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呪珠⑤

 アレンの剣は正確に男の心臓を貫いた。


 だが、これで勝負は終わらなかった。男はニヤリと嗤い、掌に集中した瘴気の塊をアレンに放つ。近距離での魔術による攻撃であったがアレンはあっさりと躱し、胸に刺さった剣を抜き放つ。


 アレンが剣を引き抜いた傷跡から男の血が噴き出す。


 だが、アレンはその返り血をまったく浴びることなく男から距離をとる。


「やはり、止まらないか」


 アレンは落胆を少しも感じさせない声で男に言う。


「いや、お前が心臓を刺したおかげで、この男は死んだぞ?」

「そりゃ、そうだろ。どうやらその体は人間なんだから、心臓刺されりゃ死ぬだろ」

「ふふん、お前はこの男の命を奪ったのだぞ?俺に操られただけの哀れな男をな。助けなくて良かったのか?」


 男の言葉はアレンが殺人を起こしたことを責める口調だ。アレンの見た目が少年であるため動揺させるための言葉だったのだろう。


「アホか、お前が乗っ取った段階で、もうその男の魂は死んでるだろ。おまえは俺がそんんな事も知らないと思っているのか?」


 アレンの言葉には一切の動揺はない。さらにアレンは続ける。


「それに、そいつは俺に敵対行為をとっている。俺が敵対者を葬るのに躊躇するような甘い奴と思われるとはな」


 舌打ちを堪えるようなアレンの言葉に男は何も言えない。何かしら動揺を誘おうと思っていたのに、アレンは一切動揺しない。男は失敗を悟ったのだ。


「まぁいい、おい、お前は俺の父上にコテンパンにやられたクチか?」


 アレンは男に問う。


「そんなわけはなかろう。儂は200年生きておるでの」


 男の言葉にアレンは心から蔑みの目を向ける。


「な…なんだ!!その目は!!」


 余程気に入らなかったのだろう。男はアレンの蔑みの目に激高する。


「いや、すまない。お前は200年もなにやってたんだ?」


 そこまで言った所でアレンは動く。動いた先には、死の聖騎士(デスパラディン)がぼさっと立っている。アレンの剣が死の聖騎士(デスパラディン)の胸にある核に突き刺さり、死の聖騎士(デスパラディン)はあっさりと消滅する。


 アレンの行動に男は狼狽した。まさか死の聖騎士(デスパラディン)をここで消滅させるとは思っていなかったのだ。


「甘いな…」

「なに?」


 アレンは、男に静かに告げる。


「俺がなぜお前と会話をしているか、その意図を考えてるのか?」

「…」

「おいおい、おまえ200年も自我を持っているのに、この程度の事にも答えられないのか?」


 アレンの声はもはや相手にするのも馬鹿らしいといった感情がこもっている。その感情を察した男はまたしても激高する。


「貴様がどんな意図を持っていようが関係ないわ!!儂はアインベルクに復讐するために200年かけたのだ!!」


 男は再び激高する。その瞬間、男の体を凄まじい量の瘴気が集まり体を覆っていく。


 瘴気に覆われた男の体は倍以上に膨れあがり、醜悪な形に変貌していく。瘴気によって構成された体はどす黒く禍々しくなり、顔の形は蠅を思わせる昆虫のものとなり、肩口から左右2本ずつ腕が生えたことにより、腕は計6本、腹部から下半身はムカデのような形に変貌する。


「ふははははは!!ここまでの瘴気の量を操る事はアインベルクにも出来まい!!」


 男の声は変わっていない。このことから、姿形は醜悪な怪物になっているが、発声器官は男の口を使っているのだろう。


「さて、アインベルクよ」


 男の心根の醜さを表したかのような声だ。


「貴様らは探しているのだろう。この男を乗っ取った儂の本体をな」


 男の口からとんでもない情報がもたらされようとしていることをアレンは察した。こういう場合、無言を貫いた方がベラベラと話してくれるので、アレンは口を開かない。


「…」


 アレンの沈黙を肯定と受け取った男は、嘲りを込めた声で話し始める。


「儂の本体はこれよ!!」


 男の体の中から拳大の宝珠が出てくる。その宝珠は瘴気を放っており、見るものに禍々しい印象を与えるものである。


「呪珠か…」


 アレンが小さく呟く。


 呪珠は、呪術師が好んで使う魔導具(マジックアイテム)で、瘴気をため込むことに使われる。言わば瘴気のタンクの様なものである。ただ、これに貯められる瘴気の量は大した量ではない。補助的な魔導具(マジックアイテム)だ。

 ごくまれに呪術師が瘴気をため込むことで、自我を持つものが存在すると聞いたことがあるが、男の本体の呪珠というのもその類のものなのだろう。


「その通り、200年前、アインベルクにやられた儂は死の間際に魂をこの呪珠に移し替えたのよ!!」


 男の口はもう止まらない。自分を蔑んでいたアインベルクの末裔が自分の事を恐れていると勘違いした上での行動だ。止まるはずがない。


「では、お前が今まで行動を起こさなかったのはなぜだ? その男を俺が現れた時点で、その姿になれば良かったんじゃ無いのか?」


 アレンの言葉に男は嗤い声をあげる。だが、アレンはまったく気分を害した様子はない。なぜなら、すでに勝負が決している以上(・・・・・・・・・・)、アレンとしては余裕の気持ちによる質問であった。


「この男は呪術師としては一流の男であった。だが、お前との戦闘によってこの男は動揺し、隙が生まれた」

「そこを乗っ取ったというわけですか」


 男の言葉に答えたのはフィリシアである。周囲にいると思われていた男の本体を探していたのだが、近くにいたことが判明したので、アレンの側にまでやってきたというわけだ。


 フィリシアに付き従うようにアレンがつくった闇姫も4体フィリシアの後方に浮いている。


「ふはは、確かにこの男では貴様に勝てんかったじゃろう。じゃが、儂とこの男の力を合わせれば貴様らを上回る事は間違いない」


 男は愉快そうに嗤う。


「なるほど…」


 アレンは不愉快そうに顔を顰める。すでに詰んでいる状況でここまで得意気になられると正直不愉快だ。どうせ、今まで大した事は言ってないし、これからも大した事は言わないだろう。どうもこの呪珠からは叡智とか、知性というものが感じられない。これ以上付き合うのは精神衛生上よろしくないという結論に達し、男に殺気を向ける。


「ふん、ならばそろそろ始めようかの」


 男はアレンの殺気を感じ、ニヤリと嗤うと胸元に浮いていた呪珠を自分の体に吸収する。




「ああ、そうだな」


 アレンはその様子を見て静かに言う。



 そして、アレンの返答には続きがあった。



「すぐに終わるがな」

 話がほとんど進みませんでしたね。予定では今回で呪珠編は終わりだったんですが、呪珠編は明日で終わりです。

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