第五話 日常その五
ウィリアムが寮に戻ってきたのは、八月三十一日。夏休み最後の日だった。
そして、開口一番、
「死ぬううううううぅぅぅぅぅ……」
などと、言ったのだ。
当然、ランツァはウィリアムに何があったのか、巨人に何をされたのか、知りたがっていた。
「一体、何が起きたんだ?」
ドサッ、と倒れこんで、ウィリアムはその質問に答える。
「昨日からずっと巨人に働かされてた。主に始業式の準備を。一秒も休まずに……。最悪だ。巨人もずっと見張ってたけど、一体どんな神経してんだよ」
拷問だった。
比喩などではない。本当に拷問をされたのだ。
しかし、彼は結構余裕があるようにも見えた。それは、一度罰を受けているためか、あるいは彼もただならぬ神経をしているためなのか。
「それにしても、お疲れさん。でも、流石にもう罰はないだろ?」
「それがな……ないんだよ」
どうやら、思考回路までもがやられてしまっているらしかった。
そして、そのままウィリアムは意識を失った。
「おい、これって誰か呼んだ方がいいのか、
それとも……」
彼は迷った。
しかし、答えはすぐに出る。
誰かを呼ぼう、と。
どういうわけか、ウィリアムは目が覚めた瞬間、巨人を見る。
「は……?」
間が少し空く。
その隣には、ランツァがいた。一体、何がどうなっているのやら……。
「大丈夫か?」
ランツァが心配そうに声をかけてきた。
「ああ、多分……。てか、何で巨……いや、先生が?」
そして、ふとあることに気が付く。
保健室のベッドで寝ていたのだ。
「……?」
疑問ばかりが浮かんでくる。
その疑問にはランツァが答えた。
「実は、お前が帰って来た後、気絶してな。俺が誰かを呼びに行った時、ちょうど先生に出会って……。それで、事情を軽く説明した後で、ここにお前を連れてきた、ってわけなんだ」
何となくだが、状況がわかってきた。
そして、ウィリアムは意外な言葉を受け取る。
「すまなかったな、無理をさせて。少し度が過ぎていた。本当にすまない」
あの巨人が頭を下げたのだ。
それはおそらく誰も見たことなどなく、そして、彼らが初めてなのだろう。
それに対して、ウィリアムも意外なことを言った。
「いや、いいんですよ。俺があれをやらないなんて、言ったから……。多分、逆の立場なら二度目は簡単には許さない。でも、先生はあえてそんなに厳しくしてなかったみたいですし……」
彼も彼なりに、反省しているようだった。
「それじゃあ、お前はちゃんと休んで。で、俺と先生はとりあえずここから出ますか。いると、ゆっくり休めないだろうし」
そう言って、二人は保健室から出て行く。
残されたのは、ウィリアムと、今まで会話には加わることをしなかった保健室の女性の先生だけ。
その保健室の先生は彼らがいなくなってから、ウィリアムに話しかける。
「調子はどう?」
「上々です」
「そう、よかったわね。まあ、ただの睡眠不足みたいだから、たいしたことはないみたいだけど」
「そうですか……」
「ゆっくり休んで、早く元気になってね」
「有難うございます」
そして、彼は深い眠りにつく。