第二話 日常その二
ランツァは結局寮から出て、町の中を散歩していた。
そう。炎天下の中を。
「あぢぃ~」
情けなくも、そんなことを言ってしまう。しかし、彼にとってはそんなことはどうでもいい。涼しくなりさえすれば。
「もう八月の下旬。あと少しで……」
涼しくなる、というセリフすらも、この灼熱の地獄は奪ってしまう。
そんな中、天国という名のアイス屋さんを発見。
猛ダッシュで彼は駆け寄る。まるで、小学生のように。
「アイスくださ~い」
「はいよ。一つ百円ね」
と、その時。彼は重大なことに気が付く。
(財布、寮に忘れてきた……)
何とも言えぬ、取り返しのつかない重大なミス。彼はしばらくの間、硬直してしまっていたくらいだ。
「お客さん、アイスいらないのかい?」
「……」
何と言おう。
財布を忘れたなどという馬鹿げたことなど言えない。恥ずかしすぎて。
かといって、他に打開策でもあるのか?
そんなことを考えていると、
「お客さん、買わないなら他のお客さんに迷惑だから……」
「す、すみません。じゃあ、これを」
と、渡したのは先ほどもらったアイス。
そして、彼は猛ダッシュで……去ろうと思ったが、それはそれで変だと思い、無理矢理平静を装ってその場から逃げる。
「はあ……。何してんだ、俺」
彼はアイス屋さんから随分離れたところで、安堵のため息をつく。
「あいつには悪いけど、一旦戻って……いや、待てよ。コンビニとかスーパーに行けば、そこはクーラーの天国……」
と、独り言を言いながら、彼は考えをまとめる。
しかし、
「でも、何もしないのに店にずっといたら変だよな?」
それはもう、何か計画でもしているようにしかとれないだろう。そんなことをすれば、ランツァの運命はどうなっていたことやら……。
「やっぱ、戻るか」
そう言って、再び寮へ戻る。