補充Ⅰ③
今回は長くなりましたので、2話同時に投稿しました。
こちらが前回の続きですので、こちらから読んでください。
一台の馬車が森の中を進んでいる。馬車の周囲には、十四~五名程の男達がいる。男達は皆、粗末な皮鎧、それぞれ剣、斧などで武装している。その顔付きも頬に裂傷があったり、隻眼であったりと明らかに、暴力と関わりのある生き方をしてきた事がうかがえる。
だが、その男達の顔色は総じて悪い、親しい者が死んだのかと思われるほどの顔色だ。
男達のうち、数人は苦痛に顔を歪ませているところを見ると何かしらのケガを負っているようだ。
もちろん、この男達はアレン達を襲った結果、返り討ちに遭い、駒となった盗賊達だ。アレン達は男達を駒としてからまず、盗賊達のアジトに向かう事にした。アジトに残っている残りの駒候補をまとめて自分達のものにするためにだ。
男達のうちの数人は、本来歩けないレベルの重傷を負っている者がいたが、アレン達は簡単な治癒魔術を施し、なんとか動けるレベルの状態にして、男達を歩かせる。
馬車の中から、男達を確認しつつアレン達は言葉を交わしている。
「さて、アジトでの戦いにおいて重要なのは、盗賊を逃がさない事だ」
「そうね、私達の目的はあくまで駒の補充だけど、うちの家の目的は盗賊団の壊滅だものね」
「ああ、本来はジャスベイン家の仕事に俺達が割り込んだんだから、盗賊団の壊滅は最低条件だ」
「と言うことは、結果、駒の数が減ったところで構わないということ?」
フィアーネの駒の数が減るというのは、盗賊を殺すという事だ。だが、アレン達に戸惑いはない。何しろ相手は盗賊、今まで多くの者達に不幸を振りまいてきたのだ。そんな奴らに容赦をする必要性を感じる者はこの場にいない。
「ああ、極端な話、今回の駒達は吸血鬼だ。以前の駒よりもそれぞれ戦闘力は高いはず。ということは、すでに現段階で俺達の目的はほぼ達成していると言っていい」
「じゃあ、後は、話にあったルカ=エリオンというわけ?」
「ああ、強いと言ってもあいつらが基準だから大したことないかもしれんが、試すぐらいは良いだろ」
そこまで話した段階でアレンとフィアーネの会話は終わる。馬車が停まったのだ。どうやら目的地についたらしい。
「着きました」
駒の一人が遠慮がちに馬車の外からアレン達に声をかける。その声を受けてアレン達は外に出る。
外に出たアレン達の目にはちょっとした砦というべきアジトが広がっている。当然だが、このアジトには幻術で覆われており、魔術の素養の無い者にはまず見つけることは出来ない。そして、このアジトにかけられている幻術の質もかなり高度なものであり、吸血鬼が魔力を持っていても破るのは難しいレベルのものだ。
砦から何人かの男達が出てくる。格好が駒とした男達と大差がないため、仲間だろうなという事は容易に察しがついた。
アレン達からすればはっきりいって相手にするのも馬鹿らしい程度の男達だが、ここで、こいつらを攻撃するわけにはいかない。何しろ、アレン達がその気になれば、文字通り草を刈るようにこの盗賊団を壊滅させることは出来る。だが、それでは、何人か取り逃す可能性があるのだ。
そこでアレン達は同等のレベルの新しく手に入った駒達と戦わせることにした。何しろ、あっちにはこの盗賊団の頭領のカースヴァンパイアがいる。一応、ボスなのだからそれなりに強いだろう。勝てると思っている以上、逃げ出す可能性はアレン達がそのまま戦うよりも低くなると考えたのだ。
「おう、お疲れ、そいつらが貴族令嬢ご一行様か?」
出迎えた男の一人がアレン達を見て嫌らしい嗤いを浮かべる。反射的にアレンは首をへし折ってやろうかと思ったが、自分から言い出したことなので、ここでは我慢する。
「へへ、いい女じゃねえか。お前らまだ味見してねえのか?」
別の男が、フィアーネ達三人を見て、これまた不愉快な嗤いを向けてくる。アレンはまたしてもこの男の首をへし折りたい欲求を必死に抑える。ちなみにフィアーネ達もこの男の下品さに気分を害したのだろう。ほんの一瞬だけ、殺気がもれた。あまりにも瞬間的な殺気だったために気付いたのはアレンぐらいのものだったが、確かに殺気がはなたれたのは間違いない。
「おい、ガキぃ、この女の中でてめぇの女はどれだ?」
また別の男が、ニヤニヤと嫌らしい表情を浮かべアレンに言う。
「何のことです?」
アレンは怯えたふりをして男に返答する。その返答を聞き、男は口を歪め、アレンを嘲笑う。
「ああ、てめぇの女をてめぇの前で犯してやろうと思ってよぉ。お前の女はどいつだ?」
そういえば、この手の事をどいつもこいつも言うんだな。確か、ネシュアとかもそんな事を言ってた気がする。どうして、こういう類のゲスの思考は似かよるのだろう?とアレンは不思議に思う。
「この三人は全員俺の恋人だ」
アレンの声はさっきの怯えたものではない。想像以上の不愉快な男達の行動に、普段は忍耐強いアレンもどうやら忍耐力が尽きたらしい。何しろ、フィアーネ、レミア、フィリシアは今やアレンの恋人だ。その大事な恋人を自分の前で犯す?アレンはそんなことを言われて、見逃してやるような真似は決してしない。
「へぇ~全員がてめ…ぎゃあ!!」
男は叫び声を上げて地面に這いつくばっている。アレンが向こう脛に蹴りを見舞ったのだ。アレンの蹴りは男の足を蹴り砕き、反対側から骨が突きでている。
アレンは蹲る男のもう片方の足をふみ砕く。骨の砕ける音が周囲に響き渡る。その数瞬後、両足を踏み砕かれた男の絶叫が響き渡る。
「俺の大事な女性を侮辱とは良い度胸だな」
アレンの声にあるのは怒りだけだった。こんな生物に自分の大切なフィアーネ、レミア、フィリシアを侮辱されたのだ。もはや、許すことは出来ない。
アレンの声を受けて、両足を砕かれた男は、怒りに満ちた目でアレンを睨みつける。アレンは睨みつける男の顔面に容赦なく蹴りを見舞った。
顔面を蹴り砕かれた男は数メートルの距離を飛び動かなくなった。かろうじて生きていはいるようだが、何の慰めにもなってないことは明らかだった。
「フィアーネ、レミア、フィリシア、すまん!!こんな生物たちにお前達を侮辱されるのはどうしても我慢できなかった」
アレンは大きく息を吐き出し、三人に謝罪する。自分が立てた段取りだったが自分自身で壊したのだ。あまりにも不愉快な生物だったためについやってしまったことをアレンは恥じていた。
一方でフィアーネ達はアレンが怒ってくれた事が正直、嬉しかったのだ。アレンはこと戦いにおいては合理的に行動する。そのため自分への侮辱などはさらりと受け流すし、状況によっては怒ったふりをする。フィアーネ、レミア、フィリシアへの侮辱も利益があるならその場では耐える。そして、後で報いをくれてやっていたのだが、今回はそうしなかったのだ。
アレンの中で三人は合理的に考えるよりも感情を優先させるべき相手となったことが明らかになり、三人は嬉しくなったのだ。
「アレンが、私達を優先したわね」
「アレンが私達のために怒ってる」
「アレンさんが…ここまで怒ってくれるなんて」
三人の顔には喜色が浮かんでいる。惚れた男が自分のために怒っているのだ。三人はそれが嬉しかったのだ。
「みんな、こうなったら遠慮する必要はない。作戦変更!!一気に片付ける!!」
アレンの声に三人が嬉しそうに答える。
「うん♪」
「わかったわ♪」
「がんばります!!見ていてくださいアレンさん!!」
盗賊団は地獄への道を急激に転がり落ちていくことになった。