第三話 日常その三
何か文句を言われるだろう、と思いながらも部屋に戻ってみるランツァ。しかし、現実は……。
「おい、何で寝てんだよ」
ウィリアムは、課題をしている途中で寝てしまっていたのだ。
このままでは後々ひどいことになるだろうと考え、親友を起こそうとする。
「起きろ~」
「グオオォォォ……」
いびきだけ。
「すげえいびきだな……」
爆睡状態の親友は、どうやら強敵になりそうだ。
だが、ランツァは諦めない。
理由は一つ。
親友を再び痛い目になど遭わせたくないからだ。その痛い目の内容は知らないのだが……。
再び、爆睡ウィリアム君を起こそうと努めるランツァ。
「起きろ~。早くしねえと、間に合わなくなるぞ」
だが、起きない。
「グオオォォォ……」
遂に、究極の技を使うことに決めたランツァ。
その究極の技というのは、
「起きろ!!」
耳元でそう叫ぶ、ということ。
案の定、飛び上がるように起きるウィリアム。
「う……ん……?」
だが、それでも意識がはっきりしていないようだった。
そして、
「……何者!?」
背後に立つ何者かの存在にようやく気が付く。
それと同時に、ウィリアムは右腕を後ろに振り回す。誰かを全く確認せずに。反射的に振り回したのだ。
言うまでもないが、背後に立つのはウィリアムの親友、ランツァだ。
ランツァは急な彼の行動に驚かされながらも、必死で回避する。
「うおぅ……」
思わず、そんな声が出ていた。
そして、腕を振り回したとき、やっと気付いたのだ。自分の誤りに。
だが、彼は謝罪の言葉を述べない。
「何で、いるんだ? ここに。散歩に行ったんだろ?」
「まあ、いろいろとあってな……」
財布忘れ。
わざわざそんなくだらないことを話す必要はない。
「それよりも、まずは謝ることじゃないのかな? ウィリアム君よ」
「……早く課題しないと」
誤魔化す為か、机に向き直る。
しかし、そんなことをして黙っている人はそんなにいないだろう。
「てめえ。殴ろうとしてきたくせに、さらにそんなことをするのか……」
「すまん……。何ていうか、お前じゃないだろうと思って。つまりだな、こんな時期に寮に入ってくる奴は少ないから、何か危険な予感がしてな……」
「はあ……」
ランツァはため息しか出なかった。
そして、ウィリアムは決意をする。
恐ろしい、そして馬鹿げた決意を。
それは――
「よし。もういいや。焦っても仕方ない。どうせなら、残り少ない夏休みを楽しもう」
馬鹿げている、そうランツァは思った。