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聖女①

導入部分ですので、退屈かも知れませんが、ご了承ください。

 アレンとアディラの婚約が発表されて間もなく、アレンは立て続けにフィアーネ、レミア、フィリシアとも婚約した。

 

 ジャスベイン家がアレンの立場を考え、フィアーネとの婚約はアディラの次にしたとのことだった。


 アディラ達自身もアレンとの付き合いが長い順に婚約を結び、将来、夫人となる順番もそれに準ずるという形で落ち着いた。


 将来的には第一夫人はアディラ、第二夫人はフィアーネ、第三夫人はレミア、第四夫人はフィリシアとなる予定だった。

 なお、正式な結婚は、アディラが学園を卒業してすぐと決まり、3年後となった。


 アレンはとんとん拍子に進む自分の結婚に戸惑いながらも、これだけの女性が自分を慕ってくれているという幸せを感じている。


 アレンは婚約者達の家族それぞれに挨拶に行き、婚約の了承をもらった。フィアーネの家族は手放しで婚約を喜び、レミアの家族も他にも婚約者がいることを知り、最初はいい顔をしなかったが、レミアの幸せそうな顔と説得によりどうにか許してもらえた。

 問題はフィリシアだった。魔剣の呪いにより、人間関係が崩れたフィリシアは挨拶に行こうというアレンの申出を断った。もはや、フィリシアの家族との関係は修復不可能なところまで来ていることをこの時改めて、思い知らされたアレンはせめて報告の手紙を出すことをすすめた。手紙ならとフィリシアは書いた。だが、未だに返事が来ないと事を考えると読まずに捨てられたのかも知れない。アレンはフィリシアの心の傷を抉ったことを謝罪したが、フィリシアは『大丈夫、新しい家族がもうすぐ出来るから』といって気丈に振る舞った。

 その様子を見て、アレンは『絶対に幸せにしないとな』と決心するのだった。



----------------


「ラゴルの聖女が王都に来るというのですか?」


 アディラの学園への入学が1ヶ月程になった頃、ジュラス王に呼び出されてジュラス王の執務室でのアレンの言葉である。


 このボルメア大陸には様々な宗教がある。だが、ローエンシア王国では、国教として定められた宗教はない。だが、それは宗教が存在しない事を意味するものではない。

 宗教がまったく存在しない国家というものは存在しない。宗教とは人が自然に求める救いが形となったものと言えるからだ。人間が悩む存在である以上、それを救ってくれる存在を表現してくれる宗教がなくなることは決して無いのだ。


 ボルメア大陸においてラゴル神は、一、二位を争う勢力を持つ宗教だった。ラゴル神は太陽神であり、国によっては主神として扱われる存在だ。

 当然、ローエンシア王国にも信者は多く、その影響力を無視することは決して出来ない存在だった。ラゴル教団の本拠地はローエンシア王国の東部にあるエギレム山にある。エギレム山はボルメア大陸でもっとも高い山であり、太陽神であるラゴルを敬うために相応しいという理由で神殿が築かれたのだ。


 そして、ラゴル教団では、『聖女』と呼ばれる存在がいる。


 『聖女』は神の神託を受けて就任すると言われる。先代の聖女が結婚のため、引退することとなり新しい聖女が就任したというわけだった。ただ先代の聖女が引退したのは14年前、なかなか神託がおりなかったため、14年間、聖女の座は空席だったのだ。


 聖女は神聖な存在とされ、不浄のものを清めるのを主な役目となる。不浄とはここでは瘴気の事を意味する。死を無くすことは出来ないし、そもそもすべきではないが、負の感情が具現化した瘴気を浄化することは、アンデットの発生を何段階も下げることになり、聖女の役割は非常に大きかった。


「確か、今代の聖女は1ヶ月ほど前に就任したばかりでしたね」


 アレンが訝しがりながらもジュラス王に答える。アレンは不思議だった。聖女が就任のあいさつにジュラス王に会いに来るというのはおかしいことではなく、自然な事である。就任1ヶ月にしての挨拶というのも遅いわけでもない。

 アレンが不思議なのはなぜそれをジュラスが直々にアレンに伝えるのかということだ。別にアレンはラゴル神を信仰しているわけではないし、たとえ信仰していても一信者に一々伝える必要性がなかった。


「そう、まだ16歳の少女らしい」


 ジュラスはアレンに簡潔に答える。


「あの…陛下、なぜその聖女の話を私に?」


 アレンは気になっている箇所を聞いてみる。正直なところ、面倒な予感がするのだが、聞かないわけにはいかないだろう。何と言っても主君だし、将来の義父ちちである。


「ああ、アレンは聖女の主な仕事は瘴気の浄化である事は当然知ってるな」

「はい、勿論です。…まさか」

「その通り聖女が今回王都にくる理由は2つ。一つは私への挨拶。もう一つは国営墓地の浄化だ」

「それで私に話をというわけですか」

「そうだ、先触れで国営墓地の浄化を行いたいという申出があった」

「そうですか。でも…」


 事情はわかったが、尋ねておくことがなくなったわけではないので、アレンはジュラスに聞いてみることにする。


「その…聖女は知っているんですか。国営墓地の浄化が不可能である事を?」

「もちろん伝えた。そしてラゴル教団もその事を知っているはず」

「にも関わらず、聖女は浄化をすると?」

「ああ、不可能な理由も伝えた」

「え~と、聖女はアホなのですか?」

「そういうな、神託を受けた聖女とは言え、まだ16の子どもだ。本来ならまだ学園に通っている年頃だ」


 ジュラスの声に諦めに近いものが混ざる。しかし、国営墓地の浄化を行うつもりとは…

しかも不可能な理由を伝えても、なお行うつもりとは…。ラゴル教団に止めるものはいなかったのだろうか?


「あの…陛下、まさかとは思いますが、私を呼んだのは、聖女の浄化に付き合えという理由でしょうか?」


 アレンは、疑問系でジュラスに聞いているが、実の所、確認でしかなかった。否定して欲しいという一縷の望みがあるのは否定しないが…。


「うん、そのまさかだ。聖女はどうしても浄化を行うつもりらしい。となると、国営墓地に行くことは間違いない。聖女の護衛にはラゴル教団の聖騎士がつくことになっているが、場所が場所だ」


 確かに、聖騎士が護衛につくのなら余程の相手が出ない限り大丈夫だろう。だが、その余程の相手が出る場所なのだ。こまめにアンデットの駆除を行ってはいるが、定期的に現れるあの大物も出る可能性がある。

 

「あの陛下、聖女が浄化を行おうという予定の日がいつかわかりませんか?」

「確か…2週間後にくるはずだから、その辺りだな」

「なんとか、日にちをずらしてもらうわけにはいきませんか?」

「何故だ?」

「これから2~3週間の間に『エルゴア』が発生する可能性が高いんです」


 『エルゴア』は魔人ヴェノキスが瘴気を元に生み出した人造兵士で、その戦闘力はすさまじく、デスナイトどころか死の聖騎士デスパラディンですら一刀のもとに斬り伏せるほどである。

 二百年ほど前に魔人ヴェノキスが国営墓地でその時の墓守に討たれたときにエルゴアの核が国営墓地にばらまかれた。ほとんどの核は回収されたが、回収しきれなかった核が国営墓地には今も数百は残っているのだ。核は少しずつ瘴気を吸収しエルゴアに変貌する。不思議なことにエルゴアが発生するのは1回に一体と決まっている。

 そのサイクルは大体3ヶ月といったところだ。前回発生してから3ヶ月がちょうど2~3週間後となり聖女が浄化する日と被っているのだ。


「エルゴアが発生する時期と被るか…」


 ジュラスは事の重大さを理解している。若かりし時、アレンの父、ユーノスにくっついて墓地の見回りに参加したときに、エルゴアと出会っているのだ。ユーノスとジュラスは協力して斃したが、普段のアンデットに比べその戦闘力は桁違いであることを実感している。


「はい、出来る事なら、エルゴアが次に発生するまでは、参加は見合わせた方が…」

「確かにな…。もし聖女が殺されるような事でもあれば、ラゴル教団がうるさいな」

「どうしても、日付を動かさないと言うのなら、せめて危険である旨を伝えておくぐらいのことはした方が…」

「そうだな、事前に注意喚起をしておくことは必要だな」


 ジュラスはレンの進言を受け入れ、ラルゴ教団への注意喚起を行うことにしたが、ラルゴ教団が受け入れる可能性は低い。


 案の定、聖女は墓地の浄化を行う事を自らの使命と考えているようで、変える事は出来なかった。


 せめて、聖女が浄化を行う日までにエルゴアが発生することを祈ったが、残念なことに聖女が浄化を行う日までエルゴアは発生しなかった。



 そして、聖女が浄化を行う日を迎えたのである。 

読んでくれてありがとうございます。

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