!!


 男はすさまじい衝撃とともに地面に叩きつけられる。すでに意識を失っていたが、アレンはさらに肋骨を蹴り砕きトドメをさした。肋骨を砕いたアレンの蹴りによりすでに意識を失っていた男は5メートルほどの距離を飛び、地面を転がる。


 男達の目には、アレンは悪魔以上に恐ろしい者に写っていたのだろう。ガタガタと震える者、恐怖のあまり失禁する者、跪き慈悲を乞う者、逃げ出す者とその行動は様々だったが、共通している事はアレンへの敵対を貫こうという意思を投げ捨てていることだった。


 だが、アレンは容赦しない。たとえ見た目にアレンに屈服したように見えても、演技の可能性がある以上、確実に戦闘力を削いでおく必要がある。それにこいつらは友人であるシアとジェドを害しようと考えていたわけだから慈悲を与えるべき対象ではないのだ。


 アレンは容赦なく男達の原綿を蹴り砕いていく。戦闘力を奪うのが目的なので、死なないように細心の注意を払ったつもりだが、アレンの中に『死んでもいいか』という気持があったのは否定しないが、なんとか死ななかったようだった。


 逃げたのは4人…。それぞれ、バラバラに逃げ出したために捕まえるのは少々面倒と、アレンは瘴気を集め、闇姫を4体作り出す。


「俺が逃がすと思ってるのか?なめられたもんだ…行け!!」


 アレンの声がかかると闇姫達は逃げた男達を追い始める。


 程なくして男達が逃げた先から叫び声が聞こえて来た。闇姫達が戻ってくるとそれぞれの手に頭を鷲掴みされて引きずられている男達の姿があった。



 わずか、5分にも満たない時間でギリアド達は全員アレン達にひれ伏すことになった。

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