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第四話「ピアノ教室~四歳」

 たまーにこっちも書く

 side~佐伯響子(女子大生)~


「おいしい?」


「うん、おいしい!!」


「優香お母さんには内緒だからね?」


「うん!!」


 その元気さとは裏腹に、目の前でショートケーキを『綺麗に』食べるクミ君を見て、私は可愛いな、と思う気持ちと、不思議だな、という気持ちが二つ湧いてくる。


 私の両親は長期の海外出張のために家を開けて、私自身は大学があるためこちらに残っていた。両親に合わせて留学という話もあったが、そんな気にはなれなかった。


 元より、あまり社交的ではない性格である。海外など正直な話、怖いのだ。とはいえ、この性格から、友人も多いわけではなく、両親がいないからといって遊びに出歩く、という選択肢もない。


 簡単に言えば、日々、少しずつ寂しかった。


 大学から家に帰った瞬間、いつもなら母が温かく迎えてくれる家は、冷たく静まり返っている。私は家族関係にしか温かみを求めることのできない、酷く交友関係の薄い人間だったのか、と涙を流す日もあった。


 そんな折である。


 私の家はどちらかと言えば裕福な方で、生活費も全てバイトなどする必要がない。寂しさを紛らわすためにバイトをしようかとも思ったが、それならそもそも一緒に留学している。


 となれば、寂しさを紛らわす方法は、ピアノを演奏することとなる。


 自宅にあるグランドピアノ。低音と悲しい曲ばかり奏でることの多くなったピアノ。


 一緒に留学したほうがよかったのか、数少ない友人と打ち解けるにはどうしたら、なんていう気持ちを抱えながらの演奏は、途中で切られることとなる。


 ピンポーン、というチャイム。


 なんだろう、と思う。両親からエアメールでもきたのだろうか、とインターフォンの画像を覗くと、そこには一人の少年と、慌てている母親らしき女性の姿があったのだ。


「どうしたの、響子さん?」


「ん、なんでもないよ。クミ君がいてくれて良かったなって思って」


「う~ん」


 漠然とした物言いに、クミ君はよくわからない、といった顔をして、興味を失ったのかすぐにケーキに取り掛かる。


 しかし、私にはそれが、『何もわからない』のではなく、『いまいちよく理解できない』という、一歩進んだ疑問の表情に見えてしまう。


「ねぇ、こっちきて、クミ君」


「ん?」


 首を傾げながらも、残ったケーキを口一杯に頬張って食べきると、椅子から降りて私の手招きに誘われるように、膝に座ってくる。


 覆いかぶさるように、クミ君を抱きしめる。


 多少、不思議な子ではあるが、今の私には関係ない。クミ君はそれを補って余りある良い子だし、寂しい私の心の隙間を埋めてくれる『弟』だ。


 もう少しすれば、クミ君のお母さんの優香さんが迎えにくる。


 それが、とても寂しい。


「ねぇ、クミ君。今度、ウチにお泊りしない?」


「お泊り?」


「そう、お姉ちゃんと一緒に夜ご飯食べて、一緒にお風呂入って、一緒にお布団に入るの」


「僕、お泊りする!!」


 目をきらきらさせて何度も頭を振ってクミ君は頷く。


 多少、エッチなところはある。私に抱きついたり、抱きつかれたり。薄手の服に過剰に反応したり。このくらいの歳の男の子だから、しょうがないものだとは思う。


 クミ君自体、可愛いし。


 私自身、別に嫌だとは思わない。


 変なのだろうか、私は?


 side out



 計画通りッ―――!!!!!(ニヤッ


 なんていうほどではない。結構行き当たりばったりで、結果として上手くいった、というだけだ。


 近所に住んでいる響子さんのことは覚えていた。音大の大学生で、とても綺麗な人だった。前の人生では深く関わることなく、完全に忘れていたのだが、ある日、母親と一緒に近所を散歩しているときにピアノの音がして、ハッと思い出したのだ。


 綺麗な女子大生、ピアノ。この二つの点と点が繋がる。


 子供なのだから許されるだろ、と母の腕を無理やり引いてインターフォンを鳴らして、出てきたのはやはり綺麗な女性であった。流れるような黒髪。クリッとした瞳と、同じ人類とは思えないほどの小顔。そして出るとこ出ている体。


 それを見ただけで、ごちそうさまです。と心で唱えながら「ピアノ教えてくださいっ!!」と子供らしい無邪気さで声を上げたのだ。


 そこからは案外トントン拍子だった。


 響子さんが現在一人で住んでいて寂しい状況であるとか、だからクミ君がピアノを習いに来てくれるのはとても嬉しいとか、ウチからも距離が近いことであるとか。特に月謝なども必要としないことであるとか。なにより、息子の英才教育よりも、世話好きの母親の血が騒いだのが一番の理由であるかもしれない。


 そして気が付けば、母と響子さんはお互い簡単に打ち溶け合っていた。お互い古風な人間という共通項が上手く作用したみたいだ。今では一緒に買い物も行ったりしているらしい。第二の母といった感じだろうか?


 それは置いておいても、母と響子さんが同種のタイプというのは重要なことだ。 


 古風で保守的な人間は、依存する傾向にある。


 前の人生で父をなくした母が一時期抜け殻のようになったのもその所為だ。


 響子さんもそれに当てはまるのか、どうにも僕に対して依存度が高く、それに伴って許容範囲が広い。


 つい出来心で(子供なんだから胸揉んだってゆるされんだろッ!!)と勇敢なる行為に及んだときも、「もう、メッ」とむしろそれはご褒美ですと言いたくなった可愛い反応であった。


 将来後ろから包丁で刺されるようなことがないようにだけ気をつけて、これからも頑張りたいと思う。





 ―――もちろん、ピアノの練習をだ。

妄想垂れ流し

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