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口調

 案内されたのは王宮内のサロンであった。王族の私的な空間というべきものであり、王族と親しい者であれば入ることも可能である。


 そんなサロンの席に、アレンとアディラは対面して座る。メイドたちが紅茶と、焼きたてのスコーンが用意される。


「さてアレン様、今回お茶にお誘いしたのには、深い理由があります!!」


 高らかにアディラが宣言する。


「なんでしょう、王女殿下?」


 剣幕にちょっと押されながらも、努めて平静にアレンはアディラに答えた。


「それです!!」

「どれです?」

「も~~~~!!さっきも言いました!!その他人行儀な口調です!!!」


 アディラはそう言ったが、実際のところ、アレンの王族に対する口調としてはまったく間違っていない。


「そうおっしゃられましても、臣下の身で王族の方に対する礼を失するわけにはまいりません」


 まったくの正論であるが、アディラはまったく納得しない。


「また、そう言ってはぐらかす!!アレン様はずるいです!!意地悪です!!私がそんな他人行儀なアレン様を望んでいないことが分かっていて、そんな事をいうんですから!!」

「しかしですね。あんまり王族の方々になれなれしい口をきくと、いろいろな方にお叱りを受けるのですよ」


(そんな事になったら、面倒くさいしな)


「そうかもしれませんが、私はアレン様に他人行儀に話されるのが嫌なんです!!」


(アディラには悪いけど面倒くさい事に巻き込まれるのは本当に嫌なんだよ)


 アディラは、アレンがアインベルク家を継いでからも変わらないと信じていたのに、家を継いでからのアレンは、アディラに対して急に他人行儀になったのだ。

 アレンにしてみれば爵位を継いだ以上、公人となったのだから『公私の別』をきちんとすべきという考えからの対応であったのだ。ついでにいえば面倒を避けるためでもある。

 もちろん、アディラとて王女である『公私の別』をつけるべきというのは頭では分かっている。でも感情が納得しない。どうしても寂しさを感じてしまうのだ。


「王女殿下、『公私の別』を付けるのは当たり前でございます。それ以上は単なる我が侭となります」


 アレンの言葉は、徹底して正論であった。事実アレンは、この正論で通そうと思っていたのだ。

 だが、アディラはアレンの『公私の別』という言葉を聞いた時に『まってました』という表情を見せる。

 アレンはアディラの表情に、『何か失敗をしたのか?』という不安が生まれる。今までの会話を見ても、失敗はしていない、完全に正論を言っていたつもりだ。


(……しまった!!そうか!!)


 アレンは自らの失敗を悟った。訂正するため口を開こうとした時に、アディラが話し出す。


「アレン様は『公私の別』を付けるとおっしゃいましたよね?」

「……はい」


 失敗を悟ったアレンには、もはやこの流れを止めることは不可能であることを悟っていた。


「とういことは、公私の『公』である時と『私』の時とでは態度を変えるということですよね?」

「……はい」

「でしたら、『私』の場では私をアディラと呼ぶということですよね?」

「いや……そういうわけでは……」


 ギロッとアディラはアレンを睨む。愛くるしいアディラとしては珍しい目である。なんだかんだ言っても王族である。アレンはその目に何も言えなくなった。


「……はい。私的な場ではアディラと呼ばせていただきます」

「わかっていただき、嬉しいですわ、アレン様」

「はい……」

「ところで……」


 アディラはニッコリと笑い告げた。


「ここは、私的な場ですよ?アレンお兄ちゃん?」

「く……わかった。非公式な場ではアディラと呼ぶことにするよ」

「えへへ♪」


 こうして、アディラは意外と早く再びアディラとアレンに呼ばせることに成功した。


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