魔将③
戦闘開始です。
やっぱり戦闘描写になると筆の進みがいいですね。
待機場所に向かって進んでいた冒険者達約200人は、突然の停止に戸惑う。
各チームの代表者が、『オリハルコン』のシグリア、デイバー、アナスタシアの三人に呼ばれ動き出す。
「レミアはいかないでいいの?」
シアはレミアに声をかける。レミアは言いづらそうに答える。
「内容はわかってるからいかなくていいわ」
「え?」
「多分、ここで野営するという内容よ」
「ここで?」
シアはレミアの言葉に戸惑う。
「どうして、ここで野営すると? 当初の予定の半分も進んでいないぞ」
ジェドがレミアの言葉に疑問を呈する。
「さっきのジェドの持ってきた情報から考えて見たのよ。その結果、このあたりで私達は魔将を迎え撃つことになりそうよ」
「このあたりで?」
「ええ、おそらく、約200人で3000程の魔物と戦わなければならないわ」
「なぜ? そうなる」
「斥候がここに現れた以上、本隊もそう遠くないところにいるわ。となるとあの『オリハルコン』の人達がここで迎え撃つ判断をしてもおかしくないわね」
レミアの説明にシアもジェドも言葉を失う。確かに斥候を斃したといってもすべての斥候を斃した確証はないし、斥候が放たれる以上、本隊がこの近くにいるのも想定すべきだろう。
シアもジェドもレミアの言葉の説得力を感じている。
「それにしても…」
レミアの声は苦渋に満ちている。
「魔将は決して私達を舐めていないわね。おそらく王都にいるときから私達の動きを把握していたはずだわ」
「どうして…?」
シアから戸惑う声が発せられる。レミアの魔将への評価が高いと笑い飛ばしたいのだが、それは出来なかった。
「だって、いくらなんでも斥候に出会うのが早すぎるわ。おそらく騎士団の作戦も筒抜けだったはず」
「でも、どうやって?」
「こちらは魔将達を単なる魔物としてとらえていたから、王都の人間は大部分が作戦内容を知ってるわ。だって、この仕事を受けた時に、大まかな説明を受けたじゃない」
「確かに…」
「私は、この場に来ていない仲間に『騎士団が挟み撃ちして、打ち漏らした魔物を冒険者で斃す』って伝えたわよ。他の冒険者も酒場とかで当たり前の様に話したんじゃないかしら…」
「…」
「魔将は王都にいても違和感のない小動物みたいな配下の者を潜り込ませておいて、作戦内容を把握し、王都を出た私達を尾行したとしたら?」
「…」
「私が魔将なら一番数が少なくて、統率のとれていない冒険者をまず襲うわ。各個撃破というやつね」
「でも、レミア、魔将達は単なる魔物だ。そこまで知能があるかしら?」
「わからないわ、でも知能があると考えて行動した方が傷は浅く済むと思わない?」
レミアの言葉が終わったころに、周辺の冒険者のチームリーダーが話しが終わったとして戻ってくる。レミアの予想通り、ここで野営に入ると言うことだった。
レミアの予想通りの展開にシアとジェドも顔を見合わせる。
「とりあえず、早く野営の準備を済ませて早めに休みましょう。おそらく今夜にでも襲撃があるはずよ」
レミアが緊張の面持ちで二人に告げる。シアとジェドはレミアの言葉に頷く。ここまでのレミアの言は当たっているのだ。しかも提案は襲撃があろうがなかろうが大切な事なのだ。
野営の準備と言っても、レミアはほとんどする事がなかった。レミアは干し肉だけで食事を済ませるつもりだったし、マントにくるまってその辺で寝るつもりだったので、実質やることはなかったのだ。
あちこちで冒険者チームが野営の準備を始める。レミアはシアとジェドの野営の準備を手伝う事にする。といっても石と薪を拾ってきて終わってしまった。
すばやくたき火をおこし、レミアとシア、ジェドの三人は食事をとる。レミアは干し肉を、シアとジェドも干し肉と堅いパンで食事を済ませる。
一応、二人にお裾分けとして、レミアがつくった兵糧丸という保存食を手渡す。この兵糧丸は小麦粉を練ったものに、塩、胡椒で味付けしたものを、焼いて干したものであった。
味よりも保存、携帯を目的としたものだった。
シアとジェドはお礼をいい、口に入れてみたのだが、ないよりはマシという味であり、微妙な顔をしていた。
早い食事を終え、三人は休むことにした。周囲の冒険者達はこれから食事といったところだ。
ガヤガヤとした喧噪の中、三人はいち早く休むことにする。
いち早く眠りに着く三人は、周囲の冒険者に奇異に見られたが、レミアは気にせず眠る。もちろん警戒を解いているわけではないので、魔物が現れればすぐに対応するし、周囲の冒険者達が危害を加えようとも余裕で対処できるのだ。
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周囲の喧噪はいつのまにか収まった頃にレミアは目を覚ます。もちろん、魔物の気配を察してだ。
かすかな魔物の気配、かなりの数の足音がこちらに向かってきているのをレミアは察したのだ。
「シア、ジェド…起きて…来たわよ」
レミアはシアとジェドを揺り起こす。二人とも敵が来るということをレミアから聞いており、すぐに目を覚ます。
「レミア…来たの?」
「本当に来たのか…」
シアとジェドはレミアに問いかける。
「ええ、もう少ししたら、他の見張りの人達が気付くはずよ」
レミアがそういった直後に周囲の見張りから話し声が聞こえ始める。
そして、見張りの一人が大声で怒鳴る…。
「敵だ!!魔将が魔物を率いてやってきたぞ!!」
「起きろ!!敵だ!!」
「魔将が来たぞ!!」
一人が叫ぶと他の見張り達も声を張り上げ、危機を知らせる。眠りの世界から一気に死地に立たされた者達は一気に跳ね起き、敵の襲来に備え準備を始める。一気に冒険者達の陣営は騒然となった。
周囲から魔物の気配が放たれていることをレミアは感じる。いや、魔物達はこの状況で自分達の気配を隠すことなく堂々と近づいてくる。闇に覆われているため、姿を見ることは出来ない。だが、冒険者達は自分達が魔物達に半包囲されていることを悟っていた。
「みんな、構えろ!!」
『オリハルコン』のシグルアが冒険者達の中を叫びながら走る。その行動に一切の恐怖はない。そのため、動揺しかけた冒険者達も落ち着きを取り戻す。
そうだ、こちらには『オリハルコン』の冒険者が三人もいるのだ。魔将の配下がいくら多くても負けるはずがない。
いずれにせよ。冒険者約200と魔将配下の魔物3000匹以上の数の上では圧倒的不利な状況となったのだ。
冒険者たちは、すかさず【照明】の魔法を展開する。これは文字通り光源を空に放ち、照明とする魔術で、比較的少ない魔力で周囲を照らすので、なかなか使い勝手がよかった。また。夜間に使えば、助けをよぶ目印にもなるため、冒険者たちにとっては身近な魔術である。
ただ、夜間にむやみやたらに使えば魔物を呼び寄せることがあり、注意は必要であったが、この魔物に囲まれている状況ではそんなことを気にしている場合ではなかった。魔物達は人間よりもはるかに夜目がきく以上、明かりのない状況は不利すぎるのだ。
光源がともされ、戦場に光が満ちる。とりあえず、魔物の夜目の有利はつぶしたと見ていいだろう。だが、冒険者たちは光が満ちたことにより自分たちが魔物に囲まれていることに気づき驚愕する。
「おいおい、すっかり囲まれてるじゃねえか!!」
「数が多すぎる…」
「おい、後ろに下がれ」
「ネッシュ、援護しろ」
レミアの周りで恐怖を押し殺した声、各チームのリーダーによるメンバーへの指示がとぶ。
レミアは魔将が率いる魔物達を確認する。さまざまな種族が混ざり合った集団だ。おそらく魔将が逃げる先で魔物のグループを配下に加えていった結果だろう。グループごとに分かれているため、人間の軍隊の兵種ごとにわけられた編成のように見える。
獣型の魔物達がまず行動を開始する。闇犬、黒狼と呼ばれる魔物達が冒険者に襲い掛かる。どちらも狩りを行う肉食の魔物で冒険者ギルドにたびたび駆除以来が舞い込む魔物だ。
いつもの冒険者たちなら余裕で相手にする。だが、今回は数があまりにも多い。どちらとも100を軽く超える規模だ。いつもの依頼では数は10を下回るぐらいの規模なのだ。それが、一塊になって冒険者たちに殺到する。
冒険者たちのグループの前衛の役割を担うものたちは武器を構え、闇犬と黒狼の一群を迎え撃つ。
魔術師達が詠唱を開始し魔術を放ち、アーチャーたちは矢を番え放つ。
放たれた魔術と矢は闇犬と黒狼に注がれるが、闇犬も黒狼も回避行動を取りながら向かってきており、思った以上の効果が上がらなかった。
冒険者達の中から驚愕の声が漏れる。
「な…」
「避けやがった…」
「来るぞ!!」
レミアはその様子を見て確信する。魔将に率いられたこの魔物達は狩りの対象ではない。やつらには戦闘技術があり、戦術がある。レミアの警戒心は高まる。
「シア、ジェド、あいつらには戦術がある。これはやはり狩りじゃないわ」
レミアの言葉にシアとジェドはうなずき、声をあげる。
「わかってる」
「わかったわ」
二人の言葉に、レミアは笑顔をみせる。この二人は慢心していない、なら生き残る可能性は高いという安心の笑みである。
闇犬と黒狼の一群が冒険者に襲い掛かる。前衛の盾を構えた屈強な冒険者達が闇犬の突入を防ぐ、別の場所に突入した黒狼も前衛が持ちこたえることができたようだった。
一度勢いを止めた冒険者達が闇犬や黒狼にそれぞれの武器を振り下ろす。
キャン!! キャン!! キュウゥン!!
武器を振り下ろされた闇犬や黒狼達の口から哀れさを誘う鳴き声が漏れる。だが、一方で…
「ぎゃぁぁぁぁ」
「エムス!!」
「大丈夫か!!すぐに治癒魔術を!!」
冒険者達の悲鳴も沸き起こっている。
「ジェド、シアを守っててね」
レミアは一声、二人にかけると、闇犬の群れに向け駆け出す。レミアが闇犬に向かったのは、単純に闇犬が攻撃してきた箇所が、近かったからという理由だった。
あたりに怒号が飛び交い、悲鳴と雄たけび、血の臭いが充満する中で、レミアはかける。
その勢いのまま、跳躍し前衛の冒険者達を飛び越える。レミアの着地した先には闇犬がいたが、遠慮なくレミアはその闇犬を踏みつける。
キャウゥゥンという叫び声が踏みつけられた闇犬の口から放たれる。レミアは動けない闇犬の首筋に槍の穂先を突き刺す。短い叫び声をあげて闇犬は絶命する。
突然現れた敵に闇犬達の敵意はレミアに向かう。どうやら敵と認識したようだ。そして自分たちの前に突然現れた少女に前衛の冒険者達はしばし呆然とする。
グルゥゥゥゥ!!
一匹の闇犬がレミアに飛び掛る。いや、飛び掛ろうとしたというべきだろう。レミアは飛び掛ろうとした闇犬の口に槍を突き刺す。レミアの槍は闇犬の後頭部からわずかにのぞいている。その槍が引き抜かれたと思ったらレミアの槍は次の闇犬を突き刺している。
瞬く間にレミアの槍に貫かれた五匹の闇犬達が絶命する。自分の周囲の闇犬達を葬ると、レミアは冒険者達を襲う闇犬達を背後から容赦なく襲う。
キャゥゥン!!
槍が振るわれるたびに、闇犬達は絶命していく。まるで作業のように淡々と突き刺されていく闇犬達を前衛の冒険者達は半ば呆然と見ている。何しろ、今その圧倒的な武力によって闇犬を駆逐しているのは一人の少女であり、しかもすばらしい美貌の持ち主だったからだ。
闇犬達は四方八方からレミアを噛み砕こうと突進するのだが、レミアの槍に貫かれていくばかりで、まったく近づけない。
(どこにいるのかしら?)
レミアは闇犬達を刺し貫きながら闇犬のリーダーを探す。
(あいつだわ!!)
レミアは闇犬達を葬りながら、リーダーと思わしき闇犬を見つける。その闇犬だけを周囲の闇犬達が守っているように見えたため、レミアはそうと断定する。
レミアは逃がすと厄介ということで、少しずつ周囲の闇犬を倒しながらリーダーと思われる闇犬との間合いをつめる。間合いに入った瞬間、レミアはターゲットに向かい一瞬で間合いを詰め、槍を突き出す。
キャゥゥゥン!!
顔面を貫かれた闇犬が叫び声を上げて倒れこんだ。どうやら当たりだったようで、闇犬達は急に統制をなくし右往左往しだす。その様子を確認すると、レミアはまたしても周囲の闇犬達に槍を突き出す。新たに7匹を血祭りに上げると、レミアはまたしても走り出す。
今度は黒狼がぶつかった箇所だ。
黒狼のぶつかった箇所の冒険者達も前衛ががんばっており黒狼達の侵入を許してはいない。だが、前衛の消耗は決して軽くないことは見て取れる。
後衛が魔術や矢を射かけているが、黒狼はうまく回避し、今一、効果が薄いのだ。
レミアは黒狼に襲い掛かる。横からの攻撃に黒狼の何匹かは気づきうなり声を上げ向かってくる。レミアはかまわず、速度を緩めることなく突っ込み、たちまち四匹の黒狼を血祭りにあげる。そのまま、黒狼の群れに突入し、槍を振るい始める。
立て続けに三匹の黒狼がレミアの槍に貫かれ、絶命する。そこに一声なき黒狼を動かす一匹の黒狼をレミアは見つける。
今度はあっさりと黒狼のリーダーを発見することが出来たのだ。レミアはニヤリと嗤う。残念だが、このときに、黒狼のリーダーの命運が尽きたといってよいだろう。レミアは槍を振りかぶり投擲する。
レミアの投擲した槍は黒狼のリーダーの顔面に突き刺さった。黒狼のリーダーは声を上げることなく絶命する。そのまま斃れこみ動かなくなるリーダーを見て黒狼達の統制は闇犬同様に崩れ去る。
何体かの黒狼がレミアに向かうが、レミアは腰に挿した双剣を抜き放ち、忽ち向かってくる黒狼を切り捨てる。そのままレミアは前進し、黒狼のリーダーに投擲した自分の槍を回収する。
槍を回収すると周囲の黒狼達を始末しながら、レミアは冒険者達の陣営に引き上げる。
冒険者達のレミアの見つめる目が熱を帯びている。どうやらレミアの戦う姿に見惚れてしまったようだった。
レミアが闇犬と黒狼のリーダーを討ち取ったことで、冒険者側は統制をなくした闇犬、黒狼を打ち負かすことが出来た。
(とりあえず一勝っと)
レミアは冒険者達の陣営にもどるほようやく一息つくことが出来たのだった。
レミアの活躍描写がえがけるのは正直嬉しいですね。
作者的には魔将編は書いてて楽しいです。読者の皆様方も楽しんでいいただければと思っています。




