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魔将⑥

 魔将戦最終局面です。

 冒険者対魔将一群の第三戦の火ぶたが切って落とされた。双方にとって本当に意外な形で落とされた火ぶたによる混乱は、おさまる気配を見せない。


 造反した形のナーガ達はもはや引き返すことは出来ない。


 ありとあらゆる攻撃魔法を駆使してさっきまで仲間であった魔将の一群に攻撃を浴びせる。

 一方、攻撃を受けた魔将側も混乱している。知能の無い者は本能で、知能のある者は現状を把握して、先程まで味方だったナーガ達がなぜ自分達に攻撃をしてくるのか、咄嗟に理解できなかったのだ。


 そして、冒険者側も突然同士討ちをはじめた魔将の一群を呆然と見ている。



 この戦場において、現状を理解している唯一の存在であるレミアは、双剣を抜き、敵のまっただ中に飛び込んだ。

 この混乱は長くは続かない。ナーガ達がいくら魔力が高いとはいっても数がまったく違うのだ。混乱がおさまれば数をたのみに押し切られることだろう。それなら、この混乱が少しでも長く続いてくれるように各種族のリーダー達を狩ることにする。


 そう判断してからの突入だった。


 混乱しているゴブリンの首をレミアの剣がはね飛ばす。首を飛ばされたゴブリンの死体が崩れ落ちるまでに、レミアは次のゴブリンを仕留める。次々と死体を量産していくレミアにゴブリン達は恐怖に囚われる。

 隊列は乱れ、少しでもレミアから逃れようと恐慌状態になった。恐慌状態に陥ったゴブリン達を落ち着かせようと、何体かのゴブリン達が声を上げる。どうやらリーダーらしい。


 レミアはリーダーと思われるゴブリン達に向かい動き出す。途中にいる不幸なゴブリン達を切り捨てながら、リーダーと思われるゴブリンにレミアが迫る。そのゴブリンは恐怖に顔を歪めるが、その恐怖は長くは続かない。レミアの剣が首をはね飛ばしたため、命が終わったからだ。

 

(違ったか…)


 レミアは今切り捨てたゴブリンが決して、リーダーでないことに気付いたのだ。なぜなら混乱がさほど大きくなってなかったからだ。レミアは別のリーダーと思われるゴブリンに向かいまたも首を刎ねる。


 何体かのゴブリンの首をはね飛ばした時に、ゴブリン達の混乱は最高潮になる。どうやら新しいリーダーをレミアは切り捨てたらしい。


 ここにきて、冒険者達は今がチャンスであることに、ようやく思い至り突っ込んでくる。


 冒険者達がなだれ込んだことで、一気に混乱に拍車がかかる。すでにリーダーを失っていたゴブリン達は、新たな冒険者の突撃に対処できず、一方的に狩られていく。

 また、ナーガ達もナシュリスの救助を行い、レミアに貫かれた腹、切り落とされた腕、切り裂かれた双眸に対し、治癒魔術をかけられている。


 その様子を見たレミアは、ナシュリスやナーガ達に向ける。レミアの殺気を感じたのだろうナシュリス達の狼狽は誰の目から見ても明らかである。レミアは殺気をぶつけることで『ここで裏切れば皆殺し』という意思表示をしたのだ。その意思表示は完全に通じたようで、ナシュリス達はレミアに逆らおうなど、もはやまったく思わなくなる。いや、むしろ、レミアの『裏切るなよ』という意思表示よりも、さらに一段階ナシュリス達は上の解釈をしていた。その解釈とは『役に立たなければ皆殺し』だった、ナシュリス達は自分達の明日のために限界ギリギリまで魔術を行使することになる。


『者共!!御方おんかたのお怒りを買えば、我らは皆殺しぞ!!励め!!』


 ナシュリスの飛ばされた思念に、ナーガ達は必死の思いで応える。先程のレミアから放たれた殺気はナーガ達に死を感じさせるには十分すぎたのだ。そして、レミアから発せられる圧倒的な死の予感は、魔将エルテンなどより遥かに恐ろしかったのだ。


 ナシュリス達が裏切る様子がなかったことで、レミアは魔物達に無慈悲な死を与えていく。

 たちまち、魔物達の死体がレミアの剣によって量産されていく。


 冒険者達もこの混乱を逃すつもりは一切無く、仲間の仇と言わんばかりに容赦ない一撃を加えていく。


「ナーガ達には手を出さないで!!」


 レミアの鋭い声が冒険者達の耳を叩く。確かにナーガ達が戦っているのは魔将達だ。ここで自分達の側についているものを害するなど本来はあり得ないが、血気にはやった者は見境なく魔物を襲うかも知れなかったために、レミアの注意がとんだのだ。


 もはや、戦いは一方的である。


 魔将の一群はろくな抵抗も出来ずに殺されていった。


 『オリハルコン』のデイバーとシグリアは、レミアの戦う姿に見惚れながら、手近なゴブリンを葬る。


「それにしてもデイバー、あの娘は何者だ?」

「知らん、だがこの戦場にいる誰よりも強いのは確実だ」

「お前よりもか?」

「ああ、あの娘と戦えば十合も打ち合えるか自信がない」

「はは、デイバーの言うとおりだな。俺も間違いなくやられるな」

「出来る事なら、戦わなくて良いような友好な関係を築きたいものだな」


 デイバーとシグリアは、レミアに敵対しないですむように密かに誓った。




「すごい娘がいるのね」


 もう一人の『オリハルコン』であるアナスタシアもレミアに感嘆の声を上げる。レミアの戦いは『美しい』の一言だ。相手の攻撃をいち早く察知して、最小の動きで躱し、これ以上ない無駄のない動きで攻撃を繰り出す。

 機能美の極致とも言うべき芸術的な動きが見える。


 アナスタシアは、そう称賛をしながら、魔術を魔物に放つ。魔術師の彼女は、ほぼ詠唱無しで魔術を放てる。その分、威力は落ちるが、このような乱戦においては非常に有効な魔術師だった。


 一方的に魔物達を駆逐していく冒険者達、太陽はいつの間にか頭上高く上っている。しかし、冒険者の志気は一行に落ちない。一方的な殺戮にタガがはずれたかのように手当たり次第に魔物に武器を振り下ろす。



「ぐぎぇぇぇぇ!!」

「じしやゃゃゃ!!」


 放たれる悲鳴のほとんどは魔物の口から発せられている。


 そこに、無傷の魔将直属の魔物の群れが乱戦に参加する。冒険者達の体力は実はすでに限界を迎えているのだ。それを殺戮の高揚により感じなかっただけなのだ。もし、気持が途切れてしまえばもはや立つことは出来ないだろう。


 魔将直属の群れを構成する魔物は、トロル、サイクロプスだ。


 トロルは身長が3メートル弱の魔物で、ゴブリン、オーガをさらに巨大化したような魔物だ。残虐な嗤いを浮かべて乱戦の中に飛び込んでくる。

 サイクロプスも身長はトロルとほぼ変わらない。だが、その特徴は何と言っても巨大な目が一つ中央の位置にある事だろう。口に残忍な嗤みを浮かべているのも、トロルとの仲間であることを否応なしに理解させる。


 他にゴブリン、オーガが200体ほど乱戦の中に躍り込む。


 魔将としては乱戦で冒険者達を消耗させ、最後にとどめを刺そうとしたのだろう。間違いではない。もしレミアがいなければ最終的に勝ったのは魔将達だったろう。だが、ここにはレミアがいたのだ。それこそが魔将の最大の誤算だった。


 乱戦に乗り込んできた魔将直属の群れに対し、レミアは真っ先に向かう。


 統制のとれたゴブリン、オーガ達はほとんど一太刀で命を散らされていく。トロルに接触したレミアは、一瞬でトロルの間合いに飛び込み、腹に剣の一本を突き刺す。そのまま腹を引き裂いた。引き裂かれた腹からトロルの内蔵がボタボタと落ちる。腹を割かれたトロルは痛みのために蹲った。

 

「良い子ね…」


 レミアはそう言うと、蹲るトロルの首を斬り飛ばす。トロルの首が転がり落ちるとゴブリン、オーガ達は明らかに狼狽する。

 別のトロルが仲間の仇を取ろうとレミアに掴みかかる。レミアは神速としか思えない速さでレミアを掴もうとする右腕を斬り飛ばし、同時に振るったもう一本の剣で首を斬り飛ばした。

 周囲の者には、いきなりトロルの首と右腕が無くなったよにしか見えない。


 レミアが視線を動かすと視線を感じた魔物達はビクリと棒立ちしてしまう。そんなあからさまな隙を見逃すレミアではないので、棒立ちの魔物達に容赦なく剣を振るい、命を刈っていく。


 二体のサイクロプスがレミアに殺到するが、レミアはすれ違い様に一体のサイクロプスの胴を薙ぐ、剣を振り抜いた勢いでそのまま反対の剣で斬撃を放ち左腕を付け根から切り落とす。まったく無駄のない機能美の極致ともいうべき斬撃だった。倒れ込んだサイクロプスに目もくれず、レミアは跳躍し、もう一体のサイクロプスの顔面に剣を突き刺す。体の中心に位置する目をレミアの剣は貫き、そのまま脳に達する。

 レミアは剣を引き抜き蹲るサイクロプスの延髄に剣を突き立てる。その様子を見て、ゴブリン、オーガ達は恐怖に顔を歪ませる。


 レミアが一歩進むと、魔物達は二歩以上下がる有様だ。


 もはや本能レベルで、レミアの恐怖が刻み込まれた魔物達は、一気に戦意を無くしていく。乱戦を制するために送り込んだ魔将直属の群れは魔将の期待に応えることは出来なかったのだ。


「さて…終わらせましょうか」


 レミアの声を聞いた魔物達は狼狽する。言葉を知識で理解したのではなく本能で察したのだろう。我先に逃げ出した。


 逃げ出す魔物の中に、守られながら逃げる魔物をレミアは見つける。身長は2メートル弱で青黒い肌で頭髪は長い。デリングと呼ばれる亜人種の魔物だ。知能が高く、魔力も高いため、ゴブリンやオーガなどの亜人種の魔物を従えることが多い。魔将候補だ!!


(あいつね!!)


「エルテン様!!そっちは危ない伏兵です!!」


 レミアは声の限り叫ぶ、これに反応すれば魔将であることがほぼ確定する。デリングはレミアの声に反応し、周囲を見渡す。


(当たりね!!)


 レミアは標的のエルテンに向け走り出す。周囲の魔物たちはもはや、エルテンにかまっている暇はないという混乱ぶりだ。レミアはエルテンを追う。そのことに気付いたエルテンは驚愕に顔を引きつらせる。死を象徴するレミアという存在が自分を見つけたことに激しく狼狽する。


 エルテンは剣を抜き、レミアに斬りかかる。


 レミアは振り上げたエルテンの剣が振り下ろされる前に、腕を斬り飛ばし、ほぼ同時に腹にもう一本の剣を突き込む。


 ズシュ…


 驚愕に満ちた顔が苦痛に歪み、恐怖に変わる。そして表情をなくし倒れこんだ。レミアはすぐにエルテンの首を切り落とすと、頭上に掲げ叫ぶ。


「魔将エルテンを打ち取ったわ!!!」


 その声を聞いた冒険者たちは雄たけびを上げる。一方で魔物たちは恐怖にかられ我先に逃げ出す。


 これで完全に決着がついたのだ。


 これで魔将編は終了です。

 次回は、魔将編の後片付けといったところです。

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