第八話 日常その八
始業式が終わった後は、教室へ行くのが定番。
ランツァは何の躊躇いもないが、ウィリアムは躊躇いというか、怒りを未だ抑えられないでいる。
「はあ……」
ランツァは少しため息をもらした。理由は言うまでもないだろう。
そして、教室へ。
彼らのクラスは、二年A組。そのためか、学年の先頭に立つ彼らは、いろいろと面倒なことに巻き込まれやすい。
それは例えば、先生に何かを頼まれるなど、様々だ。
ただ、そう割り振られただけで。
まあ、それも運命というやつなのだろう。そう思うしかなかった。
とりあえず、絶対何かある、と予感しつつ席に座るランツァとウィリアム。
その席の位置は、ランツァが左端の列の後ろから二番目。そして、ウィリアムはランツァの席の列より二つ右の列の一番後ろ。
結構近い席だった。
そして、席に座った瞬間、あの巨人が教室に入ってくる。ホームルームの始まりだ。
クラスの皆は、案の定、慌てて席に着く。彼らランツァとウィリアムは、本当は優しい人だと知っているからこそ、この反応を見ると笑えてくる。
もし、知らなかったら、皆と同じ反応をしていただろう。
そんなことをランツァは考えていると、笑っているのに気が付く者がいた。
巨人。
つかつかと、歩み寄りランツァの席の右斜め前で止まる。
「何を笑っている?」
しまった、と思ってしまう。皆が前ではおそらく相当厳しく接してくるだろうことを予測して。
そして、彼はこう言う。
「すみません」
「はあ……。しっかりしろよ」
「はい」
えっ? という視線が皆から向けられる。
当たり前だ。あの巨人が「すみません」の一言で治まったのだから。
「それじゃあ、新学期になるから、いろいろ予定とか話すぞ」
「はーい」
とは言いつつも、誰一人聴く気などないのだった。
その証拠として、皆がランツァに「ねえ、何で助かったの?」とか「何があった?」とか、そういった手紙を次々と回してきたからだ。
だが、彼はその全ての手紙に答える気は起きなかった。
理由は簡単だ。
クラスのほぼ全員が回してきたからだ。クラス全員に一人ずつ答えるなんて、面倒すぎるというものだ。
後で、集めて話した方が随分と楽だ。
そう思い、彼は全ての手紙を無視する。後で、返事をしなかった理由をちゃんと話そうと、言い聞かせて。