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告白③

今回も戦闘はなしです。

 急展開のために忘れていたが、フィアーネに付きまとうフォルドノイスとかいう男にフィアーネに近づくのを止めさせなくてはならないのだった。


 ジェラルが使用人に連れてくるように伝える。主人の命令を受けた使用人は、慌てて出て行く。フォルドノイスを連れてくるのだろう。


 それからしばらくして、一人の男が入室してきた。ベルノス=ギーラ=フォルドノイスという青年貴族は、20代前半といった容貌をしている。黒髪に、深い蒼の瞳を持つこの青年貴族は、かなりの美丈夫であった。


 ベルノスは、フィアーネの姿を見つけると顔を破顔させる。同時に舐め回すようにフィアーネの全身を見ている。特に胸の辺りに視線が止まった時間が長く、アレンはその事に気付きものすごく不快な気持ちになった。

 どうやらアレンは結構、嫉妬深い性格だったらしい。今更ながらその事実に気付きアレンは密かに驚いていた。


「おお、フィアーネ嬢、相変わらず美しい。あなたの美しさの前では美の女神リセリアでさえ霞んでしまうでしょう」


 のっけからフィアーネに気障なセリフを発する。こういうセリフが似合う男は確実にいるのは事実だ。このベルノスという男も似合う部類に入るのだろう。だが、それはあくまで、その気障なセリフを吐かれた者が、吐いた者に対し好意を持っていなければ何の意味もなさないのだ。

 好意を持っていない相手から囁かれても苦痛なだけだ。


 フィアーネはベルノスという男に好意など微塵も持っていなかったので、ひたすら迷惑だった。


「フォルドノイス様、何度も申しておりますが、私には思い人がおりますの。ですから、あなたの気持ちを受け入れることはありません」


 フィアーネの拒絶は残念だが通じなかった。いつものフィアーネなら拳を振るうのだろうが、一応相手は貴族なので、拳を振るえば実家に迷惑がかかると思い手を出さなかったのだ。

 

「おお、フィアーネ嬢、あなたに相応しいのはこの世界に私をおいて存在しません」


 ベルノスはまるで役者のように派手なリアクションをとっている。


 アレンはこの様子を見て、『うわぁ~』と見るのが苦痛だった。これは尋問の際に拷問として採用されるべき気持ち悪さだと思う。今度、軍務卿に上申してみようかと本気で思ったぐらいである。


「申し訳ないのですが、私にはこのアレンという恋人がおりますの」


 フィアーネがアレンの腕に体を密着させる。柔らかなフィアーネの胸の感触と暖かな体温がアレンの肘から脳に光の速さで伝わる。


 正直幸せだった。


 その様子を見て、ベルノスはフィアーネにも困ったものだという顔をして、肩をすくめるというジェスチャーをする。


「はは、フィアーネ嬢は私の気を引こうとして、そんな冴えない男を使う必要なんてないんですよ。なぜなら、私の心はとっくにあなたに捧げているんですから」


 冴えない男というフレーズに反応したのはアレンの恋人となった三人だ。フィアーネだけでなくレミアもフィリシアもベルノスを見る目の温度が急降下している。


「私の大事なヒトを冴えないとは…」

「私の前でアレンを侮辱とは…いい度胸ね」

「アレンさんを…ここまで許せない気持ちになるとは思いませんでした」


 三人の美少女から怒気というよりも殺気が発せられる。アレンやジャスベイン家の面々はそれに気付いたがベルノスは気付いていないようだ。どうやらこの人物は結構鈍いらしい。本能的に荒事になるかも知れないと思い、避けるためにアレンがベルノスに話しかける。


「え~と、フォルドノイス殿、とりあえず言っておくがフィアーネにその気がない以上、あなたがどんなに言い寄っても無駄だぞ」


 アレンがはっきりと現実を突きつける。


「なんだ、貴様は!?」


 ベルノスの目に敵意が込められる。だが、アレンはその敵意を受けても平然と事実を告げていく。


「さっきフィアーネが言ったろ。俺はフィアーネの恋人だ」


 アレンは事実を言っているに過ぎないのだが、ベルノスはそれを認めない。自分の信じたいものだけを信じるのはどうやら人間だけでなく、吸血鬼もそうらしい。おそらく魔族もそうだろうから、ひょっとして知的生命体に共通したものであるのかも知れない。


「ははは、君のような冴えない男がフィアーネ嬢に釣り合うとでも?」


 露骨に蔑んだ言い方であるが、アレンは冷静だ。


「釣り合う、釣り合わないはあんたが決めることじゃないさ。俺は事実をいっているに過ぎない。信じようが信じまいが勝手にするんだな」


 アレンの冷静さを、当然だがベルノスは不快なものと捉える。声に不快なものが混ざり始める。


「貴様の爵位はなんだ?見たところ人間のようだが、人間如きがトゥルーヴァンパイアのジャスベイン家の令嬢と釣り合うとでも思っているのか?」

「俺の名前はアレンティス=アインベルクだ。ローエンシア王国から男爵に叙せられている」

「男爵だと?たかだか男爵如きが、ジャスベイン家と釣り合うとでも思っているのか?愚かにも程がある」


 ベルノスの顔が屈辱と憤怒のために烈しく歪む。


「さっきも言ったろ。釣り合う釣り合わないはお前が決めることじゃないさ」


 アレンはどこまでも冷静に声を紡いでいる。らちがあかないとベルノスはジェラルに問いかける。


「ジャスベイン公は、自分の令嬢が男爵ごとき、しかも人間に与えるつもりなのですか?

そんな事をジャスベイン家は許すのですか?」

 

 ベルノスの言葉にジェラルはきっぱりと答えた。


「もちろん、フィアーネとアレン君の仲は認めるし、時が来れば当然、結婚も許すつもりだ。というよりも家族一同、少しでも早くその日が来て欲しいと思っている」

「な…」


 ジェラルの言葉にベルノスは言葉を失う。ようやく一言絞り出したぐらいだ。そこに容赦ないアレンの言葉が降り注ぐ。


「わかったか?残念だがフィアーネの結婚相手は俺と決まっている。諦めろ」

「ふざけるな!! どうせ嘘なんだろうが!!」

「嘘だと?」

「そうだ、証拠を見せろ!!証拠を!!」

「何の証拠だ?」


 アレンは頭を押さえそうになるがかろうじて堪える。


「勿論、おまえがフィアーネ嬢の恋人であるという証拠だ?」

「断る」


 アレンの返答はにべもないという表現そのものだ。


「やはり嘘なんだな!!」

「違う。考えても見ろ、もし俺が一億歩譲って嘘をついていたとする。だが何のためにそんな嘘をつくんだ?」

「な…」

「お前対策として嘘の恋人役を演じていたとしても、なんでそんな対策を打つ必要があるんだ?」


 アレンの言葉から導き出される答えはたった一つだ。そうフィアーネが自分を嫌っているという答えにどうしてもたどり着いてしまう。だが、ベルノスはそんなことを認めるわけにはいかない。

 人間如きにジャスベイン家の令嬢を奪われるわけにはいかないのだ。


「わかるだろ?フィアーネがお前を嫌っているというのはどうあっても導き出されるだろう?それともそれがわからないほどのアホなのか?」

「黙れ!!俺とフィアーネ嬢をかけて勝負しろ!!」


 もはや、ベルノスは屈辱のために冷静な判断力を失っている。言ってはいけない事を言ったことにベルノスは気付いていない。


「断る」


 アレンの簡潔な拒絶はベルノスにさらなる怒りを与える。その怒りが発せられる前にさらにアレンの口から痛めつける言葉が紡ぎ出される。


「大体、勝負なんてしても無駄だぞ。すでに俺とフィアーネは恋人同士、しかも家族に認められている仲だ。ここまで来ている以上、お前が俺に勝っても、フィアーネがお前に好意を持つ事は決して無い」


「う…」


 アレンの言葉にベルノスは何も反論できない。しかもとどめの言葉がアレンの口から告げられる。


「それ以前に、お前気付いているのか?」

「え?」

「お前がフィアーネを賭の対象にしたことを誰の前でしたのか」

「え?」

「俺なら家族を賭の対象とされるのはものすごく不快だと思うぞ」


 ベルノスはアレンの言葉に今更ながらに気付いた。ジャスベイン家の当主の前で愛娘を賭の対象としたことを…。


 そして公爵夫妻、侯爵家嫡男の冷たい目を…。


 暴言は単にフィアーネの名誉を傷つけただけでなく、ジャスベイン家の名誉を傷つけた事にベルノスは今更ながら気付いたのだ。


「い…いや、これはですね。公爵閣下…」


 失敗を悟ったベルノスはなんとか挽回しようと弁解をしようとする。だが、公爵一家の冷たい目がそれを許さない。


 最後の死体をむち打つような言葉がアレンの口から発せられる。


「この段階で、まずお前が謝罪すべきはフィアーネじゃないのか?しかし、お前は自分の保身のためにまず公爵閣下に弁明しようとした」

「う…」

「なぁ、お前それで本当にフィアーネを愛していると言えるのか?」

「く…」

「本当にフィアーネに相応しいのが誰かわかるよな? そして、少なくともお前でないことは理解できるだろう?」

「…」

「わかったら、このまま部屋を出て、まっすぐ家に帰れ」


 アレンの死体にむち打つような言葉が紡ぎ出される。


 なんとか反論しようとしたが、公爵一家の冷たすぎる目に何も言えなくなり、青い顔をしながらベルノスは退室する。その際に誰も声をかけない事実がベルノスの心に突き刺さる。


「アレン君、見事だったよ」


 ジュスティスがアレンのベルノスのあしらい方をみて感心した声を出す。続いてジェラル、フィオーナがアレンに声をかける。


「アレン君、君ならフィアーネを守ってくれるということを確信したよ」

「まったく頼もしい義理の息子が出来たわね」


 そんなアレンに恋人となったレミアが疑問をアレンにつげる。


「でもアレン、どうしてわざわざ、あんな風にあの貴族を挑発したの?」


 レミアの言葉にフィリシアも頷く。


「ああ、今回エジンベートに来た理由は、駒の補充だったよな」

「うん」

「もし、あいつが短絡的な男だったら、俺にちょっかいかけてくると思ったんだ」

「…?」

「今現在、ローエンシアで俺にちょっかいを出す貴族はアルフィスが押さえているからしばらくはいないだろ」


 ここまで言って、レミアもフィリシアも納得したのか頷く。


 そう、アレンは先程のベルノスを駒の供給源に出来ればと思ったのだ。つまり、あのベルノスがアレンに直接向かってくるならそれも良し、暗殺者などを雇って襲ってくればそいつらを駒として手に入れる事が出来るというわけである。

 だからこそ、アレンはベルノスに必要以上の挑発を行ったのだ。少しでも怒りが暴発するように…。


「なるほどね」


 レミアの声には嫌悪感は一切無い。敵に回るなら斃すまでという感覚だ。


「さて、思わぬ珍客のために出発が遅くなったが、とりあえず本来の目的である駒確保に出発するか」


 アレンの言葉にフィアーネ達三人は頷く。関係が大きく変わったのは当事者達にとって予想外であったが、その変化を歓迎していない者はこの応接間にはいない。



 アレンは今更ながら、急展開に苦笑するのだった。

一番、この急展開に苦笑しているのは作者だったりします。


賛否両論あると思いますが、タグの「ご都合主義」があることを思い出していただき、のみこんでください

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