戦姫Ⅱ③
ちょっと短いですし、ヘイトがたまるかも…。
シアとジェドが護衛する行商人が王都を出発した。
行商人のリーダーは、40代半ばの恰幅の良い男で、ギリアドと名乗った。王都の一角に大きな店を出しており、店員もそれなりに多い。普通、そのような大きな店を持つ者は行商はしないものだが、元々行商で身を立てたというギリアドは、自分の初めての商売の土地であったエルケ村だけは自分で行商にいくという話だった。
他にギリアドの店に勤めるホフリという30代前半の男とコルムという30代後半の男がギリアドの店に勤めている店員らしい。
他に護衛として、三人の男が雇われている。レバンド、アージス、ベークの三人だ。この三人は冒険者ではなくギリアドの店に普段雇われている男達らしい。
最後にシアとジェドの2人で、計8人となっていた。
「シアちゃんもジェド君もいくつかね」
馬車上からギリアドがシアとジェドに話しかける。
「17になります」
「俺も17です」
シアとジェドが答えると、ギリアドが愉快そうに笑う。
「そうかそうか、若いってのはいいねぇ~、それで二人はいい仲なのかな?」
ギリアドの問いにシアもジェドも顔を赤くして下を向く。その様子を見て、ギリアドはさらに愉快そうに笑う。
「そうかそうか、ジェド君もこんなかわいい娘が恋人なんて羨ましいね~」
「ち…違います!!こいつとは幼馴染みで…」
「ははは、そんな真っ赤な顔をして否定しても説得力がないよ」
ギリアドのからかいを止めたのはホフリだった。
「店主、あまり若い者をいじると可哀想ですよ…すまないね。二人とも、店主はこんな風に若い者をからかうのが好きでね。気を悪くしないでくれるかい」
ホフリの言葉にやり過ぎたかという表情をギリアドは浮かべる。
「いえ、いいんです」
シアはにこやかな笑顔を浮かべる。
「まったく店主は…」
コルムも困った人だという表情を浮かべている。
そんな会話をしながら、一行は進む。この辺りは定期的に騎士団、冒険者達が魔物の駆除を行っているために危険は少なく、そのため一行の空気も緩みがちであった。
シアもジェドもギリアド達のからかいに困りながらも和やかな雰囲気で進んでいた。
やがて、日も暮れだしたことで、今日はここで野営することになった。
街道からそれたところに、荷台をとめ、全員で野営の準備に入る。
「ホフリさん、ギリアドさん達のテントを立てておきたいんですが、どの辺りに立てておきましょうか?」
シアがホフリに点との設営場所を聞く。その結果、荷台の側に立てるよう指示され、シアとジェドはそれに従う。すぐに設営は終わり、シアとジェドはかまど用の石を探しに出かけることにした。
シアとジェドが石を探しに離れたところで、ギリアド達の雰囲気ががらりと変わる。
「どうやらあのガキ共、少しもこっちを疑ってないようですね」
コルムがギリアドに嘲りを込めて言う。シアとジェドを完全に下に見ている。
「それにしても、なんで今やらないんですか?」
ホフリがギリアドに疑問を呈する。確かに王都でシアとジェドを浚わなかったのは、目撃者がいる可能性を考慮したからだ。だが、ここなら周囲に人はいないため、簡単に事に及ぶことが出来るはずだった。
「ここはまだ、王都の目と鼻の先だ。騎士団が巡回している事が多い、万が一逃した場合に、やっかいなことになるだろうが」
ギリアドは先程の人の良さはまったく見えない。どす黒い雰囲気を周囲に撒き散らしている。
ギリアド達は表向きは、まっとうな商家であったが、その裏では犯罪行為を生業とする闇ギルドだった。ギリアドはそのギルドマスター、ホフリ、コルムはその護衛である。万が一にでも、噂が立ってしまえば失うものが大きすぎるのだ。もう少し先に野盗に扮した部下達が現れることになっており、そこで、二人を捕らえさせる手はずだった。ギリアド達は命からがら王都に逃げ帰るという算段だった。
そうすれば、シアとジェドを捕まえたのは野盗と言うことになり、ギリアドの表の商売に疑いがもたれることはない。その先の取引においてギリアド達の雇い主が失敗してもシアとジェドの口からギリアド達の疑いがもたれることはない。
「それに、俺達が失敗することはないが、引き渡した後の取引が失敗したときには俺達まで手が伸びる危険性があるだろうが、俺達はあくまで被害者の立場でなけりゃならんだろうが」
ギリアドの言葉にホフリとコルムは頷く。そして、レバンド、アージス、ベークの三人も頷いた。
「それにしてもあのシアってガキを俺らは好き勝手出来ないのは残念だな」
レバンドが残念そうに言う。
「なんだ、レバンドお前、あのガキが好みか?」
ホフリはからかうような口調だ。
「いや、あのジェドとか言う小僧の前で犯してやったら、そのガキ共、泣き叫びそうだと思いましてね」
レバンドの言葉に他の男達が同意する。
「はは、そりゃ確かに楽しそうだな」
「まぁ、今回は諦めようぜ、あいつらにそれは譲ってやることにしようぜ」
「ああ、20人はいるからな。あのガキ、気が狂うんじゃないか」
「いや、意外と嵌まっちまうかもしれんぞ」
「ひゃははは」
男達の会話は聞く者の不快さを増す者があった。
だが、男達は知らなかったのだ。自分達だけが罠を張っていると、そして、むしろ罠に嵌まったのは自分達であり、刈り取られるのは自分達である事を…。




