春麗らか
戦え、魔法少年シラン!の後日談のようなもの。
青空を覆う薄桃色の桜の木。
そして可愛らしい重箱弁当を開けると、いい香りと共にタコさんウインナーと美味しそうに艶めいた卵焼き等が出迎えてくれる。
こんな美味しそうで可愛らしい弁当を作れるのが俺の恋人だ。自慢して歩きたいものだ。
だがこの弁当を作った張本人は今、売られた喧嘩を買っている真っ最中だ。
「あのガラの悪い連中にも見せてやりたいものだな」
今殴り合ってるその男、皆から恐れられてる何かと噂な銀髪の男こと柊ソウがこんな可愛い弁当を作ったんだぞと。
なんて脳内で惚気ながら俺は奴の帰りを待つ。
全く、花見くらい静かにさせて欲しいものだ。小さく溜め息をつくと頭を撫でられた。
「待たせた」
「怪我しなかったか? ちゃんと絆創膏持ってるぞ」
「怪我する前提かよ、オレには必要ねえ」
「それもそうだな」
俺が敷いといた茣蓙の上にソウが座り、桜を見上げる。
銀色の髪が優しい春風にさらさら揺らされているのが、なんとも幻想的だ。
「アンタとこうやって花見をする日が来るなんて、想像もしなかった」
「ああ、オレもだ」
暫く無言のまま桜を眺める。
「なあ、シラン。今度会わせたい人が居るんだが」
それはつまり。俺は思わず唾を飲む。
「息子さんを僕に下さいって奴か」
「どこから突っ込んだらいいかわかんねーから。親なんてオレに無関心だ。誰と付き合おうが構いやしねぇよ」
「寛大なご両親だな」
「お前の脳内は今日もぽかぽか陽気だな」
額にデコピンをくらった。痛む額をさすりながらソウを見ると優しく笑った。
「親よりももっと大切な人に、大切なお前を紹介するっつってんだよ」
「……っ……」
思わず頬に熱が溜まっていく。不意打ちなんて卑怯だ。
「ああ、……その時はスーツで行こう」
「オレの家は面接会場か何かか」
ソウは兎型に切られたりんごをかじった。
俺はそんなソウの隣りで幸せを噛みしめていた。
また来年も二人で桜を見よう。
言わなくても、いつの間にか繋がれた指先から伝わる気がした。