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騎士Ⅱ①

久々に近衛騎士達の登場です。

 ローエンシア王国の東部に位置するカルマジア伯爵領で一つの事件が起こった。当地を領地とするカルマジア伯爵の私兵軍の一隊が、演習中に消息を絶ったのだ。


 消息を絶った部隊は一個小隊で構成人数25名だった。


 当然、捜索が行われたが、演習地、近辺では見つからない。程なく捜索範囲を広げていった結果、全員の死亡が確認された。


 奇妙なことに、小隊は消息を絶ったと思われる場所から約70㎞も離れた森の中だった。


 激しい戦闘があったのだろう兵士全員の死体の周りに剣や槍などが転がっていた。どのような死因かは、分からない。理由は死体を魔物か獣が食い散らかしていたからだ。兵士達の死体を発見したのは、この森の集落に住む猟師だった。


 彼は獲物を探して森の中に入り、その時に死体を見つけたのだ。



 かなり食い散らかされていたが、小隊の装備、服装などにカルマジア伯爵の紋章が彫られていたことから伯爵の私兵であることが推測され、役人に届け出たところ発見されたということだった。



 すぐに調査員が派遣され、捜査が行われた結果、どうやら小隊はこの場所で何かと戦闘になった事が分かった。


 約70㎞も離れた場所から、わざわざこの森で戦闘行為に及んだのだ。普通に考えればあり得ないことである。もし、彼らが演習中に襲われたのなら、何かしらの痕跡が残るはずである。もし浚われたとしても、完全武装の小隊が誰一人として逃げられない、もしくは痕跡も残せないというのはいかにも不自然である。


 となると魔術によって誘拐されたとみるのが自然というものであったが、いくらなんでも一個小隊を同時に転移させ、誘拐するというのは不可能だった。どれほどの力のある魔術師であっても一度で転移させることができるのは10名が限界だ。

 力のある魔術師が複数でやったという可能性も捨てがたいが、それでも、そこまでの魔術師を揃える事はたとえ国家であっても難しかった。

 自らが転移するのではなく、他者を転移させる。しかも、相手に気付かれることなくである。かなり難易度の高い事だった。



 カルマジア伯に調査結果が伝えられるが、結局の所、誰が何の目的で小隊を誘拐し、殺害したのかを掴む事が出来なかったのだ。




 このカルマジア伯領で起こった事件は、終わりではなかった。ローエンシア各地で起こっていたのだ。誘拐される者は騎士、兵士、冒険者、傭兵などの戦う術を持っている者達ばかりであったことから、意識的に戦う術を持っている者を誘拐している事は明らかであった。


 騎士達も誘拐され殺害されているという事実に、国も警戒感を強める。本来であれば、近衛騎士の任務ではないが、騎士達ですら殺害されている現状から、この事件の解決に騎士達のエリートである近衛騎士にも招集が掛かった。

 だが、近衛騎士の主要任務はあくまで王族の護衛である。ゆえに少数が解決の任務に就くことになったのだ。


 選ばれた近衛騎士は6名、その中にアレンに師事する四人の近衛騎士もいた。


 ウォルター=ローカス、ロバート=ゼイル、ヴォルグ=マーキス、ヴィアンカ=アーグバーンの四人はアレンとロムから教えを受けてから、メキメキと頭角を現し、それぞれ分隊長になっていた。


 近衛騎士において一分隊は8人で構成される。そして三個分隊で一小隊となる。


 他に選ばれた近衛騎士が中隊長であることを考えると、四人の選抜は分隊長という地位以上の評価を上層部より受けている事の証明であった。


 近衛騎士団長のリグラ=レオルディアは6人に任務を告げ、訓示を行う。


「お前達の任務は現在国内で起こっている誘拐殺害事件の真相を暴くことである。お前達の任務の重要性は重い」


 レオルディア団長は重々しく伝える。


「なぜなら、今は騎士、兵士などの戦う者だけが対象となってはいる。だが次も騎士や兵士達であるとは限らない。次は我らが守るべき王族かもしれない。国家の重要人物かもしれない。無辜の民かもしれない。その事を肝に銘じて任務に挑むんで欲しい」

「「「「「「はっ!!」」」」」」


 6人の声が重なる。


「なお、この特務部隊の隊長はエルゲル=ガイランド、副隊長はケビン=メイナーだ」

「はっ!!」

「はっ!!」


 隊長、副隊長に任命された二人は簡潔に返答する。


「準備ができ次第、お前達、特務部隊はカルマジア伯領へと向かえ。次に敵が現れる可能性が高い地域だ」


 レオルディア団長の言葉には一応の根拠があった。ローエンシアの国内で起こっている兵士達の誘拐事件は一定の法則があり、その法則に則れば次はカルマジア伯領で起こる可能性が非常に高かったからだ。

 カルマジア伯領まで、馬を飛ばせば2日の距離、もしも、相手がただの殺戮が目的ではなく、戦闘力が高い者を殺害することが目的だった場合は、特務部隊を狙う可能性が高い。もし、誘拐されても魔導院の魔術師達が応援を送る手はずになっている。


「はっ!!命令承りました。これより特務部隊、準備が整い次第、出立いたします」


 エルゲルがレオルディア団長に返答する。


 命令を受けた特務部隊の6人はすぐに準備のため団長室を出て行く。


「頼むぞ・・・」


 団長室を出て行った特務部隊の6人にレオルディア団長が呟く。本来、もっと多くの人員を割くべきである事は十分に理解してる。だが、2ヶ月前に国営墓地に魔族が現れたという報告がある以上、近衛騎士の人員をこれ以上割くことは出来ない。


 あの6人を選抜したのはレオルディア団長自ら行ったのだ。戦闘力はもちろん、危機に対応する柔軟な姿勢、判断力の的確さ等考慮した結果の人選だった。



 レオルディア団長は父である軍務卿ヘムルート=ヴァン=レオルディアから、今回選んだ四人の分隊長はアレンティス=アインベルクに師事している事を聞いていた。

 実際に四人の戦闘力、対応力はヒラの近衛騎士より数段上であった。すでに小隊長へと昇進の話が上がっているほどの逸材となっている。ひょっとしたらここで有為な人材を失うかもしれないという不安はあったが、それ以上に四人は上層部に評価されており、期待されていたのだ。


 そして、その四人をまとめるエルゲル、ケビンの実力もこの難しい任務を成功させることが期待される優秀な騎士だ。


 それに、近衛騎士団だけでなく、騎士団も精鋭を送り出したし、冒険者達も独自に動き出している。


 レオルディア団長は結果的に、どこが解決しても構わないと思っている。大事なのは事件が解決することなのだから。




---------------------


「これより出立する」

「「「「「はっ!!」」」」」


 エルゲルの号令に5人は一斉に返答する。


「我々の任務は、事件の解決だ。そして任務の失敗とは我々の全滅だ。誰か一人でも生き残ればそれだけで事件解決の第一歩となる」


 エルゲルは5人の顔を静かに見渡す。


「得る情報を少しでも増やすために常に観察を怠るな!!」

「「「「「はっ!!」」」」」


 エルゲルは事件の解決のために自分が何をすべきか理解している。自分達が解決できれば何も問題は無いが、自分達の力が及ばない可能性も十分に理解している。その時に、一人でも生き残れば、少なくとも解決の第一歩となるのだ。


「行くぞ!!」

「「「「「はっ!!」」」」」


 特務部隊の6人が騎乗し王城を出立した。


 


----------------------


「ふん・・・近衛騎士か・・・」

「グレゲン様、いかがなさいますか?」

「無論、殺す。雑魚ばかりで飽き飽きしていたところだしな」


 グレゲンと呼ばれた男は、身長が2メートルほどの巨体を持つ大男だ。肌は青黒く、耳はとがり、尻尾が生えている。

 そうその姿は人間ではなく、魔族だった。


 グレゲンに問いかけたのも下級悪魔だ。6人に残虐な笑みを浮かべている。


「ふふふ・・・この装置の実用実験もそろそろ終えようかと思ったが、近衛騎士が出てきたというのなら、こいつらで遊ぶのも悪くない」


 水晶玉に映し出された6人の近衛騎士に、グレゲンは残虐な笑みを浮かべた。




読んでくれてありがとうございます。


これからもよろしくお願いします

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