表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/602

王子Ⅲ③

 話が長くなりましたがご容赦を…

「頭の悪い奴だな…。お前を殺した後に葬式出してくれる奴がいるかどうかの確認だろ」


 アルフィスの言葉をテルフィアが理解するのに、少々時間がかかった。そして、理解するとテルフィアは怒り、その後に嘲りの感情が浮かんでくる。


「ほう、勇ましいことだね。アスター君」


 テルフィアの目に残虐なものが宿る。一方でアルフィスは嘲るようにテルフィアを見て言う。


「アスター? お前アホだな。そりゃ偽名だ。お前が騎士達を操っている事がわかってたから、偽名使ったんだよ。いつまで欺されてるんだ?」

「な…」


 テルフィアの声にアルフィスは思い切り人の悪い笑顔を浮かべる。思い切り意地悪が出来る事が嬉しくて仕方がないという感じだ。


「ああ、ちなみに偽名使ったのは、お前が、俺の事を知っているかどうかを確かめるためと、操っている者が見聞きしたものの情報を、その場にいないで把握できるかどうかの確認するためだ」

「…」

「で、お前、俺達が入ってきたときに嘘の情報を得意気に披露してたろ。笑いを堪えるのに苦労したぜ」


 怒りのためだろうか、テルフィアの方がプルプルと震えている。


「お前が大物ぶって話せば話すほど、俺は腹がよじれそうだったよ。お前、自分が虚仮にされてることまったく気付いてないんだから、とんだピエロだよ」

「き…さ」

「おや、どうしたテルフィア君? 顔が怒りのためか真っ赤になってるぞ? まぁお前、顔色悪かったから病気じゃないかと心配してたが、マシな顔色にしてあげたんだ。感謝しろよ」


 テルフィアへの嘲りは止まらない。


「ああ、そうそう俺にはお前の操る術は通じないぞ」


 アルフィスの言葉にテルフィアは反応する。


「嘘だ!!お前如きに私の術を破れるはずがない!!」


 テルフィアは激しく激高する。どうやらテルフィアを支えているのは、人を操る術らしい。となればそれを折ってしまえばテルフィアは何も出来なくなる。

 正直な話、人を操る術なら、アインベルク関係者の使う瘴気を使う術の方がはるかに質が悪い。なにしろ、あの術は意識があろうがなかろうが、命があろうがなかろうが関係ないのだ。それに比べれば、こいつの術はせいぜい精神を操るぐらいだ。暗示と大差ない。


「お前の術は基本、精神に暗示をかけるタイプのものだろう? 不意をつかれれば、かけられたかもしれんが、すでに俺は暗示があるものとして行動しているから俺にはかからんぞ」


 アルフィスは事実を事実として伝えているだけなのだが、テルフィアは認められないのだろう。


「じゃあ、さっさと俺にその術とやらをかけてみればいいだろ? なんでやらないんだ?それとも、お前の術は条件がそろわないと出来ないタイプか? 違うよな、お前の術は、そんな制限はいらないはずだ」


 テルフィアは答えない。答えないことを肯定と受け取ったアルフィスは構わず続ける。


「お前が騎士達を操った後に、御者も操ったんだろうが、騎士と御者は話していない。触れてもいない。ということは、制限がないというわけだろ」


 もちろん、アルフィスは決めつけて話しているが、半分以上は当てずっぽである。アルフィスが見つけていないだけで、条件があった可能性はあるのだ。


「まぁ、いいか…。ここでお前が死ねば。それでこのくだらない術も闇に葬れる」


 アルフィスは話を打ち切り、殺気をテルフィアに放つ。その殺気の強さにテルフィアは明らかに狼狽する。

 その様子を見て、アルフィスはこのテルフィアという男が単なる卑劣漢であることを確信する。この男は自分が傷つかないという状況でしか強者として振る舞えないのだ。自分に危害が及ぶということを自覚すれば、狼狽えるしかできない男なのだ。


「ちなみに聞いておくが、そこの両隣の男達は、自分の意思なのか? それとも操ってるのか? まぁ、解呪してみればわかるか」


 アルフィスはそう言うと、自分の前にいる騎士達の背後に一瞬で回り込み、首筋に手刀を放つ。見事に決まり騎士達二人は意識を手放した。他の騎士がアルフィスが行動を開始したことを認識し剣を抜こうとするが、それをアルフィスは制し、またしても首筋に手刀を放つ。騎士二人は最初の二人と同様に意識を手放す。


「アルド、ロアン…御者を取り押さえろ。ただし絶対に殺すな」

「「はっ!!」」


 アルフィスの命令に従い、二人が御者を取り押さえる。


「王太子殿下、剣を!!」


 アルドが御者の持っている剣を奪い返し、アルフィスに声をかける。


「いや、必要ない。剣では殺してしまう」


 アルフィスはアルドの申出を断る。両隣の男達はただ単に操られている可能性がある以上、殺すのは気が引けたのだ。


 アルフィスの言葉を聞き、テルフィアの両隣の男達は剣を抜き、アルフィスに襲いかかる。

 アルフィスは下がるのではなく前に出て、間合いを詰める。剣を振るおうという腕の肘の位置を手で止め剣を止める。同時に放たれた拳が、男の顎に決まり、男は意識を手放す。十分手加減したため、顎が砕けるようなことはなかったのは幸いだったろう。

 もう一人の男も、アルフィスに手を捕まれると引き寄せられ、そこにアルフィスの拳が顎を打ち抜く。この男も意識を手放した。


 頼りにしていた護衛があっさりとアルフィスにやられた事は、テルフィアを恐慌状態にさせる。


「ひぃぃぃ!!」


 この段階になって始めて、テルフィアは自分が手を出してはいけない相手に手を出したことを理解した。

 そんな、心の折れたテルフィアにアルフィスの冷たすぎる声が響く。


「一応言っておくが、俺はお前の命を助けるつもりはない。命乞いしても無駄だぞ」


 アルフィスの言葉に命乞いをしようとしたテルフィアは言葉を失う。実の所、テルフィアはアルフィスを操ろうと術を発動させたのだが、アルフィスには通じなかった。

 テルフィアの術はアルフィスが言ったように暗示の類であり、それを魔術により強化しているものだ。そして暗示にかけたものを操り、別の者に暗示をかける事ができるというものだ。一度暗示にかけた者の様子は、【千里鏡】【千里耳】という魔道具マジックアイテムによって見聞きすることが出来るのだ。


 術も通じず、護衛もやられた以上、テルフィアに出来る事はただ命乞いだけだったのだが、それもアルフィスに容赦なく封じられている。


「さて、愚かなお前に本当に人を操るというのがどのようなものか教えてやろう」


 アルフィスはニヤリと嗤い、両手を胸の前に持ってくる。両手の間に瘴気が集まり、拳大に成長し、さらに人の頭部ほどになる。


「これぐらいでいいか…」


 アルフィスは、集めた瘴気をテルフィアに放つ。アルフィスの放った瘴気はテルフィアに纏わり付く。


「ひぃぃいぃぃぃぃいいぃ!!」


 音程の外れた叫び声が室内に響く。放たれた瘴気は、テルフィアの叫び声をまったく無視しテルフィアを覆った。やがてテルフィアを覆った瘴気が体の中に吸い込まれるとテルフィアの体の自由は完全に奪われた。


「さて、テルフィア君、この術はアインベルク家の術でね。弱い奴なら半永久的に操ることに出来るのだよ」


 アルフィスもアレンと同様に敵には一切容赦しない男だ。増してはテルフィアはアルフィスにとって裏でコソコソと動き回り自分は手を汚さないというクズ中のクズという最低レベルの認識なのだ。

 自然と言葉遣いも嘲りの度合いが大きくなるのは自然なことであった。


「まぁ…これ以上、クズをからかっても仕方がないので、本題に入るか」


 アルフィスは、声を一段低くおとす。


「テルフィア、お前の背後に誰がいる?」


 アルフィスの言葉に反応したのは、他の者達である。


「王太子殿下?」

「黒幕が他に?」

「こいつの操る術は、こいつのオリジナルなのでは?」


 その問いにはアルフィスは三人に答える。


「いや、こいつの背後に誰かいるのは確実だ。こいつの暗示の術は、はっきり言ってそう大した物ではない。だが、操った人間を通じて、さらに暗示をかけれるというのが特殊なだけだ」


 アルフィスはテルフィアの目を見て、強い殺気を放ちながら言う。


「もう一度いうぞ? お前の背後にいるのは誰だ? 」


 アルフィスはそう言うと、テルフィアの口のみ瘴気の支配をはずす。口が自由に動くことをテルフィアが確認すると、テルフィアは口を恐怖に歪めながら、アルフィスの質問に答える。


「…名前は知りません」


 テルフィアがそういった瞬間に、テルフィアの手が動き、自分の頬に拳が叩き込んだ。


 テルフィアに加虐趣味はあるが、被虐趣味はない。アルフィスの術により操られた体が行ったことだった。自分の体が自分の支配下にないことを実感し、テルフィアは恐怖にかられている。


「ほ…本当なんです!!相手が魔族ということしかわからないんです!!」


 テルフィアは必死に訴える。彼が自由にできるのは口だけだ。


「魔族か…、でその魔族はこの状況を把握しているのか?」

「わ…わかりません」

「その魔族はお前に何を指示した?」

「どれくらいの人数を操れるか試せと…」


 テルフィアの言葉にアルフィスが反応する。


「それでは冒険者を殺したのはなぜだ?」

「そ…それは…」


 テルフィアは言い淀む、その様子を見てテルフィアの心を看破したアルフィスは心底軽蔑した視線を向ける。

 アルフィスはテルフィアの様子からおそらく調子に乗ったテルフィアが戯れに冒険者達を殺したことを察したのだ。しかも殺し合いをさせたのだろう。


「クズが!!貴様戯れに冒険者達に殺し合いをさせたな!!」

「ヒッ!」


 ずばり言い当てられ、テルフィアは怯えた声を出す。


「アルド、ロアン、この屋敷に火をかけろ!!こいつの作った資料もすべて灰にしてしまえ!!こいつが生きた証をこの世から消し去れ!!」

「「はっ!!」」


 アルフィスの指示にアルドとロアンが答える。ついでアルフィスは気絶させた者の上に魔法陣を形成する。この魔法陣は解呪の術式を組み込んでおり、魔術によって強化された暗示であっても消し去ることが出来る。


 空中に描かれた魔法陣は気絶している騎士や男達に降りていき、床に吸い込まれていく。これで、暗示は消えたはずだ。エドはそれを確認すると騎士達の目を覚まさせる。


 目を覚ました騎士達は、ここがどこかわからないようで呆然としていたが、アルドが指示を出すことで、騎士としての己を取り戻したようで、慌ただしく動き出す。


 護衛の男達も意味がわからないという感じだったが、エドが軽く事情を説明すると、憎々しげな視線をテルフィアに叩きつける。


 一方で、テルフィアは自分の研究の成果が完全に消し去られようとしていることに大いに慌てた。取り上げられるならまだしも、消滅させられるのはテルフィアには耐えがたいことだったのだ。


 自分の今までの人生が消し去られようとしている。止めて欲しいと訴えたいのに、口が動かない。アルフィスは屋敷を焼くことを指示したと同時にテルフィアの口の自由を取り上げたのだ。


 程なくして、屋敷の中から油を持ってきた騎士達が室内に油を撒き始める。机の上に置かれた資料、本棚は特に念入りに撒かれている。


「隠し部屋に案内しろ」


 アルフィスが言うとテルフィアの体は自分の意思に反した動きをして、隠し部屋の位置を騎士達に教える。隠し部屋に油を持った騎士達が入っていく。


「これで良し!!全員ここから出るぞ」


 アルフィスの命令に従い、全員が屋敷の外に出る。地下室にいた者以外で屋敷にいたものはいない事はテルフィアに確認済みだった。。


「テルフィア、貴様が火をかけろ」


 アルフィスの命令に従い、テルフィアは松明を持って、屋敷内に入る。そして地下室に行き、自らの手で自分の研究を、いや自分の人生を灰にするのだ。やめてくれと声にならない叫びを上げながら、テルフィアは地下室に火を放った。油を染み込ませた本棚、資料、隠し部屋に置いてあった資料も焼けていく。

 本来、このままテルフィアも焼け死んでしまいたかったのだが、アルフィスの術がそれを許さない。地下室から屋敷にのぼり、入り口から遠いところから火をつけて回される。


 テルフィアの目は完全に光をなくしアルフィス達の前に現れる。


「あんたら、一発ずつこのクズを殴っていいぞ」


 アルフィスがそう言ったのは、護衛の任につかされていた男二人である。この二人は冒険者でテルフィアに暗示をかけられていたようだ。話を振られた男達は怒りを込めた目でテルフィアに近づく。

 暗示にかかっていた時の記憶はあるようで、その行いの非道さの片棒をかつがされた事に対し、怒りしかわかない。


 アルフィスはテルフィアの顔の自由だけを取り戻す。自由を取り戻したテルフィアは恐怖に顔を歪めながら惨めに許しを乞う。


 しかし、男達は構わずテルフィアの顔面に拳をそれぞれ叩き込んだ。護衛に選ぶほどの実力者の一撃はテルフィアにはとてもこたえたようだ。


 テルフィアはあっさりと意識を手放した。



 テルフィアが意識を失ったことを確認すると、アルフィスは撤収を指示する。テルフィアは当然ながら、徒歩での連行になる。

 護衛の二人の冒険者は、馬車の外側に兵士がのる場所があるため、そこに乗ってもらい、近くの街まで連れて行くことになった。


 テルフィアを気絶から起こすと、テルフィアの手を縄で縛り、馬車にくくりつけられ歩き出した。



------------------------


「というわけだ」


 アルフィスはアレンに事も無げに言う。


「え~と、アルフィス…お前は何言ってんだ?」


 面倒事を持ってきた親友に対し、アレンは意味がわからないと言った風に答える。


「だから、テルフィアという奴が魔族に狙われているから、その魔族を始末してくれ」

「アルフィス…おまえそんな厄介な代物を王都に持ち込んだのか?」

「ああ、国営墓地に置いとけば、魔族が現れるだろうから、それをアレンが始末する。簡単な仕事だろ?」


 少しも悪そうに思ってない口調でアルフィスはアレンに告げる。


「それにアレン、お前もすでに魔族に狙われてるだろ? ひょっとしたらそこからお前を狙う陣営にダメージを与えられるかもしれないぞ」


 アルフィスの提案は、意外と良いかもしれないとアレンは考える。テルフィアとやらに接触する可能性のある魔族が第二皇子派の陣営かわからないが、その魔族をつかってやつらの組織になんらかのちょっかいを出すのも面白いかも知れない。


 基本、奴らがこちらにやってきて撃退するというのが基本パターンとなっているので、違う一手を打ってみるのも悪くない。


「そうそう、俺としても、ここまで魔族が好き放題やるのはちと…な」


 アルフィスはおどけた口調で、そう言うが、アレンは知っているアルフィスが最近の魔族の行動に怒っている事を…。


 国内で兵士、騎士、冒険者、傭兵などを浚って戯れに殺害したり、今回の件でもそうだ。国を愛し、民を深く想うアルフィスが怒らないわけはない。


 まったく、俺の親友は俺の扱いが上手いとアレンは思う。利益を提示し、俺に一考させ、そのあと感情を揺さぶる。アレンはよくアルフィスにこの方式のために動かされていたのだ。ただし、アルフィスはアレンの利益にならない話は持ってこない。今回の件も、アレンの一手を増やすものだからだ。


「ふ~ん、アルフィス、俺がやってもいいのか? お前、自分自身でけり付けたいのじゃないのか?」


 アレンの問いにアルフィスはニヤリと嗤う。


「もちろん、その気持はあるが、お前の婚約祝いだと思ってくれ」


 アルフィスの問いに、アレンは目を丸くする。どう言うかと思えば、婚約祝いと来たかとアレンはしばらくして嗤う。


「婚約祝いと言われれば、ありがたくもらっておくか、有り難く使わせてもらうぞ」


 アレンの返答に二人は嗤う。



 アレンは、魔族への一手を手に入れたことになる。それをどう使おうかアレンはすでに頭を動かし始めていた。


 テルフィアは近いうちに酷い最後を遂げてもらいます。ここでの断罪を希望されてた方はもう少しお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ