聖女③
今回、戦闘はオマケ程度です。
夜となり、国営墓地の入り口には、かなりの人数が集まっている。人数は20人ほど、男性だけでなく女性も含まれている。
ほとんどの男性の身に纏う鎧にはラゴル教団の紋章が施されており、彼らがラゴル教団の関係者、いや所属する聖騎士である事は明らかであった。
もちろん、この一行はアレン達4人とラゴル教団の聖女一行だ。
お互いに自己紹介をし、アレンから墓地内ではアレンの指示に従うことを約束させる。
「それでは行きましょうか」
アレンの声に皆が頷き (例に漏れずエゴルだけは頷かない)、墓地内に入っていく。アレンは今夜の瘴気が濃い事を感じ、さっそく警戒を一段階上げる。
もちろんだが、フィアーネ、レミア、フィリシアも同様である。墓地に来て瘴気の濃さの違いがわからないような者はアレンの婚約者の中にはいない。強いて上げればアディラだろうが、アディラは現段階で墓地に来たことがないので、対象に入れるのは酷というものだろう。
「アレン…」
レミアがアレンのとなりを歩きながら囁く。
「どうした?」
「エルゴアの件だけど、この人達は知ってるのよね?」
「ああ」
「危険度はどれくらい認識してるの?」
「正確に伝えたつもりだが、おそらくはかなり低く受け取ってると思う」
「そう…何人かは殺されるかもね」
レミアの言葉にアレンも同意する。残念だがエルゴアの強さは実際に戦わないと理解できないだろう。アレン達であっても対処を誤ればケガを負う相手だ。聖騎士がどの程度の実力かはわからないが、デスナイトと一対一で戦って勝てるほどの実力を持っているとは思えない。
「ねぇ、アレン」
今度はレミアとは逆隣を歩くフィアーネが囁く。
「エルゴアが出たら、私達はラゴル教団の人達をかばう余裕なんてないわよ」
「わかってる」
「それでも保護する優先順位は決めといた方が良いんじゃない?」
「いや、そこまではいらない。基本、あっちはあっちで自分の身を守ってもらおう」
「いいの?」
「そこまで面倒を見る義理はないさ」
「わかったわ、私達は私達でやると言うのが基本スタンスね」
「そういうこと」
アレンとフィアーネの話は聖騎士がアレンに話しかけることで中断する。話しかけた聖騎士は、アルバート=ゲルトスと名乗った騎士だ。20代前半ぐらいだろう。優しそうな目をしており、周囲の信頼も厚そうだ。
「アインベルク卿、よろしいか?」
「なんでしょうか、ゲルトス卿」
「そのエルゴアというものは人造兵士と聞きましたが…」
「はい、やっかいな奴です」
「そのエルゴアが今夜、発生する可能性はどれぐらいと思われますか?」
ゲルトスの質問はかなりやっかいなものである、だが、アレンは今夜、発生する可能性は7~8割と見ている。何度か発生したときの瘴気の濃さと今夜はかなり似ていた。
「おそらく7~8割」
アレンの言葉にゲルトスは息をのむ。7~8割と言えば、発生しない方が珍しいということだ。
「それから、エルゴアは、アンデットを斃すことで強くなる場合があります。今回そいつが発生した場合は、出来るだけ早く始末する必要があります」
「…はい、善処します」
ゲルトスはアレンから離れ、同僚達に注意を促しにいく。どうやらアレンの言葉を真剣に受け止めたらしい。
「アレンさん」
フィリシアが、鋭くアレンに声をかける。
フィリシアの視線の先を見るとアレン達から50メートル先をデスナイトが3体歩いている。しばらくして、デスナイト達は気付いたのだろう。アンデットの習性である生者への執着からこちらに駆けてくる。
アレン達は剣を抜き、デスナイト達を迎え撃つ。アレンは聖女一行に短く指示を飛ばす。
「あれは俺達がやる。聖騎士は聖女を守れ!!」
アレンの指示を受けて、護衛隊長エンリケが部下の聖騎士達に聖女を取り囲む。アレンはそれを見てから突進してくる。三体のデスナイトに向かい歩を進める。
アレンの斬撃がデスナイトの一体の両足を切断する。両足を失ったデスナイトは倒れ込む、アレンは背中に剣を突き刺し、胸にある核を貫く。核を貫かれたデスナイトを構成していた瘴気が霧散し、デスナイトは消滅する。
アレンは突き刺した剣を再び振るい、フィリシアと斬り結んでいるデスナイトの左腕を切断する。フィリシアはアレンが左腕を斬り飛ばしたと同時に左に回り込み、胴を薙いだ。
胴を切断されたデスナイトが倒れ込む間に、フィリシアは一回転しデスナイトの胸のあたりに斬撃を見舞った。フィリシアの剣はデスナイトの核を切り裂き、デスナイトの体は塵と化し消え去った。
最後のデスナイトはレミアとフィアーネが対峙している。勝負は一瞬だった。レミアがまずデスナイトと斬り結ぶとレミアの双剣がデスナイトの両腕を斬り飛ばすと、間髪入れずにフィアーネが心臓のあたりに正拳突きを放つ。フィアーネの正拳突きは容赦なくデスナイトの胸にめり込み、そのまま核を打ち砕いた。
核を打ち砕かれたデスナイトはそのまま塵となり消滅する。
まったく危なげなくデスナイト3体を消滅させた、アレン達の戦いぶりを見て、聖騎士達は声をなくしている。
あまりにも自分達の常識と違う戦闘が行われたために思考が止まってしまったのだ。
「嘘だろ…」
ようやく聖騎士の一人であるジェイク=レオスがそう呟く。その声が他の聖騎士の耳に届き他の聖騎士達も声が漏れ始める。
「見たか…。いや、半分も見えなかったんだが…」
「なんだ、あの動き…」
「デスナイトを…」
それは聖騎士だけでなく今回雇われていた、傭兵達四人も同様の言葉が口から漏れている。剣や体術を使う者達は、アレン達の動きの技量の高さに心を奪われている。
そんな一種の余韻が覚めぬ時に、新手が現れた。
その異形の者は、青白い皮膚をしている大柄な男で、皮膚には気持の悪い文様が浮き出ている。頭部には髪の毛はなく、体と同様の文様が浮き出ている。目は血走り、歯をむき出しにしている。
聖女一行は、その異形の者の醜悪さに顔をしかめる。アレン達も同様に顔をしかめるがそれは醜悪さを嫌ってからのものではない。
警戒の表情だ。
「出たか…」
アレンの口から言葉が漏れる。その声は小さく、聖女一行には届かない。
フィアーネ、レミア、フィリシアは異形の者を睨みつけそれぞれ構える。
魔人が作り出した人造兵士『エルゴア』が現れたのだ。
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