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騎士Ⅱ③

近衛騎士VS魔族・・・


 どこかも知れない草原で、八つの視線が交錯する。


 グレゲンとガリオンは近衛騎士達六人に嫌らしい嗤いを向ける。ものすごく不愉快な笑顔だ。


 一方、六人の近衛騎士達の顔には緊張があった。相手は魔族、しかも貴族の一員だ。強大な戦闘力を持っていることは間違いないだろう。


 エルゲルとケビンは四人の後輩が逃げる時間を稼ぐつもりでいたが、四人の後輩達は戦うつもりだった。というよりもここでこの魔族の主従を斃し、宝珠オーブを手に入れるつもりだったのだ。


「お前達は・・・」


 エルゲルが四人に逃亡を命令しようとしたときに、四人の後輩達は動く。エルゲルとケビンの横に移動し戦闘を開始する。


 ウォルターとヴォルグが投石器でグレゲンとガリオンを狙い撃ちする。グレゲンとガリオンはこの攻撃をあざ笑う。


 この程度の投石などでダメージを与えることは決して出来ないというグレゲンの意識が近衛騎士達の無駄な抵抗と映ったのだ。


 だが、ウォルターとヴォルグが投擲した石はただの石ではない。魔術が込められた魔石だった。

 

 込められた魔術は【煙幕スモーク】だ。言葉通り、煙幕を発生させ敵の視界を潰すのが目的だったのだ。しかもこの【煙幕スモーク】は魔術による視力強化を阻害することが出来たのだ。人間には必要の無い効果付与だったが、四人は魔石に込めた術には効果付与を怠ることはなかった。


 グレゲンとガリオンの周囲に発動した【煙幕スモーク】により発生した煙が展開する。これで魔族といえども視界はかなり狭まれたはずだ。

 当然だが、煙幕により遮られたのは視界だけであり、聴力を遮ることは出来ない。


 そこにヴィアンカがやや上ずった声を上げる。


「今です!!逃げましょうみなさん!!」


 ヴィアンカの動揺しきった声が響き渡る。だが、誰も動かない。声を上げたヴィアンカ『自身』もだ。

 それどころかヴィアンカ自身が投擲用のナイフを構えている。


 エルゲルもケビンも先制攻撃を行う四人の後輩騎士をやや呆然と眺めている。


(な・・・こいつら・・・まったく臆するところがない)

(アーグバーンの怯えた声は演技・・・なのか)


 ヴィアンカの声を聞いたグレゲンとガリオンは警戒することなく煙幕の外へと走り出てくる。逃亡しようとしている近衛騎士達を追い詰め、なぶり殺してやろうと思ったのだろう。


 警戒無く走り出た主従に四人がそれぞれ投擲武器で攻撃する。


 四人が狙ったのはガリオンだ。こういう場合には、まず弱い者から戦闘力を奪うべきとの教えからの行動だ。

 ウォルターとヴォルグの投石器により放たれた石は、ガリオンの口、額に命中する。ガリオンの顔面にありえない痛みが襲う。額に命中した石は皮膚を裂き,大量の血を流させる。口に命中した石はガリオンの歯を砕く。

 そして、ヴィアンカがウォルターとヴォルグの数瞬後に投擲した2本のナイフが右足と左肩に刺さる。


「ぎゃあああああああ」


 耳を劈くような悲鳴が辺りに響き渡る。悲鳴を上げたのはもちろんガリオンだ。だが、そのガリオンの悲鳴は長く続かない。口を開けて放つ絶叫はロバートの放った手斧が頭に命中したからだ。


 頭に手斧の一撃を食らったガリオンは二、三度ピクピクと痙攣し、やがて動かなくなった。


 ガリオンの死はグレゲンに衝撃を与えた。


 人間如きに魔族がやられるはずがないという過信が崩壊したからだ。それが怒りに変わるのに、そう時間はかからない。


「おのれ!!人間如きがぁぁぁぁぁ!!」


 グレゲンの怒りの声を聞いても近衛騎士達に恐れは一切無い。


 それどころか・・・


「面白いように引っかかってくれるな」

「そう吠えるなよ。引っかかったお前らがマヌケなだけだろ」

「こんな簡単にひっかかるなんて、魔族って偉そうに言ってるけど・・・ねぇ」

「次はあなたですよ?あなたの従僕はマヌケですから、地獄への道を間違えるでしょうから早く追った方が良いですよ?でも、あなたも同じくらいマヌケですから、二人して道を間違えるんでしょうね」


 と逆にグレゲンを挑発する始末だ。


 人間如きに侮られるのはグレゲンにとってとうてい許すことの出来ないものだった。なぶり殺してくれるという思いがグレゲンの嗜虐心を増幅させる。そこにヴォルグの嘲る声がグレゲンに浴びせられた。


「おい、少しの間、俺が相手してやる。一騎打ちだ」

「一騎打ちだと!?」

「ああ、怖いのだったらさっさと尻尾をまいて逃げればどうだ?せっかくそんな尻尾がついてるんだから使わなきゃ損だぞ?」

「人間如きが!!図に乗りおって!!」

「つまり受けるということだな。みんなも手を出すなよ」

「分かってる」

「気を付けろよ」

「負けないでね」


 ヴォルグに対して三人は声をかける。三人の激励にヴォルグはニヤリと嗤って応える。

そして、ヴォルグはエルゲルとケビンに振り向き声をかける。


「隊長、副隊長、許していただけますか?」


 許可を求められたエルゲルは迷う。いくらなんでも魔族と一騎打ちなど自殺と同義だ。


 だが、ヴォルグの言葉には悲壮感など微塵も感じられない。自分の技量に絶対の自信を持っているのだろうか?


 もちろん、ヴォルグは自分が強いなどとはまったく思っていなかった。何しろ、アレンやロムといった強者に触れれば、自分が強いなどいう自惚れは持ちようがなかった。あの二人に比べれば自分の力量などその辺の虫に等しいとすら思っている。

 普通だったら、劣等感に支配されてしまうような力量差であったが、彼ら四人は偉大な師達に少しでも追いつこうと努力を怠ることは決して無かった。


「隊長、ヴォルグは勝算無しに戦う男では決してありません」

「隊長、ヴォルグは負けません」

「隊長、お願いします。許可を」


 三人もエルゲルに懇願する。この四人はアインベルク卿に指導を共に受けている仲だと聞く。自分よりもはるかに互いの実力というものを知っているはずだ。それを尊重しよう。


「・・・分かった。許可する」


 エルゲルの許可にヴォルグ達四人は嬉しそうに笑う。


「さて、隊長の許可も出たことだしグンゲル、相手をしてやろう」


 ヴォルグの上から目線にグレゲンは怒りの声を発する。


「貴様!!人間如きが戦ってやるだと!?どこまで調子に乗っているのだ!!」


 ヴォルグはグレゲンの憤怒の声などまったく意に介していないように見える。その態度がグレゲンには余計腹立たしい。


(わざわざ、名前を間違えて言ったのに、そっちに触れないな・・・。まぁ、一応怒らせることに成功したのだから良しとするか)


「そして、貴様如きが私の名前を間違えるなど!!」


(あ、意味あったんだ・・・やっぱこいつアホだな)


 ヴォルグは、自分の挑発に意味があったことを嬉しく思い、そしてグレゲンの短絡的思考を嘲る。口に出したのは別の言葉である。


「え?お前の名前ってグンゲルじゃなかったの?」

「私はグレゲンだ!!間違えるな!!」

「ああ、すまんな。まぁどうでも良いじゃないか」

「ふざけるな!!」

「どうせ、お前は俺にやられて死ぬんだし」

「人間如きがふざけるな!!」


 グレゲンは剣を抜き、突進してくる。ヴォルグは手間が省けたとニヤッと嗤う。ヴォルグも剣を抜き、グレゲンを迎え撃つ。他の者は巻き添えを食わぬようにヴォルグから距離をとる。


 グレゲンの剣の腕前は魔族の中でも平均といった所だろう。だが、あくまで魔族の平均だ。人間にしてみれば一流、いや超一流と言ってもいいだろう。


 その斬撃がヴォルグに襲いかかる。その圧力、殺気はすさまじく並の者であれば動くことすら出来ずに命を散らしていたことだろう。だが、ヴォルグにとってグレゲンの圧力、殺気など及びもつかないほどの持ち主から指導を受けているのだ。油断できるほどの実力差ではないが、完全にのまれることは決して無かった。


 ヴォルグはグレゲンの斬撃をまともに剣で受け止めるようなことはせずに剣で受け流した。

 以前の彼ならただ自分の力のみに頼りまともに受けていたことだろう。だが、自分以上の力の持ち主と戦うときに真っ正面から受け止めるのは、アホの極みと指導を受け、力を利用する修練を積んでいたのだ。


 斬撃をそらしたヴォルグは、すかさず剣を振るいグレゲンの首を刎ねようと斬撃を見舞う。それをグレゲンは体を捻って躱す。グレゲンが体勢を立て直すまでのわずかな時間に、ヴォルグはロバートに視線を向ける。


 ヴォルグの視線を受けてロバートは小さく頷く。ロバートはすぐにウォルター、ヴィアンカにも視線を送る。二人もその視線を受けて小さく頷いた。


 その視線の交叉に気付くことなくグレゲンは剣を振るう。ヴォルグはそれを躱し、逸らし、反撃を行う。目まぐるしく交代する攻守と言いたいところだが、グレゲンが2回斬撃を見舞うのにヴォルグは1回反撃するのが精一杯だ。

 それも時間が経てば経つほどグレゲンの斬撃に対し、反撃の回数は少なくなっていく。


 やがて、ヴォルグは防戦一方になる。



 予定通りであった。


「どうした!!そら!!そら!!」


 グレゲンは防戦一方となったヴォルグに嘲りの顔と声をかける。ところが、ヴォルグの表情に追い詰められた悲壮感は一切無い。

 

 グレゲンは訝しげにヴォルグの表情を見る。その意図するところを読み取ろうとして、思考を巡らす。


(なんだ?こいつは追い詰められているはず・・・なのに・・・がぁ!!)


 突然、グレゲンの右目に激痛が走る。グレゲンはこの痛みに混乱する。


(なんだ!!何をされた?俺の右目に何が!!)


 グレゲンの右目には投擲されたナイフが刺さっている。投擲したのはヴィアンカであった。自分の目にナイフが刺さった事に気付き、それを投擲したのがヴォルグでないことを悟ったグレゲンは怒りに身を振るわせる。


 そこに、ヴォルグがグレゲンの剣を持っている右手を切りつける。


 シュパッ・・・


 という静かな音が響きグレゲンの手は剣を握ったまま地面に落ちる。


「ぐぅ!!」


 右手の欠損は、グレゲンに傷みによる苦痛以上に怒りを与えたようだった。


「貴様らよく・・・がぁ!!」


 グレゲンの抗議の声はまたしても中断される。今度はロバートが投擲したナイフが左足に刺さったからだ。


「よくも!!よくも!!この卑怯者らが!!」


 グレゲンが抗議の声を上げる。その声に対して、四人はまったく意に介していない反応だ。


「卑怯?何がだ?」


 ヴォルグは呆れたかのような声を出す。


「これは一騎打ちだったはずだ!!」


 ヴォルグの呆れたかのような声に激高したグレゲンが大声で叫んだ。


「何を言ってるんです?ヴォルグは嘘なんてついてませんよ?」


 答えたのはヴィアンカである。これまた落胆したような声だ。


「何?」

「だって、ヴォルグは言ってませんでした?『少しの間』って?」

「な・・・」

「本当に抜けているんですね。私達はすぐに分かりましたよ?ヴォルグの意図するところを」

「ふ・・・ふざ」

「大体、『少しの間』なんて言葉が入っていることに不自然さを感じなかったんですか?そんな注意力散漫なんだから今、このような状況に追い詰められているんですよ?すべてはあなたの甘さが招いた結果です」


 ヴィアンカの言葉は詭弁の一歩手前、いや、一般的には詭弁に相当しているだろう。だが、四人はそう思っていない。

 ヴィアンカの言葉を近衛騎士達は黙って聞いている。


「じゃあ、一騎打ちの時間は終わったと言うことで、決着をつけるとするか。」


 ヴォルグがグレゲンに宣言する。


 戦いの決着が近づいていた。




次回で決着です。

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