大好きな人が居るのに何故か別の人に惹かれてしまいます
中学2年の時、私は大好きだった男の子に告白した。
物凄いモテていた彼に地味な私じゃ振られるだけだと思って、でも、ほんの少しの希望を胸にしたそれは、何が彼の琴線に触れたかは分からないけど成功する事になる。
でも、中学生の間は付き合えたと言う実感はない。
私だけが好きみたいで、まるで都合のいい存在を手に入れたかのように振舞われ、実際にその通りだったと思い込んでいた。
そのまま中学校生活を終えてしまったのだけど、それでもどうしても私は彼の事が好きで、傷ついても別れると言う選択肢は出てこなかった。
突如転機が訪れたのは、高校入学式当日私が来るなと言われた彼の忠告を無視して彼の家の前まで行った日だった。
いつもなら本当に嫌そうに表情を歪め、忌々しそうに言葉を投げつけてくる彼が、笑顔で私を抱きしめ更には好きだと言ってくれたのだ。
親友の茉莉ちゃんは虫が良すぎると物凄い怒っていたのだけど、彼女の怒りも受け止めて頭まで下げてくれた。
まるで人が変わったようだとも思ったのだけど、仕草やふとした時の対応は全く変わってなくて、本当に彼が言う様に照れ隠しでやってしまったと言う言葉を信じれた。
幸せで幸せで、お弁当を作ったら美味しい美味しいと本当に嬉しそうに食べてくれて、送り迎えも彼が私の家までしてくれて、会える時間が減ると嫌だからと続けていた部活も高校では入らないで。
思うところもあるにはあったのだけど、本当に大切にしてくれているのが伝わってきた。
茉莉ちゃんだって、半月も経てば本当に心根を入れ替えた……いや、クソガキからマシなガキに成長したのねと彼女らしい評価に変わったのだった。
「香織、貴方おかしいわよ」
放課後茉莉ちゃんに呼び出され、口を開くやいなやそう告げられる。
心当たりがある私はただ押し黙るしかない。
「田中の事はどうしたの? 妙に長谷部と仲が良いみたいだけど、本当に香織らしくない。
好きな人が変わったのならちゃんと別れた方が良いよ。茉莉為にも田中の為にも。長谷部にも絶対悪いって」
そう、隣の席になった男の子。彼に私は何故か惹かれてしまっているのだ。
じゃぁ淳平君は? と聞かれれば彼も大好きとしか言えなくて。
自分でも自分が分からなくてどうしていいのかわかんないの……。
「何で黙ってるの? 田中だって心配しているみたいじゃない。本当にどうしちゃったの?」
心配そうに聞いてくれる茉莉ちゃん。でも、私は自分の今の気持ちを表現出来る言葉が出てこなくて。ついには泣いてごめんなさいと何度も謝ってしまう。
違う、本当は伝えたいの。バラバラでも吐き出せる言葉があるの。でも、何故か口にしようとすると言葉が出てこないの。
ごめんなさい。本当にごめんなさい。
結局そのまま茉莉ちゃんは黙って、でも、最後に私は最後まで味方するから、いつでも頼りなさいと言ってくれた。
とうとう淳平君の誘いを断ってしまった。
今一緒にいるのは長谷部くんで。でも、自分で選んだ人と一緒にいると言うのに全然嬉しくない。
「ね、あんな奴と居るより俺といる方が楽しいって。今まで辛かったろう?」
貴方なんかが淳平君を悪く言わないで!
いつもそう思うのに、口からは出てこない。
しかも、怒りの感情もすぐに薄れてしまう。本当に私はどうしちゃったのだろう?
まるで自分が自分じゃないみたいで怖い。でも、そんな私を淳平君に知られちゃう方がもっと怖い。
そう、私は逃げたのだ。彼といると何故か心が安らいで、少なくとも淳平君と居るよりも落ち着けるからと逃げ出しちゃったのだ。
もう彼には会えない。漠然とそう思う。
気付けば涙を零していた。きっと淳平君は気付いてくれたそれは、すぐに拭った為長谷部君は気付かなかったようだ。
ワタシハナニヲシテイルノダロウ?
「香織! 貴方それで本当に良いの?」
淳平君も最初の1週間程は必死に私に会おうとしてくれたようだけど、必死に逃げ回ってしまった私。
会わせる顔もない。でも会いたい。会えない。
渦巻く感情を持て余しつつある中、泣きそうな顔で茉莉ちゃんが私にそう詰め寄って来た。
「おいおい、香織が可哀想だろう? 怒鳴るなって」
「黙れ外道! あんたが茉莉以外の女の子にも葉っぱかけているの知らないとでも思ったの?」
「茉莉ちゃん、止めて。
長谷部君。ごめんなさい」
怒りを長谷部君にぶつけた茉莉ちゃんに、気付けば私はそう口にしていた。
あれ? 何で長谷部君に謝っているのだろう?
疑問に思うも、泣き出しそうな表情で背中を向ける茉莉ちゃん。手は伸びたのだけど、声が出なければ気付いてもらえる訳もなく虚空しか掴めない。
「うーん、付き合っているのに長谷部君か。っかしいなぁ。名前で呼ばれる筈じゃなかったっけ?」
隣で何やら言っている長谷部君。でも、正直今はどうでもいい。
そうだ、ぼーっとしれてば。現実を忘れれば勝手に受け答えしてくれるんだ。
モウイイヤ、ワタシツカレチャッタ。
そこからの記憶は本当に曖昧だ。色々あったような気もするし、何もなかったような気もする。
いや、本当は昨日の休み時間に淳平君が乗り込んでくれた時から現実に戻ってきたような、まるで呪縛を解かれたような気がするのだけど、でも、何もかももう遅い。
「これで目が覚めたかしら?」
再び現実に引き戻してくれた人の声を聞きつつ痛む頬を抑え、唖然としながら見上げる。
そこには涙を流してこちらを睨む茉莉ちゃんの姿があった。
「いい加減にしましょう。私も1度挫けちゃったのだけど……あのヘタレがスカッとさせてくれたし、親友を辞めたつもりもないからね」
気付けば私も涙を零していた。
立ち上がり、震える手で茉莉ちゃんを抱きしめたのだけど、彼女は抵抗せず受け入れてくれた。
「うあああああああああああ、ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさいいぃぃぃぃぃ」
涙が次から次へと溢れ出て、やっと本当の思いを吐き出せた気がする。
茉莉ちゃんも抱きしめ返してくれて、嬉しくて尚更涙が出てしまう。
落ち着いた後、初めて心から思う事を口に出来る。
ああ、そう、私は長谷部君……いや、あの人の事が大嫌いだ。口も聞きたくないし名前も呼びたくない。
どこで何をしようと興味もないし勝手にやってくれと思う。最近は一番反応の薄い私は放置気味だったし、丁度良いだろう。
「えへへ、茉莉ちゃんありがとう」
「ううう、私としては美味しい所を全部持って行かれた気もしないでもないんだけど。
けど田中だってやっと見直す事をしてくれたし、うん、お礼はあいつに言ってやりな。
後、絶対香織の事待ってるよ」
真剣な表情で言ってくれる茉莉ちゃんに、でも私は素直に頷けない。
「でも、私は好きだけどもう淳平君は――」
「好きじゃない奴の為にあんなに怒ったり出来る? 大丈夫、謝るよりちゃんと好きだって言ってあげなさい。奴もその方が喜ぶだろうから」
にっこり笑顔を浮かべて背中を押してくれる茉莉ちゃん。
「……うん、私行くね」
物凄い不安だけど、でも、私も彼に会いたい。謝りたい、好きって言いたい……虫が良すぎるけど好きってまた言って貰いたい。
「うん、報告はちゃんとする事」
「振られたら慰めてね」
「それは絶対ないよ!」
2人で笑い合い、ああ、やっと本当の私になれたのだと、本当の私の生活が始まるのだと不意にそう思う。
淳平君。今行きます。
淳平君のお話がhttp://ncode.syosetu.com/n5791bv/にございます。
合わせてお楽しみ頂ければと思います。




