第一話 日常その一
二〇XX年、近未来。科学技術はあまり進歩していない、近未来だ。
リヒト国という国がある。
今は八月二九日。
この国では、四季があるため夏の太陽が朝早くから照りつける。誰も、こんな暑い一日を望んでいないのに。
「うぁ……」
と、軽く欠伸をする少年が一人。
その少年の名は、ランツァ・ジェルン。黒い髪に黒い瞳といった姿をした少年。髪型は普段は少し逆立てているが、寝起きのためか、今はボサボサだった。服装は学生のためか、夏用の半袖カッターシャツに、制服ズボンに着替えている。夏休みだろうが何だろうが、彼の学校の規則では制服でいなければならないとのこと。年齢は十七歳で、高校二年生。ちなみに、誕生日は六月十三日。
今は夏休みの終盤である。
そして、彼は残り少ない休みを堪能するべく、できるだけ早く起きようと思う。
しかし、先ほど言ったように、灼熱の中で逆に寝られている方が不思議なのだ。
そのあまりの暑さのせいか、ついつい悪態をついてしまうランツァ。
「クソあちいな……」
それを聴く者が一人だけいた。
ランツァの親友、ウィリアム・ヘルスだ。青い髪に青い瞳をしている。髪型はツンツンした感じの髪型だ。年齢は十六歳と、ランツァよりも一歳年下の……とはいえ、同じ高校二年生なのだが。誕生日は、十一月三日。そして、なぜそのウィリアムが彼の悪態を聴いていたのかというと……。
実は、ランツァは今、学生寮にいる。夏休みにも拘らず。
その理由は、「家のこと」と彼はいつも言っていた。
そして、ウィリアムはランツァを一人にしては悪いと思い、いつもこの学生寮の同じ部屋にランツァと一緒にいるのだ。
その時、ウィリアムはこう言った。
「ほんと、暑すぎるよな……。心が折れちまいそうだぜ。さらに、この高校、ユースト高校は夏休みの課題という名の悪魔が多すぎる……。この世界は、泣き面に蜂でできてんのか? って言いたくなるよ」
「お前、まだ課題終わらせてないのか? それはまずくないか?」
「これでも頑張ってんだぞ。つーか、この高校、マジで鬼高校だろ」
「……でも俺は終わってるぞ」
「…………」
沈黙。
そして、
「はあ? 冗談だろ? 俺、お前がそんな頑張ってるとこ、見た事ねえ。一体、いつどこで……」
「お前が寝てる時に、だけど」
「畜生。裏切り者めえ」
よくある枕投げというやつが始まる。
だが、ウィリアムは決して本気で怒っているわけではない。少しふざけているだけなのだ。
そして、二つしかない枕を投げ合っていると、ウィリアムの方の枕がランツァに当たった。
ちょうど、顔面に。
「っつ~。やりやがったな」
もちろん言うまでもないが、ランツァも本気ではない。
「てめえはこんなことしてないで、さっさと課題をやるんだよ!」
言いながら枕を投げるランツァ。
だが、それはウィリアムが少し首をかしげるだけで、回避される。
「ん~。遅いぞ、ランツァ君」
「……上等じゃねえか、おい」
もう一つの方の枕を摑み、ランツァはウィリアムに向かって投げつける。
すると、今度は命中。
と、思ったらぎりぎりのところで、腕で防がれた。
「当たれよ!」
笑いをこらえながら、ランツァは言う。
一方、ウィリアムは、
「当たったら、痛いだろ」
と、普通すぎる返事をしたのだ。
「やめだ、やめ! こんなことするよりも、本気でさっさと終わらせろよ」
「まあ、面倒なことになるしな。やらなかったら……」
「……なあ、一つ質問してもいいか? やらなかったこととか、あるのか?」
いかにも、面倒になることを体験したように話すウィリアムが気になって、そんな質問をするランツァ。
「まあ……、一度だけな」
「一体、どうなったんだ?」
「堂々と話せる内容じゃないから……」
先ほどまでとは違い、真面目な顔で返答するウィリアム。
それを見て、ランツァはこれ以上は深入りしない方がいいと判断し、こう答えた。
「わかった。俺も無理には聞かない。別に聴く必要はないからな。ただ単に、興味があっただけだから」
それは自分自身にも言っているように聴こえた。
ウィリアムにだけではなく。
「んじゃ、俺は出てた方がいいのかな?」
「別にいてもいいけど、そっちの方が助かるのは確かだな」
机に向いながらウィリアムはそう言う。
「……素直じゃねえな」
それはいてほしいのか、それとも出ていた方が助かるということに対してなのか……。
「ランツァこそ、はっきりしてないよ」
そう彼は呟いた。
少し笑って。