まさかの彼
「では、新入生代表、一年5組、嘉藤渉」
司会進行の教頭先生の声。
「はい」「えっ?」
それに答えたのは嘉藤渉と私、だけだった。
(今、嘉藤渉って…ーーーー)
「…――ちょっとまーちゃん。静かにしなよー」
海里が横から私に小声で注意する。
(でも!今それどころじゃないから!)
「海里、今、嘉藤渉って「渉くん、帰ってきてたんだねー」
私が驚いた顔のまま海里を見ると、海里は呑気な声でこそっと言った。
(信じられない…ーーーー渉くんがここに帰ってきたなんて)
壇上に上がった“嘉藤渉”くんは、
切れ長の瞳、サラサラの茶髪、180センチはあるだろう高身長。
(わー、面影ゼロだー…)
私は、唖然としながら渉くんを見つめていた。
「渉くん、更にカッコ良くなってるね」
海里が頬を赤く染めて、こそっと耳打ちしてくる。
「…―――」
「あとで話し掛けに行こうよ、まーちゃん。」
「え、無理!」
今の今まで彼に見とれていた私は、慌てて海里に言う。
「何でー?」
「何でも!」
(声掛けるなんて、そんな勇気ないよ…だって覚えてなかったら私、きっと立ち直れない…ーーーー)
『またね』
十年前、渉くんはそう言った。
そして、約束通り、彼は“また”私たちの前に現れてくれた。
(私はそれだけで、充分幸せだから…ーーーーだから良いよ…話し掛けなくても、気づいてもらえなくても…。)
――――おかえり、渉くん。
本当は短編(一話読み切り)に挑戦したかったのに、
やはり無理でした…。
彼と幼馴染みの二人は、どんな高校生活を送っていくのでしょう。それは、作者にも分からない…。