魔剣Ⅲ④
アレンが魔剣ヴェルシスを抜き放つと、禁忌の騎士を閉じ込めていた結界が解除される。
解除された瞬間に、アンデッドと化した盗賊達が突っ込んでくる。
禁忌の騎士は動かない。ところを見ると、どうやらアンデッド達を使ってアレンの力量を測るつもりらしい。アレンはそのことを察し、この禁忌の騎士は何者かが操っている事を確信する。
【主様!!あのアンデッドの騎士の持つ剣は魔剣でございます!!】
魔剣ヴェルシスがアレンに向かって脳内に直接語りかける。アレンはその声を聞いて、自身のとるべき道を構築する。
「じゃあ、その魔剣をへし折れば解決だな」
アレンの放った言葉と雰囲気に魔剣ヴェルシスは息をのむ。アレンは禁忌の騎士が元々、自然発生することは奇跡のようなものなので、なにかしら要因があると考えていたのだ。
そこに魔剣ヴェルシスの魔剣に対する言及とくれば、アレンが魔剣が原因と考えても何の不思議もなかった。
「始めてナマクラが役に立ったな…」
アレンのボソリと言った言葉に魔剣ヴェルシスは、『…』という沈黙で返す。魔剣ヴェルシスから寂寥の念が放たれる。それをアレンは感じたが完全に無視する。
【主様…そろそろ、信じてくださっても…】
魔剣ヴェルシスの哀愁を感じさせる声が、アレンの脳内に響く。
「黙っておけ…へし折るぞ」
アレンの言葉に『ビクッ』と身を振るわせ (実際は、気配のみ)魔剣ヴェルシスは沈黙する。
魔剣ヴェルシスが黙ると、アレンに向かってくるアンデッド達をまずは消滅させることにする。
アレンがとった手段は『闇姫』による掃討だった。アレンの周囲に拳大の瘴気の核が形成され、一定の量の瘴気が集まると膨張し、闇姫に変貌する。数は6体、アレンの作り出した闇姫達を見て、背後の聖騎士達から驚きの声が上がる。
「な…なんだあれ?」
「瘴気が人型に…」
聖騎士達の驚きの声を背中に感じるが、振り返りもせずにアレンは端的に闇姫達に命を下す。
「やれ!!」
アレンの鋭い命を受け、闇姫達がアンデッド達に襲いかかる。
闇姫達とアンデッドの戦いは一方的だった。というよりも戦いにすらなっていない。闇姫達は瘴気の塊を一斉に放ち、直撃を受けたアンデッド達は粉々に吹っ飛ぶ。粉々に吹っ飛んだアンデッド達にも闇姫達は攻撃を継続し、もはや肉片とも呼べないほどに小さくなってアンデッド達は消滅する。
禁忌の騎士は魔剣を振りかざし、こちらに向かって突っ込んでくる。その重圧は、今までアレンがアンデッド達から感じたもので最も強いものである。アレンは魔剣ヴェルシスを構え迎え撃つ。
禁忌の騎士の上段からの一撃をアレンは躱す。信じられないほどの速さと鋭さの斬撃であったが、アレンは躱したのだ。そして、すぐにアレンは禁忌の騎士の首を刎ねる。
アレンの剣は空を斬るように、何の引っかかりを感じさせずに禁忌の騎士の首をはね飛ばしたのだ。はね飛ばされた首は地面に落ちる前に塵となって消え失せる。塵となった瘴気は周囲の闇姫達が回収する。
禁忌の騎士を構成する瘴気は、おそらく魔剣が集めたものだ。と言うことはいくら、禁忌の騎士から切り離したところで、再び魔剣によって回収させられてしまう。それではいくら切り離しても禁忌の騎士は弱体化しない。そこでアレンは闇姫を瘴気の回収係にしたのだ。すくなくとも頭部を構成していた分の瘴気は弱体化したことになる。
首をはね飛ばされた禁忌の騎士の頭部は、すぐに再生する。そこに意思などないはずだし、頭部がそのまま頭部としての役割を果たすわけではないが、こちらを睨む目は、敵意に満ちている。
「ここからが始まりだな…」
アレンは小さく呟く。先程の攻防でアレンは難なく禁忌の騎士の首を斬り飛ばしたが、これは単に相手がアレンを舐めていたに過ぎない。
アレンはわかっていたのである、次からは禁忌の騎士は油断しないことを…。
禁忌の騎士は、一瞬で間合いを詰め、アレンの足を狙った斬撃を放つ。実戦において足を狙うというのは非常に有効な手段だ。アレンはその斬撃を足を引くことで躱す。
アレンはカウンターで剣を持つ右手を切り落とす事を狙っていたのだが、禁忌の騎士の斬撃の速さに躱すのが精一杯だったのだ。
「ちっ…」
アレンの口から舌打ちが漏れる。禁忌の騎士が強いというのは想定していたが、それでも甘く見ていたようだ。アレンは警戒レベルをもう一段階上げることにする。
アレンは剣を正眼に構え、突きを放つ。凄まじい速度で放たれた突きだったが、禁忌の騎士はそれを難なく躱す。アレンの突きを躱した禁忌の騎士は斬撃を即座に返す。
そして、それこそがアレンの目的だったのだ。禁忌の騎士の狙った斬撃はアレンの両腕であった。その斬撃をアレンは躱すと一回転し、禁忌の騎士へ斬撃を見舞った。
この攻撃を躱すことは出来なかったのだろう禁忌の騎士は躱せずに首をはね飛ばされた。
アレンは首をはね飛ばした事でこの攻防で禁忌の騎士を上回ったと思ったが、それがまずかった。禁忌の騎士は肘を側頭部に叩き込んできたのだ。アレンはかろうじて腕で受けたが、その衝撃のため2メートルほど吹っ飛ばされてしまった。
なんとか転倒は避けたが、脳を揺らされてしまい、アレンは足下がおぼつかなくなった。
(…まずい)
足がよろけたことで、アレンは相手が戦いの流れを掴んだことを察した。禁忌の騎士は間合いを詰め、剣を縦横無尽に振るい始める。
首…
右手首…
左足…
右足…
腹…
縦横無尽に放たれる斬撃をアレンは剣で受け流し、躱し、ダメージの回復に努める。禁忌の騎士の斬撃は止まることなく放たれ続ける。それをアレンは3分程の間、すべて躱すことに成功する。
アレンは細心の注意を保ち、最小の動きで躱し続けた事で、揺らされた脳のダメージから回復することが出来たのである。
(よし、いける!!)
アレンは回復を確認すると、反撃に出る。
アレンは禁忌の騎士の剣を受け流すと、胸元に斬撃を放つ。ここで反撃が来ると思っていなかったのだろう。まともにアレンの剣を受けた禁忌の騎士は胸を大きく切り裂かれた。切り裂かれた胸元から瘴気がまるで血液のように噴き出す。
噴き出した瘴気は闇姫達が吸収する。すぐに傷口は塞がったが、かなりの瘴気が流れ出たようだ。
アレンは傷口が塞がるより早く次の斬撃を見舞う。アレンはまたしても一回転し、アレンの剣が禁忌の騎士の左肩から入る。
切り裂かれた肩からの傷口からまたしても瘴気が漏れ出す。そこに禁忌の騎士は斬撃を放とうと剣を動かす。アレンはその動きを見逃さない。先程の失敗を二度もくり返すような事はしないのだ。
アレンは懐に入り込み、禁忌の騎士の剣を持つ腕を肘で押さえ、同時に逆手に持ち替えた剣で腹を切り裂く。
アレンは剣から手を離すと、そのままの勢いで右肩に掌打を叩き込む。アレンの掌打には魔力を込めており、禁忌の騎士の肩口は爆発した。
禁忌の騎士の吹っ飛ばした右腕には魔剣が握られており、アレンはその右腕を後ろに投げ飛ばし、同時に肘を腹に叩き込んだ。強烈な一撃に禁忌の騎士は体を浮かし、50㎝程飛び着地する。アレンは腹に刺さった魔剣ヴェルシスを引き抜き、剣を振りかぶると禁忌の騎士の頭から両断した。
傷口から撒き散らされた瘴気を闇姫が吸収すると、禁忌の騎士は失われた部位を再生させるが、当然、アレンはその隙を見逃さない。アレンは心臓の位置に魔剣ヴェルシスを突き刺す。胸を突き刺した魔剣ヴェルシスは核を貫いた。
「ギュェェッェェェェェェェェェェェアェァ!!」
形容しがたい叫び声を上げて、禁忌の騎士を構成していた瘴気が塵となって消え失せる。
瘴気がすべて消え去ると、冒険者風の男の死体が転がった。
「ふう…」
アレンは禁忌の騎士の消滅を確認すると、ようやく一息ついた。
「あとは…あれか」
一息ついたアレンは落ちている魔剣を見つめる。
その視線には一切の好意的なものはなかった。
戦闘はこれにて終了です。
結局、主人公が圧倒しました…。
ピンチにどうしてもなりません。他の作者の皆さんのピンチへのもって行き方が上手いので、正直、羨ましいです。
精進あるのみですね。
 




