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勇者⑬

戦闘終了です。


楽しんでいただければと思っています。

「おお、あの元勇者さん立ち上がったね」

「本当・・・もう動けないと思っていたのに・・・」

「なんとかあと5分粘って欲しいわ」


 見物のフィアーネ達が立ち上がった元勇者に向けて口々に感想をいう。


 戦闘が始まってわずか五分でほとんど決着はついていたのだ。三人はアレンが何分で斃すかという賭けをしていた。さすがに元勇者という肩書きから10分は持つだろうと思っていたのだが、この戦闘は最初からアレンの圧倒的なペースで進んでおり10分は絶対にもたないと三人は諦めていたのだ。


「それにしてもアレンは容赦ないわね」

「フィアーネの言う通りね」

「でもアレンさんの行動は正しいですよ」

「フィリシアの言う通りね。ここで手加減なんかして思わぬ反撃を食らったりしたら目も当てられないわ」

「確かに四対一の戦いなんだから、一切の手加減をすべきじゃないわ」


 三人は一見残酷とも言えるアレンの容赦のなさを肯定する。これは試合の形式を取ってはいるが、使う武器、道具は実戦で使うものと何も変わらない。一瞬の油断が命を失うことになるのだ。

 敵への情けをかけるなどというのは武を扱うものとしてあってはならない事なのだ。相手への情けをかけるつもりがあるのなら最初から戦うべきではない。


「あの元勇者さんの身体能力がいきなり上がったね」


 レミアがジェスベルの動きを冷静に観察している。


「そうね、でも魔力、闘気を急激に消耗していくわ。あの技、完全に短期決戦用ね」


 フィアーネがジェスベルの消耗度合いからあの動きがそんなに長く続かないことを見破っていた。


「確かに動きは上がっているようですけど・・・あの程度じゃ・・・」


 フィリシアがジェスベルの反撃の結末を予見していた。




------------------


 ジェスベルはアレンに斬撃を見舞う。ジェスベルの斬撃はすさまじい威力でアレンにせまるがアレンは斬撃をあっさりと躱す。


 ジェスベルは続けて斬撃を連続で放つ。


 それをアレンは悠々と躱してく。


 その様子を見て、ドロシーは驚く。自分の目にはほとんどアレンとジェスベルの動きが見えない。ジェスベルが天剛を発動すれば今までどんな相手であってもすぐに勝負がついたのだ。

 天剛は、ジェスベルの切り札であり、自分達四人の切り札であったのだ。その切り札があの男には通じないのだろうか?


(ジェスベルの天剛は長く持たない。なんとか発動が切れるまでに勝負をつけてジェスベル!!)


 ドロシーは祈る気持ちでジェスベルを見つめる。


 一方でジェスベルは焦っていた。


(何故だ?なぜこいつは天剛を発動している俺の斬撃を苦も無く躱せるのだ?)


 ジェスベルの斬撃は空を切るばかりだ。アレンを捉えることが一切出来ない。アレンはジェスベルが斬撃を放つ前にすでに回避行動に移っているのだ。そのため、ジェスベルはアレンがかつて居たところを斬りつけているだけだったのだ。


 アレンはアレンでジェスベルの斬撃を余裕で躱している。アレンにとってジェスベルの剣は力とスピードこそは優れているが、いつ斬撃がくるか非常に分かり易く、躱すのにまったく苦労をしなかった。

 

(ひょっとして、これがこいつの切り札か?いや・・・仮にも勇者だったんだから切り札はちゃんとあるよな・・・)


 

 アレンを捉えることの出来ないジェスベルは焦り見当違いの方に目を向けている。


(もっと速く!!もっと強く!!)


 ジェスベルはもっと速く動くことばかりを考え、『当たりさえすれば』という意識ばかりが強まってくる。


 アレンならそうではなく『もっと静かに、相手に気取られぬよう』に意識を向けただろう。アレンとジェスベルとでは戦闘の技法と思想が根本的に異なっているのだ。


 ジェスベルの意識が『速く動く!!強く動く!!』に染まり、発動時間限界が迫る焦りからアレンの動きに注意がそれる。


 その隙をアレンは見逃すことは決して無い。


 アレンはジェスベルが剣を大きく振りかぶった時に空いた肝臓の位置に左フックを叩き込む。アレンの左拳は魔力が込められており、ジェスベルの鎧を打ち砕く。


 ビキィィィ!!


 鎧の亀裂の入る音が修練場に鳴り響く。鎧が致命傷を避けたとはいえ、その衝撃は大きく、ジェスベルの動きは止まる。

 苦痛に歪むジェスベルの顔にアレンが右拳を叩き込む。


 ドゴォォォォォォ!!!


 すさまじい打撃音が修練場に響き渡る。ジェスベルはかなりの距離を飛び地面に叩きつけられた。ジェスベルが気絶したのはアレンに殴り飛ばされた時か地面に叩きつけられた時かは分からない、だが、分かっていることはジェスベルがアレンに破れたという事実であった。


 アレンは、ジェスベルにゆっくりと近づく、ドロシーはその様子を信じられないと呆然と見ていた。


 天剛を発動しているジェスベルが破れたのだ。しかもジェスベルは剣を持ち、アレンは素手・・・。ジェスベルが圧倒的に有利な状況だったにも関わらず破れたのだ。ここで、ドロシーは完全に心が折れてしまった。

 元々恐怖に支配されていたが、ジェスベルが天剛を使ったことで希望を見いだしたのだが、その希望が打ち砕かれたのだ。


 アレンはジェスベルの様子を確認している。完全に意識を手放していることを確認したのだろう。ドロシーの方に目を向ける。


 凄まじい殺気を放ちながら近づいてくる。


「あ・・・あ・・・」


 ドロシーは声を出すことが出来ない。だが心の中では助かるために必死に考えていた。


(どうすれば・・・どうすれば・・・)


(・・・待って、あいつは何でジェスベルにとどめを刺さなかったの?)


(何しにジェスベルの所に行ったの?)


(ジェスベルは動かない・・・?ジェスベルの意識があるか確認したの・・・?)


(・・・ひょっとして)


 ドロシーの中で自分が助かる方法が天啓として閃いた。



「降参します!!」


 ドロシーの口から降参の言葉が発せられるとアレンの放っていた殺気がすぐになくなる。


 勝負は決したのだ。


(まったく、よっぽど動揺してたんだろうな。降参するという選択肢を忘れるんだからな)


 アレンはドロシーから降参を引き出すためにすさまじい殺気を放ったのだが、どうやら効き過ぎたらしい。


 アレンはその事を反省した。


 三人は決着がついた時間を見て、がっくりと項垂れる。かかった時間は8分24秒、かけた時間の前後1分までが権利獲得の条件だったのだ。つまりフィアーネの賭けた時間は10分、その前後だから9分台ならフィアーネが権利獲得だったのだが、かかった時間が9分台でなかったために権利獲得は誰もいなかったのだ。


「あ~あ、せっかくのチャンスだったのに・・・」

「しょうがないよ、フィアーネ・・・」

「もう少し粘ると思ったのですけど・・・」


 三人にとってアレンの勝利をまったく疑っていなかったので、気になっていたのは時間だけだったのだ。


「お~い、三人ともこっち来てくれ」


 アレンがフィアーネ達を呼んでいる。呼ばれた三人はアレンに駆け寄った。


「フィアーネ、レミア、フィリシア、ちょっとやり過ぎたようだ。このままじゃ、こいつら死んじゃうから治癒魔術をかけてくれ」

「「「分かったわ」」」


 三人が散り倒れている元勇者一行に治癒魔術をかける。


「ああ、三人とも全快するまでやらなくていいぞ。とりあえず死ななければそれで良い」


 アレンの言葉に三人はそれぞれ了解の返答をする。


 そしてアレンは意識のあるドロシーに言葉をかける。


「さて、こういう結果になったわけだが・・・」

「は・・・はい」

「まさかこの期に及んで負けてないとか言わないよな?」

「はい・・・」

「そうか、それからお前らは俺に負けた以上、これ以降はお前らをまともに扱うことはしない」

「はい・・・」

「これで、お前らは奴隷以下の存在となったわけだ」

「・・・はい」

「自分達がいかに調子に乗っていたか分かったか?」

「はい・・・」

「話は終わりだ。お前らをどのように役立てるかは後日伝える」


 アレンはそう伝えると踵を返し歩き去ってしまう。ドロシーはアレンの姿を見送りながら項垂れた。


「三人とも治療は終わったか?」

「ええ、とりあえず命の危険は無くなったわ」

「そうか、ああそこの魔術師を念入りに治療しておいてくれ、目が覚めたらそいつに治癒魔術をかけさせよう」

「分かったわ」


 アレンはロフの治療が終わり、意識を取り戻すと、ロフに三人の治療を命じ、修練場を後にする。当然、フィアーネ達も修練場を出て行く。


 後に残された元勇者一行はロフの治療が終わるまで修練場で項垂れていた。



 こうして、アレンと元勇者一行の戦いは終わった。惨敗を喫した四人はこれからどんな扱いをアレンから受けるか不安な一夜を過ごすことになった。



次回はこの後の勇者一行の話を入れて『勇者』は終わろうと思います。


読んでいただきありがとうございます

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