プロローグ
「早く帰らないと怒られるな・・・」
そんなことを思いながら、時計を見ると夜の10時を回っていた。
しかし【日向 隼人】は全く急ぐ様子も見せずに家路に着く途中だった。
彼は現在聖ヨハネ学園付属高校2年の生徒である。
容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能であり、”男の敵”のような存在である彼だが、学園の大半の生徒は不思議なことに平凡ないち生徒という認識しかもっていないのである。
それは・・彼が学園では注目されることを極度に嫌うために、学園用【日向 隼人】を演じているためである。
そんな彼が仮面を外す場所のひとつが放課後〜夜9時まですごす場所である”聖ヨハネ学園大学サッカーグラウンド”である。
彼は今まで大学生に混じってサッカーの練習をしてきたところだった。
「隼人!ずいぶん遅いな。今帰り?」
突然後ろから声がして、あわてて振り向くとそこにはいつも見慣れた顔があった。
「なんだ、智也か。今日は気合が入って遅くなっちまったよ。お前も今帰りか?」
そいつの名は”桜川 智也”。同じ学園に通い、学年もクラスも同じ。さらに幼稚園から一緒という通称”幼馴染兼親友で本当の日向隼人を知る者”である。
智也は学園でも1,2を争う人気者だ。整った顔を持ち、バスケ部のエースであり、成績も常に10位以内には入る。さらに誰とでも仲良く出来る才能を持っているため男女問わず慕うものが後を絶たない。
「ああ、今練習終わって帰るところだ。それにしてもせっかく徒歩10分で学園から帰れるのに、わざわざ5Kmも離れた大学のサッカー部で練習するとは・・・隼人も学園のクラブに入ればいいのに。」
「学園でサッカーなんて考えられないね。」
「注目あびるからか?」
「学園の人気者が智也から俺に変わってしまうからだよ。分かるかね、智也くん。」
「ははは、言ってろ!」
そんなくだらない話をしていたら、隼人の家の前に着いていた。
「智也。上がっていくか?」
「今日は遠慮しておくよ。楓によろしく言っといてくれ。」
「おう、じゃあな!」
そういうと、智也は500mも離れていない自宅に向かって歩いていった。
「やばい。忘れてた。楓、怒ってるかな?」
そう言いながら、隼人はマンションの入り口でインターフォンを押した。