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告白①

 フィアーネの両親をやっと出すことが出来ました

 エジンベート王国のジャスベイン公爵邸に、三人の男女が転移してきた。勿論、その男女とは、アレン、レミア、フィリシアの三人である。


 アレン達が魔剣士を名乗る三体の魔族を斃した翌日のことだ。


 アレンの準備は何の事はない墓地見回りの人員の確保だけだった。その人員の確保もロムとキャサリンに頼んだだけのことである。この初老の夫婦の仕事はアインベルク邸におけるアレンの世話なのだが、アレンの頼みを断ることはしない二人は快く引き受けた。


 本来、アレンは仕事における各人の領分を侵すことはしない。ロム、キャサリンの仕事の領分はアインベルク邸に関する事である。墓地管理は彼らの仕事ではないのだ。だが、今回は非常事態であるとのことで、二人に頼んだというわけだった。


 なにしろ、アレン達は昨夜の魔剣士との戦いで、魔族側から確実に要注意人物として記録されたことを確信していたのだ。

 そのため、出来るだけ早く使える駒を集める必要にかられたわけだった。


 アレン達が転移してしばらくするとジャスベイン家からフィアーネが飛び出してくる。


「みんな、いらっしゃい♪」


 フィアーネが素敵な笑顔でアレン達を迎える。


「ああ、フィアーネしばらくの間よろしく」

「お邪魔します」

「お世話になります」


 三人がフィアーネに挨拶をする。


「うん、お父様、お母様、お兄様にはすでに話を通してあるから大丈夫よ」

「そうか、じゃあフィアーネのご家族にご挨拶をしておかないとな」

「うん、案内するわね♪」


 フィアーネは、アレン達を先導するように歩き出す。そこに三人も続いた。


「ねぇ、アレンはフィアーネのご両親にあったことあるの?」

「ああ、何度かお会いしたことあるよ」

「へぇ~どんな方達? 怖い?」

「う~ん…そうだな…」


 アレンは、フィアーネの両親の顔を思い浮かべる。フィアーネの父親である、ジェラル=ローグ=ジャスベインは、フィアーネと同じく銀髪と紅い瞳を持つ美丈夫だった。だが、その美しさよりも特筆すべきはその能力の異常な高さである。

 王国宰相として日々辣腕を振るうジェラルであったが、その逸話には襲ってきた盗賊数十人を返り討ちにしたり、若かりし時に敵陣に単騎で突入し、敵大将を討ち取ったりと戦闘能力の高さを示すものも数多い、領内経営も善政をしき、領民達の評判もすこぶる良かった。

 またフィアーネの母親のフィオーナ=シェラ=ジャスベインも美貌の公爵夫人としてエジンベート王国の社交界において『エジンベートの宝石』と称えられている。


 そんなフィアーネの両親を思い浮かべて、アレンはレミアの質問に返答する。


「色々とぶっとんだ人達だが、基本的には常識人のふりはできるし、素晴らしい人達だと思う」

「…何か不安になるんだけど」

「まぁフィアーネの家族だからな」

「少なくとも悪人じゃないわけね」

「ああ、悪人だけは絶対ない」


 アレンとレミアの会話を聞いたフィアーネは口をとがらせてアレンに不満をいう。


「ちょっとアレン、私のお父様とお母様は別にぶっとんじゃないわよ」

「いや…お前のぶっとんだところは確実にご両親から受け継いだものだと思う」

「何言ってるのよ。私も別にぶっとんじゃないわよ」

「…」


 フィアーネの抗議をサラリとアレンは受け流した。


 そんな会話をしながらアレン達はジャスベイン邸にある応接間に通される。ほどなくしてジャスベイン公爵であるジェラルとその妻フィオーナ、息子のジュスティスが入ってくる。


 応接間に揃った見目麗しい公爵一家が勢揃いしたためだろうか、この応接間の華やかさが一~二段階あがったようにアレンには思われる。それだけこの公爵一家の見た目の華やかさは群を抜いている。


 まぁ、レミアもフィリシアも美しさで言えば決して劣るものではないのだが、公爵一家とは、方向性が異なっているのだ。


 アレンがあいさつをするよりも早く、ジェラルが口を開く。


「アレン君、よく来てくれたね」


 気軽に声をかける様子はエジンベート王国の重鎮というよりも気の良い親戚のおじさんといった感じだ。アレン達を見る目に好意の感情が含まれているのをひしひしと感じる。


「それから、そちらのお嬢さん方は初めましてだね。私はフィアーネの父であるジェラルだ。よろしく頼むよ」


 ジェラルの挨拶ににレミアとフィリシアも慌てて挨拶を返す。


「初めまして公爵閣下、レミア=ワールタインと申します」

「は…初めまして公爵閣下、フィリシア=メルネスと申します」


 礼儀作法の面から見れば多少の問題点があったが、そんな礼儀作法などよりもジェラルは二人の誠意のこもった挨拶がとても魅力的に思える。『挨拶は心だ』と考えるジェラルは表面上の美しさよりも挨拶から感じられる心情を大切に思っているのだ。


「ははは、そんなに緊張しないでくれ。君たちはフィアーネの大事な友人であり、ライバルであり、そしてなによりもうすぐ家族になる間柄じゃないか」


 ジェラルの言葉にレミアとフィリシアはにこりと笑顔を見せ頷く。公爵の言葉に納得したようだ。

 アレンは、その様子を見て、周囲に目を配る。フィオーナ、ジュスティスも当たり前のように微笑んでいる。当たり前だがフィアーネもだ。


(なんで、誰も『家族になる』という言葉を疑問に思わないどころか、当たり前のように受け入れてるんだ? 俺がおかしいのか? 俺って常識がないのか? )


 アレンは自分がこの場において自分の感覚こそが狂ってるのだろうかと半ば本気で心配になってきた。


「そうね~こんな可愛いお嬢さん達と家族になれるなんて嬉しいわ♪」


 フィオーナの言葉にも喜びが溢れている。


「確かに母さんの言うとおりだね」


 ジュスティスも同意している。まったく疑問に思ってないようだ。


「そうそう、レミア嬢、フィリシア嬢、フィアーネの着ているような格好は好きかね?」

「「え?」」


 ジェラルのレミア、フィリシアへの問いかけに、アレンは始まったと思った。


 実はジェラルは、服飾が趣味のおっさんなのだ。元々はただの着道楽だったのだが、いつの間にか自分で作り始め、そのうちに一流の職人と比べても遜色のない腕前になっていた。特に女性の服を作るのが大好きで、気に入った女性の服を作る事に無情の喜びを感じてしまう。

 気に入った女性といってもそこに恋愛感情などはまったくなく、ただ自分の作った服で綺麗に輝かせたいというものだった。


 だが、ジェラルの容姿が色々とやっかいごともたらしている。服を贈られた女性はほとんどジェラルの好意を恋愛感情と勘違いしてしまう。そのため、結構な数の修羅場がジャスベイン家にはもたらされていた。


「そうね、旦那様のつくった服に私のアクセサリーを加えれば、もはやその美しさは天井知らずよ!!」


 フィオーナがジェラルの言葉に便乗して自分の欲望を解放する。突然の宣言にレミアとフィリシアはさらに固まる。


 フィオーナの趣味は、アクセサリー製作だったのだ。アクセサリーの収集が趣味であったフィオーナもジェラル同様に、自分でも作ってみたいという欲求がいつのまにか生じ、研鑽を積んでいるうちにこれまたいつの間にか一流の職人に匹敵する実力になってしまった。

 フィオーナの作るアクセサリーは決して華美なものとは言えない。あくまで女性の魅力を引き立てるためのものであるという考えからだ。

 そのため、フィオーナの作るアクセサリーはその人を見て作るのが基本だ。そして、その女性の美しさを引き立てたいと思えば、とにかく作ってしまうのだ。利益度外視でだ。


 この公爵夫婦に服とアクセサリーを作ってもらう事はエジンベート王国で一種のステータスになっているのだ。だが、本人達の感覚では単純にお裾分けしている感覚なので、渡したときに、感涙でむせび泣く姿を見てしまうとちょっと引いている。


「フィオーナはどのようなアクセサリーにするつもりだ? それによってどんな服装に整えるか決まるんだからな」

「旦那様は何言ってるんです。やはり、レミア嬢、フィリシア嬢の美しさを引き立てる大まかなコンセプトは服によると思いませんか? まずは旦那様が方向性をお決めになさるべきです」

「だが、この二人は素晴らしいぞ。フィオーナ、これほどの美しさをもっと引き立てたいと思うのが職人の性だろう」

「確かにこれほどの逸材を磨けるのは職人として最上の喜びね」


 あんた方は職人でなく公爵でしょうが!! とアレンが心の中で突っ込みを入れる。レミアとフィリシアはやや呆然とその様子を見ていた。


「あ…あの…」


 おずおずとアレンが美貌の公爵とその夫人に声をかける。


「おお、アレン君、安心したまえ」

「へ?」

「当たり前だが、エスコートする君とのバランスを乱すようなものを作るつもりはまったくない」

「いや…そうではなくてですね」

「レミア嬢、フィリシア嬢は自分をどのように演出したいかね? アレン君にエスコートされるとして、殿方を引き立てる装いを望むかね? 殿方に引き立てて欲しいかね?」

「え?私はアレンに引き立てて欲しいかな」

「私は引き立てる方ですかね」

「ふむ…まったく真逆か…これは腕がなるな」

「そうね、どちらの要望を取り入れ、かつ、バランスを崩さない…難題だわ」


 この夫婦は装いの事を考え始めると、際限なく突き進んでくれる。しかも、今回はレミアとフィリシアがつい答えてしまい。それが職人としての本能を刺激するような内容だったのだろう。やけに闘志を燃やしている。


 両親の様子を見ていたジュスティスはため息をつく。なんでこの二人は装いのことになると他の事は後回しになるのだろうかという思いだ。趣味が絡まなければ間違いなくこの国でもトップレベルの能力なのに残念でならなかった。


 そのジュスティスの様子を見て、アレンは『あんたも同じだよ!! あんたはダンジョンが絡めば同じ行動してるでしょうが!! 』という思いだった。なんだかんだ言って、似たもの親子だったわけだ。


「父さん、母さん、今はコーディネートの話は後回しにして、アレン君達の目的は他にあるんだから」


 ダンジョンが絡まなければジュスティスは非常に常識人だったのだ。そのため、アレン達の目的をすすめるために話を本筋に戻す必要があったのだ。


「ああ、すまんな。だが、別にアレン君達が出るまでもないだろう。おいジュスティス、お前ちょっと行ってきて盗賊団捕まえてこい」


 ジェラルはジュスティスに告げる。まるでお使いに行ってこいというような気軽さだ。そのお使いに対して、ジュスティスもあっさりとした返答をする。


「わかったよ。というわけでアレン君達はちょっと待ってて、すぐ捕まえてくるから」


 すぐに盗賊団を捕らえに出ようとするジュスティスをあわててアレンが止める。


「待ってください、ジュスティスさん。この盗賊団は私達が捕らえますので、ここは譲ってください」

「気にしなくて良いんだよ。あの程度の小物達、私一人で十分なんだよ」

「確かにそうなんでしょうけど、この盗賊団を捕まえるのは、面接も兼ねているんです」

「面接?」

「はい、フィアーネから聞いたと思いますが、魔族との戦いの駒とするのが目的なんですよ、ですから私達が自ら出向くというのが一番都合が良いんです」

「そうか…。そういうことならしょうがないな」


 アレンの言葉にジュスティスは納得したようだった。


「父さん、母さん、そういう事だから、アレン君達にまかせようと思うんだけど」


 ジュスティスの言葉に、ジェラルもフィオーナも不満そうだが、渋々ながら納得したようだった。


 だが、すぐにでも向かうつもりだったのだが、せめて採寸だけでも取らせてくれというジェラルの要望を無下には出来ず、採寸を取ることになり、これが意外と時間が掛かってしまったのだ。


 

 採寸が終わり、盗賊の情報とおびき出す方法をもらって、いよいよ出発となったときに来客を告げる知らせがジェラルのもとに届けられる。その来客者の名前を聞き、ジェラルはため息をついた。


 誰だろうと思ったが、当然、アレンには聞けるはずがなかったので、お礼を言って出て行こうとしたのだが、ジェラルがアレン達を呼び止める。


「アレン君、出発はちょっと待ってくれないか?」


 アレンが不思議に思い理由を尋ねると、ジェラルは来客者の名前と目的を告げた。



「来客者の名前はベルノス=ギーラ=フォルドノイス、侯爵家の次男で、フィアーネの求婚者だ」

読んでくれてありがとうございます。

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