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アンゲルス  作者: Leone
第一章 ヒーローの帰還
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第六話 日常その六

 ランツァは、保健室から出た後、すぐに巨人と別れる。

「私は始業式のための仕事で忙しいからな。ウィリアムのことを頼んだぞ」

 巨人はそう言って、そそくさとどこかへ行ってしまう。そんなことは彼にとってはどうでもいいことなのだが。

 一人になったランツァは、寮に戻っても仕方ないと思い、また町へ出掛ける。

 しかし、今は真昼。

 すぐに出掛けてしまったことに後悔するランツァ。

 だが、彼は思う。

(前みたいにもう財布は忘れていないから、アイスを食べるなり、一人カラオケに行くなり、何でもできる)

 つまり、涼もうと思えば、涼めるということなのだ。

 しかし、

(でも、流石に一人カラオケはきついな。寂しさを呼び寄せるだけだし……)

 そんなことを考えながら歩いていると、どうなるかは何となくわかるだろう。

 そう。人にぶつかったのだ。

「うわっ!」

 互いにそんな声を思わず上げていた。

 さらにある意味最悪なことに、その人はユースト高校の生徒。加えて、クラスメイトだった。

 しかも、よりによって女の子とは……。長く伸ばした黒髪に、同色の瞳の女の子だ。

 男として、ちょっとなんてものじゃないほどの、罪悪感に襲われる。

「っつ~」

 もっと言うと、ランツァは倒れることすらなかったけど、その女子はぶつかったときに後ろに倒れて、お尻を地面につけていたのだった。

 つまり、角度的にある物が見えるわけだ。

 その女の子が穿いているのがズボンではなく、スカートならの話だが。

「…………」

 そして、結果は予想通りスカート姿だった。夏休みでも制服を着て行動するという校則があるため、当然なのかもしれない。

「…………」

 互いに沈黙だけが続いた。なぜかは定かではないが。

 そして、彼女は立ち上がると同時に、顔を、ぐい、と近づける。

「ねえ、何か言うことないの?」

「ああ、ええっと……。悪かった、ごめん。ちょっと考えことをしてて……。言い訳なのはわかってるけど、ほんと、ごめん。次からは気を付けるから」

「そうじゃなくて」

 と、彼女は続ける。

「見たでしょ?」

 彼女は凄んでそう言った。

 にも拘らず、素直に「はい、見ました」なんて言う奴はいないだろう。そんな奴は相当舐めている証拠だ。

 言うまでもないが、彼は素直には答えず、無理矢理笑みを浮かべて言い訳をする。

「見たって何をだよ? つか、何でそんなに凄んでんだ? 意味わかんねえんだけど」

「……本当に見てないの?」

「だから、何を?」

「……馬鹿。見てないならいい。じゃあね」

「おい、待てよ」

 思わず呼びかけてしまった。このまま何も言わなければ、話が簡単に終わっていただろうに。

「だから、何でそんなに怒ってんだ?」

 わかりきっていることなのだが、そう質問するのが妥当だと思う。

 妙な質問をしてしまえば、彼女に気付かれてしまうからだ。

「そうね。私が勘違いしていたみたいなんだけど、ようは、それこそが原因ってとこかしら」

 ものすごく曖昧な答え。

 だが、それも妥当だろう。

 何しろ、はっきり答えられるようなことではないのだから。

「じゃあ、私忙しいから……。明日の始業式で……」

 そう言うと、彼女はこの場を去って行く。

 やっぱり、正直に謝った方がよかったのだろうか? などと、ランツァは思う。

 その時、彼は知らなかった。

 「悪魔」という名の存在を。

 しかも、その「悪魔」が誰に襲いかかろうとしているのかを。

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