魔将④
戦闘が長引いてますね。
よろしくおつきあいください。
レミアがその武力をいかんなく発揮し、闇犬と黒狼のリーダーを討ち取ったことで、闇犬、黒狼は烏合の衆と化し、冒険者達に狩られていく。
といっても統率者がいない以上、多くの闇犬、黒狼は逃亡したのであったため、実際に狩ったのはそれほどの数ではなかった。
奇襲に失敗した魔将は、次の配下の魔物を突撃させる。
突撃してくる魔物は、ゴブリン、オーガと呼ばれる亜人種の魔物達で、ゴブリン達はそれぞれ、粗末な皮鎧に身を包み、剣、槍、ナイフ、弓、盾などをそれぞれ持ち、向かってくる。ゴブリンは姿形は人間の子どもよりは高いが大人よりは低い身長であり、緑っぽい皮膚にわずかな頭髪、とがった耳、むき出した歯茎にするどい牙がのぞいている。
一方、オーガは人間の身長よりもはるかに高く、分厚い筋肉に覆われている。こちらもゴブリンと似た容貌をしている。だが、身につけているものは、ゴブリンよりも粗末な腰蓑に巨大な棍棒だ。少なくとも武装面で多彩さはなかった。
冒険者達は再び、魔術や矢を放つ。先程は高い回避能力のあった闇犬、黒狼だったため躱すことが出来たが、今度のゴブリン、オーガは躱すことが出来ず直撃する。
数体のゴブリン、オーガが斃れるが、魔物達の突進に怯みはない。矢が刺さったままこちらに向かってくるオーガやゴブリンの大群に冒険者達は浮き足立つ。
だが、ここで逃げ出す事は出来ない。答えは簡単で逃げても捕まって殺されるだけだし、単純に逃げ出す時間がなかったのだ。
冒険者達の前衛が剣、槍、戦槌、戦斧を掲げ前進する。後衛は前衛の作る壁を信じ、矢や魔術を存分に放ち出す。
再び、放たれた攻撃にゴブリン、オーガ達はさらされるが、当然、すべてを斃すことは出来ない。やがて前衛とゴブリン、オーガ達はぶつかった。
凄まじい怒号と絶叫、悲鳴が周囲に響く。
「ぎゃあああああ」
腕を飛ばされた冒険者が倒れ込み、ゴブリンの槍が遠慮なく冒険者の首を刺し貫く。首を刺し貫かれた冒険者はすぐに目から光を失い絶命する。
冒険者達も負けてはいない。剣を縦横無尽に振るい、ゴブリン達を数体まとめて切り伏せる者もいた。だが、数が違う。ゴブリン、オーガ達が1000程であるのに対し、つっこんだ冒険者達はわずか80名程だ。程なくして冒険者達は各地でやられ始める。
そんな絶望的な混戦の中にレミアはいた。レミアの周囲にはすでに20を超えるゴブリン達が転がっている。
斃れたゴブリンは心臓、喉を突かれ絶命している。他の外傷が見られないため、レミアが一突きで斃したことがうかがえる。襲い来るゴブリン、オーガ達はレミアの振るう槍に貫かれ次々と斃れていく。
(数が多いわね。私は大丈夫だけど、冒険者達の被害が大きすぎるわ)
レミアはなんとかしないと思うが、他の冒険者を助けるにはレミアの手は足りない。横の冒険者達なら助けることが出来るのだが、さすがに全ての冒険者を助けることは出来ない。
(ジェドは?やられてないわよね?)
前衛のジェドがふと心配になり、周囲を見渡すと、ジェドを見つける。無事を確認するとほっと胸をなで下ろす。
ジェドの戦い方は理にかなっていた。まず敵の攻撃を盾で受け、隙を作り攻撃する。非常にシンプルで単純だが、だからこそ効果は絶大だった。
ジェドはゴブリンが振るう剣を盾で受け止めると、突きを放つ。ジェドの放った突きはゴブリンの喉を刺し貫き、ゴブリンを絶命させる。
その時に後衛の魔術師達が火球を放つ。火球を受けたゴブリン、オーガ達は倒れ込む。
かなりの数のゴブリン、オーガ達が戦闘能力を失ったと見て良いだろうが、倒れ込んだのは100に満たない。焼け石に水といった所だ。
だが、レミアはこれをチャンスと捉え、槍を投擲する。投擲された槍はゴブリンの胸を貫き、ゴブリンは血を吐きながら倒れ込む。そして双剣を抜き、周囲のゴブリン、オーガ達を切り裂きながら前進する。
レミアの剣はゴブリンだろうが、オーガだろうが、盾で防御をしようが、剣で受けようがそんなこと関係無しに切り捨てていく。あるゴブリンは盾ごと真っ二つにされ、あるゴブリンは剣でレミアの剣を受けたが、これまた剣ごと両断される。
レミアは魔法が放たれ倒れ込むゴブリンやオーガ達の場所に立ったあと、前衛の冒険者達と戦うゴブリンやオーガ達を背後から襲った。
「グギィ!!」
「ギィィィ!!」
背後からレミアに襲われたゴブリンとオーガは、前方の冒険者達と背後のレミアに注意を裂かれた結果、冒険者達がなんとか盛り返すことが出来たのだ。
レミアは前衛の冒険者達が盛り返すのを見ると、自分に向かってくるゴブリン、オーガ達の相手をする。戦場を縦横無尽に駆け巡り、双剣を振るい、ゴブリン、オーガ達を数多く屠っていく。
棍棒を振るうオーガの懐に入り込み、オーガの両足を切断する。
「ギェッェェェェッェェッェッェェェェェエエェェッェェ!!」
音程の外れたオーガの叫び声が響き渡る。レミアは倒れ込むオーガの頭を踏みつけ、剣を背中に突き刺す。またしてもオーガの叫び声が響き渡る。
「グィィィィゲェェェァ」
レミアに加虐趣味はない。本来のレミアなら足を切断するまでもなく首をはね飛ばしていた。だが、このオーガに対してはことさら加虐行為を行ったのだ。理由は二つ。叫び声を上げさせることで、ゴブリン、オーガ達に恐怖を植え付ける目的と自分にゴブリン、オーガの怒りを向けさせるのが目的だった。
うまくいくかどうかはわからないが、やってみる価値はあると思ったのだ。生贄に選ばれたオーガこそ不幸であったが、文句を言える立場ではないだろう。
残虐にオーガを屠った事で、ゴブリン、オーガの敵意に満ちた目がレミアに注がれる。
(うまくいったかしら?これで私に敵意が向けば、他の人達に少しは余裕が出るんだろうけど…)
レミアは考え事をしながらも、手を休めることはない。レミアの双剣はゴブリン、オーガ達を容赦なく屠っていった。
「ぐげげが!!」
「げが!!」
「げが!!」
ゴブリン達が叫びながらレミアに殺到してくる。苦痛の叫び声ではないため、ゴブリンの言葉で『殺せ!!』と叫んでいるのかも知れない。
無数に振り下ろされる剣、槍をレミアはまったく気にすることなくあっさりと躱し、致命的な斬撃を相手に与える。その度に首が飛び、腹を割かれたゴブリン、オーガ達が量産されていくのだ。
そこに大剣を振るいゴブリン、オーガを屠る冒険者を視界の端にレミアはとらえる。
『オリハルコン』の一人、シグリアが大剣を振るう度にゴブリンが真っ二つに両断される。
凄まじい膂力で振るわれる剣は、ゴブリン達をなぎ倒していく。そこにまたしても放たれる後衛組の魔法攻撃がゴブリン、オーガに降り注ぐ。またもかなりの損害がゴブリン、オーガに与えられた。
ドォォォォン!!ドォォォン!!
その時、魔将達の方角から太鼓の音が響き渡る。その音が鳴り響くとゴブリン、オーガ達は退却を始めた。冒険者達の思わぬ反撃のため、これ以上の損害を避けるために下がったのだろう。
見た目には冒険者側の勝利と言えるかも知れない。だが、実際は敗北だった。冒険者の前衛はこの戦いで半数以上が傷つき斃れている。明らかに次は支え切ることは出来ない事は確実だった。
(しょうがない…いくか)
レミアは決心すると退却するゴブリンとオーガに向け走り出す。背を向けている魔物に対して、容赦ない攻撃を加える。追撃はこないと考えていたゴブリン、オーガ達はレミアの行動に完全に不意をつかれる。
追いすがったゴブリンの背中にレミアの剣が振り下ろされる。
「ギゲェェェェ!!!」
背中に斬撃をあびたゴブリンは倒れ込む。レミアはそれを見ることなく次の獲物に視線を移し、剣を振るった。またもゴブリンが絶命する。
(今ならまともな反撃はこない。この敗北をなんとか引き分けぐらいにしないといけないのよね)
レミアが追いかけゴブリンを切り捨てている先には、振り向き隊列を整えようとしているゴブリンとオーガ達がいる。
そこにレミアが躍り込んだ。
振るわれるレミアの双剣がゴブリンの首をまとめてはね飛ばす。ゴブリン、オーガ達の混乱は最高潮に達したと言って良いだろう。陣形を立て直すための後退だったのに、そこを突かれるなんて考えてもいなかったのだ。ゴブリン達は自分達が引けば冒険者達も体勢を立て直すと思っていたのだ。
背後から襲うのが冒険者達全員で追撃したらあっさりととって返し、戦闘になったことだろう。だが、追撃を行ったのはレミア一人、追撃中にレミアが切り捨てたのは15~6体ほどでしかない。大部分のゴブリン、オーガにはレミアの追撃は気付く規模ではなかったのだ。
棒立ちとなっているゴブリン、オーガにレミアは容赦なく双剣を振るう。レミアの存在に気付いたゴブリンやオーガはそれから間もなくレミアの双剣により首をはね飛ばされている。レミアはさらに進む。目指すのはゴブリン、オーガのリーダーだ。
レミアが死を撒き散らしているとその死から守られるように離れるゴブリンの一団を見つける。レミアはニヤリと嗤い。逃げる一団に向かって走り出す。当然、その間にいるゴブリンやオーガは血祭りに上げられている。
護衛のゴブリンがなにやら叫んでいる。するとレミアにゴブリン、オーガが殺到してくるが、まったくレミアを止めることが出来ない。
目前に迫っているレミアを見て、護衛のゴブリン達は恐怖に顔を歪めたよにレミアには思われる。レミアの双剣が護衛のゴブリンの首をはね飛ばす。リーダーが護衛の気配が消えたことに振り向く。
そこには、レミアの振るう剣があった。
首を切り落とされたゴブリンのリーダーの体は、数歩歩いたところで、地面に転がる。レミアは切り落としたリーダーの首に剣を突き刺し掲げる。
掲げられたリーダーの首を見て、ゴブリン、オーガ達は動揺する。自分達のリーダーが討たれたのだ。ゴブリン達は呆然と、オーガ達も同様に呆然としている。
レミアはリーダーの首を放り投げ、落ちてくる首を真っ二つに両断する。その様子を見たゴブリン、オーガ達は恐怖に狩られ逃げ惑った。
もはや、隊列も統制も何もない。ただの烏合の衆と成り下がったゴブリンとオーガ達に冷たい視線を向けると堂々と冒険者達の方へ向かい歩き出す。
(これで、少しは時間が稼げるといいのだけど…)
レミアを追ってくるゴブリン、オーガはいない。圧倒的な力を持つレミアに烏合の衆の魔物が向かってもただ首を刎ねられるだけと言うことを、本能で察していたのだ。
冒険者の陣営に戻ってきたレミアに対し、冒険者達は呆けた顔をしている。それをレミアはかすかに微笑み踵を返す。
敵の次の一手に対応するためだ。
(とりあえず引き分けに持ち込めたかしら…)
レミアの胸中には苦いものが満ちていた。
ちょっと戦闘描写が長すぎますかね。グダグダとなってしまってますが、敵の数が多いためと割り切っていただければ嬉しいです。




