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戦姫

 魔将の後日譚になります。

 魔将が討ち取られたことはすぐに王都に伝えられた。


 王都の住民はさすが騎士団、冒険者と褒め称えたが、どのような状況で魔将を討ち取ったかが知られると、レミアの名前は一気に高まった。


 想定よりも早い段階での魔将との遭遇に、3000対200という絶望的状況をひっくり返しての勝利に加え、その立役者であるレミアという少女の活躍は人が求めるこれ以上ない物語だった。


 しかも、レミアの容姿が一目見たら忘れられないほどの美少女であることが知られると、レミアの名が王都に広まるのも無理がなかった。


 当然ながら、レミアの名前が広がると、レミアを召抱えようという貴族達が本人の知らぬところで争奪戦を繰り広げることになった。



「おかえり、レミア!!」

「さすがレミア!!」

「無事で良かったわ!」


 アインベルク邸に戻ったレミアを出迎えたアレン達はそれぞれレミアに声をかける。


「ありがとう、みんな、がんばったからかなり報奨金がでるわよ」


 レミアは魔将を討ち取った事でかなりの報奨金が出ることが確定していたのだ。元々、今度の駒を宿泊させるための建物の材料費をまかなうために参加した戦いだ。報奨金を辞退するような真似はしなかった。


 レミアのぶれなさにアレン達は苦笑する。その様子を見て、頬を膨らませるレミアは、いつもより子どもっぽく可愛らしさが出ている。


「そう、ふくれるなよ」


 レミアの珍しい子どもっぽい仕草にアレンは優しい笑みを浮かべる。そして、気になっている後ろの魔物達に目をやる。


「ところでレミア、後ろの…」

「あ、そうそう、このナーガ達は、今回の戦いで私について行くって言って、ここまできちゃったの」


 レミアの説明はこうである。


 今回の戦いで魔将を裏切ったナーガ達は自分達が魔将の残党達に相当な恨みを買ってる事を察しており、このまま故郷に戻っても常に復讐の危険性にさらされることになった。それならば、自己の完全の確保のためにレミアに仕えることで、保護を求めたのだ。

 レミアはアレンに判断を仰ごうと思って、王都まで連れてきたというわけだった。


「なるほど…レミアに仕えるか…」

「どうかしらアレン?」

「俺は問題ない。良いと思う。ナーガ達なら戦闘力も期待できるからな。フィアーネとフィリシアはどうだ?」

「私も問題ないと思うわ」

「私も大丈夫です」


 アレン達が賛成したことで、ナーガ達はアインベルク邸に居場所を得ることが出来た。ただ、いくつか条件をつけておく必要がある。


「レミア、一応ナーガ達に条件をつけておこうと思ってるんだが、俺がつけて良いか?」

「もちろん、良いわよ」


 レミアはあっさりとアレンの申出を受ける。アレンはナーガ達に条件をつけることにする。


「さて、俺はアレンティス=アインベルク。レミアの婚約者だ。そして、こちらがフィアーネとフィリシアだ」

「よろしくね」

「よろしくお願いします」


 アレン達の挨拶にナーガも深々と礼をする。顔を上げたときに、一体のナーガがアレン達の元に進み出る。


「ははぁ!!我々如きに礼を取っていただき恐悦至極に存じます。私はナーガの首領をしております。ナシュリスと申す者にございます。このたび戦姫せんき様にお仕えさせていただくことを許していただき代表して厚くお礼申し上げます!!」


 予想以上にレミアにナーガ達は屈服しているらしい。通説、ナーガは高い知能と魔力を持っており、人間をエサとしてしかとらえていないはずなのに、レミアの婚約者というだけで、この丁寧すぎる扱いだった。


「ああ、それで、レミアに仕えるに当たって、まずは人間に対して基本危害を加えられない限り傷つけるな」

「ははぁ!!仰せの通りに!!」


 ナシュリスが礼をとると後ろのナーガ達も一斉にアレンに頭を下げる。


「ただし、人間がお前達に危害を加えるときは反撃を許可する」

「有り難き幸せ!!アインベルク様のご厚情心より感謝いたします」


 あまりの持ち上げ方にアレンは戸惑う。レミアとこのナーガ達の間にどのようなやりとりがあったのだろうか?


「う…うん、それと基本、お前達はこの屋敷の警護をしてもらうことになる」

「ははぁっ!!」


 ナシュリス達はアレン達に再び一斉に頭を下げる。


「そうか、それではお前達の住居はすぐに建てることにするから、完成するまでは当屋敷で生活してもらう」

「な…なんと、我らのような者を屋敷内に…有り難き幸せ!!」


 ナシュリスがそう言うと、ナーガ達は涙を浮かべている。ナシュリス達はなんだかんだ言って不安だったのだ。ところが予想以上の寛大な申出にナーガ達は感動したのだ。


「ところで…」


 アレンがナシュリス達に疑問を呈する。


「さっき、レミアの事を戦姫と呼んでいたが?」


 レミアは『あっ!!』と顔を赤くする。口を挟もうとした先にナシュリスがアレンの疑問に答える。


「はは、戦姫とはレミア様につけられた二つ名でございます」

「え?」

「今回、戦姫様と共に戦った人間達の中から王都に向かう途中にいつのまにかそう呼ばれるようになっておりました」

「ナシュリス!!」


 レミアの口調から、ナシュリスは自分の失敗をさとる。『戦姫』という二つ名こそ、レミアに相応しいものだという思いから伝えたものであったのだが、伝えてはならなかったのだろうか。


「も…申し訳ございません!!戦…いえ、御方を侮辱する意図などまったくなかったのです。お許しください!!」


 ブルブルと震え、平身低頭するナシュリス、そしてそれに追随して平身低頭するナーガ達、端から見てれば完全な上下関係を構築していることがわかる。


「いいじゃないか、レミア。俺は『戦姫』という二つ名は結構良いと思うぞ」


 アレンの言葉にレミアはちょっと落ち着いたようであった。フィアーネもフィリシアもそれぞれの肯定的な意見をいう。


「そうよ、素敵じゃない。レミアの強さと美しさを上手く表現した二つ名だと思うわ」

「私もレミアにぴったりだと思いますよ。戦う姫なんて、レミアの容姿なら十分に姫で通じますしね」


 未来の家族達からの肯定的な意見はレミアを安心させる。


「わかったわよ、でもみんなは絶対に戦姫なんて呼ばないでね」

「なんで?」

「だって…恥ずかしいじゃない」


 レミアは真っ赤になってアレン達に言う。アレンはからかうこともせずに首を縦に振る。レミアは意外とこういうからかいが苦手なのだ。あまり度をこすと傷つけることになるので、ここらへんで止めておく。


「わかったよ。ナーガ達もそれでいいな?」

「ははぁ!!御方の命とあれば我らに異存ございません!!」


 ナーガ達は一斉に頭を下げる。


 こうして、レミアの魔将討伐は、莫大な報奨金とナーガ達という新たな部下達、戦姫という二つ名をレミアにもたらした。


 ただ、レミアの『戦姫』という二つ名は消えるどころか、ますます民衆の中に広まり、レミアの絵姿が販売されるようになった。


 レミアはその事実を知って、頭を抱えることになるのはもう少ししてからのことである。

 



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